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真相


 明るかった外は暗くなり、夜が訪れる。


 昼間は多少あった車通りもぐっと減り、この近辺は一気に静けさを増す。それぞれの家には明かりが灯り、中から人の気配が感じ取れる。気温は下がり、肌寒さを感じた。


 そんな中、私たちはあの子供部屋で座り込んでいた。口を閉じ、無駄な会話をすることなくただひたすら待っている。暁人さんが立ちあがり、窓から外の様子を観察した。私は毛布に包まれながら、ぼんやりとそれを見ていた。


 人々が寝静まるであろう時刻になったが、それでも私たちは寝ることなく待ち続けた。


 するとその時、遠くから悲鳴のような声が聞こえた。多分、右側。うちの家からではないのは確かだ。その声を聞いて、私たちは顔を見合わせ頷いた。


 恐怖におびえる声が騒がしくあったかと思うと、家の前に人影が現れた。慌てた様子で駆けてくると、反対側からも人が現れる。それを確認した暁人さんは、私たちに目で合図した。


 私と柊一さんも立ち上がり、部屋から出て玄関へ向かっていく。そして音を立てないように気を付けながら玄関の扉を開けてみると、言い争っているような声が聞こえた。


「……ですよ!」


「やっぱり、……なんじゃ」


「うちも……れて」


 内容までは全て聞き取ることが出来ないが、しゃべっている人たちが誰なのかは分かっていた。そして、暁人さんが勢いよく扉を開けると同時に、通る声で呼びかけた。


「そんなところで立ち話ですか。聞こえてますよ」


 びくっと体を強張らせ、人々が私たちを見る。


 三石家を囲む、袴田家、松本家、朝日野家の人たちだった。みんな夫婦揃って顔を青くしている。夫たちは初めてお会いする人ばかりだった。


 柊一さんがにこやかに、でも嫌味っぽく言った。


「家の前でこんなに堂々と話してたんじゃ聞こえちゃうよ? まあ、余裕がなくなったのかなあ。自分の家で幽霊が出ちゃったからびっくりして連絡取り合って集まったんでしょ」


 私は二人の後ろから黙って事の成り行きを見守っている。さっき聞かされた今回の事件の仮説は、私には到底理解できないものだった。


 みんなは焦ったように目を泳がせ、だがすぐに松本さんの奥さんが答えた。


「幽霊、ってなんですか? 別に私たちは」


 柊一さんが鼻で笑う。


「さっき悲鳴が聞こえたからね。こんな時刻に叫べば結構聞こえちゃうよ」


「あ、あれは虫が出て……」


「誤魔化さなくても大丈夫。朝日野さん、僕たちのことも知ってるでしょ」


 柊一さんは終始にこやかに話している。だが、だからこそ冷たさと恐ろしさを感じた。彼は強い怒りを抱いているのだと、誰でも感じることが出来る。現に、話を振られた朝日野さんはびくっと体を反応させた。


 私たちが新婚で、この辺に家を探しているという設定で会話をしたのは朝日野さんだった。


「え、ええと……新婚さんで……」


「そうそう! 僕と遥さんがそういう設定で。あの時は僕たちに話を合わせてくれたけど、そのあと変だな、と思ったんでしょ? それか、宇野さんの所で話を聞く姿でも見られちゃったのかな。あの時、遥さんがどこからか視線を感じたって不思議がってたけど、それはあなた方の誰かだ」


「……」


 暁人さんにバトンタッチする。


「きっと連絡を取り合って三石さんの家に様子を見に行くことになった。そこで松本さんが訪問してきた。弥生さんも訪問は初めてだ、って驚いてましたからね。そこで柊一と井上さんに会って、今度は弥生さんのいとこだという設定に変わっていたことで、俺たちが普通の人間じゃないって気が付いたんですね」


「あなたたちは不安だったんだろうねー。みんなで力を合わせて監視してた、ってわけだ。まどろっこしいな」


 柊一さんはやや強めにそう吐き捨てると、今度は袴田さんの方を見た。そして冷たく微笑んで見せる。


「そらちゃん、怪我大丈夫だったかな?」


 袴田さんの顔が一気に青ざめた。小さく震え、ガタガタと肩を揺らす。


「やっぱり……そらを家まで連れてきたのは、あなたたちだったんですか……」


「言っておくけど、車と接触しそうになって転んだのは僕たちは何の関与もしてないよ。たまたま遥さんが気付いてくれて駆けつけただけ。偶然だったけど、ラッキーだった。あの玄関に一歩足を踏み入れれば分かるから」


 柊一さんと暁人さんが小さく笑った。決して面白いからそうしたのではなく、ここにいる人たちに呆れている笑い方だ。


 袴田さんの家に入った時、私はただ気持ちのいい家だな、ぐらいしか感じず何も気づけなかった。でもやっぱり二人の目はごまかせないらしい。


 暁人さんがきっぱり言った。


「あの家には完全ではないものの、結界が張られている」


 人々は視線を落としたまま何も答えない。暁人さんは続けた。


「それだけなら、おかしな話じゃないんですよ。土地から考えても、あの家に霊が出没するのは当然のこと。袴田さんも怪奇現象に悩んで対処したのかな、で終わる話です。でもそれまでにおかしな点が多々あった。まず、それほどの体験があったというのに、オカルトライターという柊一に相談や世間話をすることは一切なく隠していた。そして、俺たちが中に入るのを凄い形相で止めていた。つまり、俺たちにばれると厄介だと思ったんでしょう。なぜか? それが一番の謎でした」


「そして、さっき暁人が言ったように、あの結界は完全なものじゃない。プロじゃなくて、素人がやったものだね。自分で調べたか誰かに助言されたかで、袴田さんがやったんじゃない? それなりの道具と手順を踏めば、結界は案外簡単に張れる。強度の違いは大きく出るけどね」


「つまり袴田さんの家にも、やはり霊は出没していた。となると、他の家も同じだと考える方が自然です。でも、みんな頑なに怪奇現象は起きていませんって顔をして誤魔化している。それがなぜなのか……すぐには分かりませんでしたけど、三石さんの家で感じる不思議な空気感を思い出せば、おのずと答えは見えてきました」


 柊一さんが後ろを振り向く。静かに建つ三石さんの家は、ぱっと見他と何も変わらない。でも、中では多くの霊たちと、どこか緊張感が張り詰めたような不思議な空気感があった。素人の私ですら感じてしまうほどの。


 柊一さんが屋根裏で見つけたものたちのせいだったとは。


「僕たち、結界とかはよく見たりするからすぐ気づいたんだけど、逆は見たことないからすぐに分からなかった。あれは『霊を集めるもの』だね」


 家を見つめながら柊一さんが言うと、聞いていた人々はみな項垂れた。



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