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女の子だったらよかったのにねえ


 ふと目が開いたとき、真っ白な天井が見えた。


 ゆっくりと視線を動かして周りを見てみると、はじめに使っていた子供部屋に戻ってきていたようだった。そして部屋の隅に、黒髪の男性の背中を見つける。


「暁人さん……?」


 小さな声を漏らすと、彼が振り返る。そしてほっとしたように眉尻を下げた。


「井上さん、大丈夫ですか?」


「あれ……私」


 体を起こすと、毛布に包まれていることに気が付いた。そして、窓の外はすっかり暗くなっていたことも。あの後、だいぶ長く目を覚まさなかったらしい。


「ああ、起きなくて大丈夫ですよ」


「すみません! ずいぶん寝ちゃってたみたいで」


「全然気にしないでください。水、飲めますか?」


 彼は優しく笑ってペットボトルの水を手渡してくれた。受け取り少し喉に流すと、玄関で感じた熱さを思い出し、少し体が震えた。暁人さんが私の顔を覗き込む。


「大丈夫ですか? 子供の霊と遭遇した、と柊一から聞きました」


「は、はい、ほんの少しだったんですけど……息が出来なくなって熱くて、パニックになっちゃって」


「火事で焼け死んだその子の体験を少し見せられたんでしょうね。辛かったと思います。……その、もしかして井上さんは」


 何かを言いかけたところで、暁人さんは口籠る。何が言いたかったのだろう、と首を傾げたが、彼は優しく微笑んだだけだ。


「ゆっくりしてていいんですよ。まだ解決とはいかなそうです。ああ、今柊一は三石夫妻と話していて、もうすぐ」


 言いかけたところで、ガチャっと部屋のドアが開かれた。立っていたのは柊一さんで、起きている私を見るや否や、わっと声を上げてこちらに駆け寄った。


「遥さん! もう大丈夫なの?」


 子犬みたい、と思ってしまった。それぐらい真っすぐで前回の笑顔は、癒しのほか何者でもない。心配かけてしまったのだなあと反省しつつ、お礼を言った。


「ありがとうございます。心配かけてごめんなさい」


 そばにしゃがみこみ、頬杖を突きながら柊一さんが言う。


「謝ることなんてないよ。怖い思いしたんだから当然だしね。あんなの見たら、女の子は倒れて当然だって」


「確かに、ショックな姿でした……」


「てゆうかさあ。思ったんだけど、遥さんって引き寄せやすいよね」


 ズバッと言われ固まった。引き寄せやすい? そういえば廃ホテルの時も私は部屋に閉じ込められたりしたし、ここでも女性の髪らしきものや子供に遭遇したのも、私だけ……?


「柊一! おびえさせるようなことを言うな」


 焦ったように暁人さんが言ったのを見て察する。さっき暁人さんが言おうとしてたことも同じ内容だったのだ、と。でも私が怯えると思い彼は言い躊躇ったのに、柊一さんはあっさり指摘してしまった、というわけだ。


 柊一さんは悪びれる様子もなく続ける。


「でもこれ本人分かっておいた方がいいと思うよ。これまでのことを考えても、あまりに遥さんが遭遇しすぎだもん」


「それは、まあ……」


「遥さんの家の体質も関係してるのかなあ?」


 彼は考えながら言う。私はと言えば、完全に混乱していた。引き寄せる? だってまさか、柊一さんたちと出会う前は幽霊だって見たことなかったのに。ああでも、黒いモヤは見えてたけど……。


 私はか細い声で答えた。


「でも、『いい物を引き寄せる幸運の家系』って母は言ってましたよ。霊を引き寄せるだなんて」


「うーん。そんないいオーラを持ってるなら、僕が幽霊なら気になって近づいちゃうからねえ」


「え、ええ……」


「それか、家系は全く関係なくて、遥さんが優しそうだから寄ってくるのかもよ。そういうのって結構あるんだ。助けてくれそうだなーとか、気持ちを分かってくれそうだなーとか、幽霊も選んでるってわけ」


 にっこり笑って言われたけれど、さすがに喜べない。項垂れると暁人さんが慌ててフォローに入った。


「そういう可能性もあるってことです! まだ分かりませんよ、たまたま続いただけかもしれませんから」


「そ、そうですよね……たまたまかも」


「とにかく、やっぱり俺か柊一がそばにいた方がいいのは変わらないってことですね。まあ一緒にいてもちょっと離れた瞬間に出会ってしまってるようですが……少なくとも、長い時間一人きりにはさせませんから」


 そう優しく言ってくれたので、少しときめいてしまった。そうだよね、怖かったけどさっきも柊一さんがすぐに気が付いてくれたし、幸運の体質もあるし、大事にはならないはずなんだよね。


 暁人さんは後ろを向き、そばにあったビニール袋を何やらごそごそ漁り、私に訊いた。


「何か食べられますか? かなり時間も遅くなりました、食事を取らないと。おにぎりやサンドイッチ、ゼリーにチョコレート。スープやサラダもあります。食欲がなくても少しは食べた方がいいかと」


「……じゃあサンドイッチで」


「はい、どうぞ」


 図書館に行った帰りに買ってきてくれたのだろうか。暁人さんは本当に気が利く人だなあ、と感心する。受け取ったサンドイッチは美味しそうだが、やはりあまり食欲がわかない。さっき、あんなものを見てしまったせいだ。


 ううん、でも食べないと。私は封を開け、無理矢理齧りつきながら暁人さんに尋ねた。


「暁人さんの方は何か分かったんですか?」


「ええ。とりあえず……これが被害者のリストです」


 彼はカバンから紙を取り出し、私に差し出した。覗き込むと、新聞記事のコピーらしきものが目に入る。


『寺田修(五十二) 寺田綾子(五十) 飯尾治(八十) 田辺昭一(五) 

 恩田美佐子(二十五) 西村喜一郎(七十九)』


「七人も……」


 つい呟いた。


 寺田というのは確か、その診療所を経営していた夫婦だ。そのほかにもさらに、四人の方が犠牲になっている。田辺昭一(五)という名前が気になった。さっき見たあの子は、昭一くんという名前だったのだろう。


 他にも若い女性、それから高齢の男性など、今までの目撃情報と共通している。やはり、火事で亡くなった人たちの霊が出没していると考えてまず間違いないだろう。


「宇野さんから伺った話と相違はありませんでした。やはりこの土地一帯に自宅と兼用した診療所があって、ある日突然男が放火。入口付近にガソリンを撒いて火をつけたそうです。火の回りも早く突然のことでパニックにもなり、逃げ遅れた方々が犠牲になりました」


「ひどい……」


「しばらく経ってから綺麗な更地になり、その後駐車場に。そして今に至る、と」


「でもやっぱり、この家にだけおかしなことが起こる原因は分かりませんね」


 私が尋ねると暁人さんが頭を掻いた。


「まるで分かりませんね。もう少し色々情報が必要です。まあまだ一日目なので、今日はこの辺で調査は終了しましょう。井上さんも疲れたでしょう? 詰め込みすぎても続きませんからね。三石さんがシャワーなど勝手に使っていいと許可をしてくれています。俺と柊一は朝シャワーを浴びてきたので、まあいいかと思ってますが、井上さんはどうされますか」


「そうなんですか? じゃあ私は」


 借りてきます、と言いかけて口を閉じた。


 それってつまり、霊が出まくるこの家で一人きりになり、無防備な恰好になるということか。二人はいつだって私のそばにいてくれたが、まさかお風呂までそうはいかない。


 しかも引き寄せやすい体質かもしれない、と言われたばかりの今、そんな勇気はない。


 項垂れて答えた。


「私も朝シャワーを浴びてきたから……今日はやめておきます。一人でお風呂に入るの怖すぎます……」


「そうだよねえ。僕か暁人が女の子だったらよかったのにねえ」


 残念そうに眉尻を下げて柊一さんは言うが、どっちかが女性だったら、私がイケメンから得られる癒しとパワーが減ってしまう。しかも絶対にとびきりの美女だろうし、隣にいたら自信なくしそうだから、二人は男性のままでいい、と強く思った。


「さすがにお風呂は一緒に入ってあげられないから、遥さん今日は諦めた方がいいね」


「諦めます……」


「となれば、腹ごしらえを済ませてさっさと寝ようか。夜に動くのは危険を伴うし、早く朝になるのが一番だよね」


 柊一さんは袋を漁り、やはりというかおにぎりを取り出して食べ始めた。私は手が止まってしまっていたサンドイッチを思い出し、それを何とか頬張りお腹に入れていく。暁人さんも適当に何かを食べ始め、三人でゆっくりとディナー、となった。


 その後、車に積んであった寝具を運び込み、床に敷いて寝ることになった。寝具と言っても軽くて薄めの物なので、ベッドに慣れてしまった自分がちゃんと寝れるか心配だったが、疲れもあったのかあっさり私は夢の中へ飛び込んでいった。


 



 

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