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食べる

 三人で前に向き直る。少し離れたところに立つ佳子さんが、じっとりとした目で私たちを見ていた。あふれ出る敵意に、ぶるりと震える。


 柊一さんが言う。


「勘違いしていた。人の命を奪っておきながら、その相手を死んでからも縛り付けているのがあなたの方だったなんて」


 彼の言葉に、佳子さんはにや~っと笑った。


『邪魔しないで。今、私は幸せだから。ずっとここで二人で暮らすの』


 冷たい声で佳子さんは言った。それに対し、暁人さんが答える。


「そこまでして相手をそばに置きたいのか」


『私たちは愛し合ってる。だから永遠に一緒にいる』


「愛し合ってたなら、西雄さんがダシテ、なんてメッセージを残すわけがないだろう。思い込みも甚だしい。相手の愛を得ていないことに気付いた方がいい」


 ストレートな暁人さんの言葉に、佳子さんがぴたりと止まる。そして怒りに燃えるように、ぶわっと表情をゆがめた。醜く、恐ろしい顔だった。


 それにも全く動じない柊一さんと暁人さんは、淡々と言う。


「怖い顔だねー。でも、その方が似合ってる。悪霊って感じの顔。そりゃ相手に嫌われるよ」


「相手を苦しめてまで自分の手に入れたいと思うのはとんだエゴだ、地獄に落ちた方がいい」


 二人の言葉に、佳子さんが甲高い叫び声をあげた。悲鳴のような、威嚇のような声だった。


 再び寒気と、頭痛に襲われ頭を抱える。負のオーラに当てられ、体が辛い。西雄さんの霊を閉じ込めていたくらい強い霊なのだから、私の体調に不調を及ぼすぐらい何てことないだろう。


 しかし柊一さんは、全くおびえるそぶりはなく、むしろ相手を睨みつけた。冷たい視線から、彼の怒りが伝わってくる。


 そして静かな声で言った。


「僕はね……人の命を奪うような最低な霊は、容赦しない」


 そう言った途端、彼の髪の毛がぶわっと舞い上がった。風なんて私はちっとも感じないのに、だ。そしてその体から、何かが再び出てくる。皮膚からざわざわと蜃気楼のように揺れながら、少し白みがかった不思議な空気が揺れている。それはどこかキラキラと輝いているように見え、一瞬綺麗だ、と思った。


 だがそう思ったのも束の間で、私はすぐに恐怖に慄いた。なぜかは分からない、柊一さんの体から出てくるそれらが、あまりに強い力で恐ろしかった。神々しさを感じつつも、私には決して手に負えない、近づいてはいけないものだと思ったのだ。佳子さんにしがみつかれた時や、部屋に閉じ込められた時とまた別の感覚だ。


 体の震えが止まらない私を、暁人さんが支えるようにしてくれる。柊一さんの髪がなお大きく靡き、同時にあのモヤみたいなものが巨大化し、彼の全身を包んだ。色のない炎のようだった。柊一さんが燃えてしまうような錯覚に陥って、叫びそうになるも、声すら出なかった。


 少しだけ見えた柊一さんの横顔は、苦しそうでもあり、楽しそうでもあった。眉間に皺をよせ、額に汗をかいているかと思えば、口元は笑っている。そんな複雑な表情をして佳子さんをじっと見つめていた。


「喰え」


 柊一さんが、誰かにそう命令した。


 その途端、彼の体から出ている白い炎のようなものが、一斉に佳子さんを襲った。ものすごいスピードで、彼女は逃げる暇もなく、一瞬で包まれる。


 とてつもない悲鳴が上がった。腹の底から出されたような、あまりに苦しそうな声で、私はつい耳を塞いだ。


 白いやつらは意思を持っているのか、佳子さんを確実に包んでいる。まるで普通の人間が火事で苦しむように、彼女は全身をバタバタさせ痛がった。そして呼吸苦になるように喉を押さえ、舌を長く出しながら暴れる。その皮膚がどろりと溶け出したのに気が付き、私はただ震えを大きくさせた。異臭までしてくる。


 そのまま佳子さんはどんどん溶けた。溶けたあとは何も残らず、あの白い炎たちに吸収されているようだった。ほんの数秒で全身が溶け切ったかと思うと、白い炎が完了したとばかりに柊一さんの元へと戻ってくる。彼の体に染み込んでいく。


 皮膚から入ってくるたび、柊一さんの表情が歪んだ。その綺麗な顔が苦痛に満ち、ああ溶けた佳子さんが今、柊一さんの中へ入っているんだと分かった。


 すべてが消えた瞬間、柊一さんががくっと膝を折った。暁人さんが慌てて駆け寄る。私はただ今見た光景が衝撃的過ぎて、その場からすぐに動けなかった。


「柊一!」


 柊一さんは意識を保っているようだった。そして西雄の方をゆっくり見る。


「まだ……あっちが、終わってない……」


 すっかり西雄……いや、西雄さんの存在を忘れていた。そっちを見ると、彼は血だらけのまま立ってこちらを見ている。暁人さんが立ちあがり、数珠を握りしめる。そしてじっと西雄さんを見つめる。




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