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対面



 そうこうしているうちに、再び一階へたどり着いた。まず、私が赤い物を見かけた風呂場へ戻ってみることになっている。階段を下りた私たちは、また瓦礫で足場の悪い床を踏みしめながら、ゆっくりとその場を進んでいく。


 三人で並び、ゲームコーナー前までたどり着く。ここの奥が風呂場になっている。私たちは無言でそこを通り過ぎようとした。


 途端、暗かった室内に、眩しいほどの光が満ちた。


 強い刺激に、一瞬目を閉じた自分だが、すぐにまた開いて周りの景色を見る。そして唖然とした。赤、黄色、緑と、カラフルな明かりが目の前にあったからだ。


 そしてほぼ同時に、音楽まで流れ出す。私たちはただ呆然とその光景を眺めめていた。


 電気なんて通っているはずのないこのゲームコーナーの機械たちが、一斉に動き出したのだ。


 古い型の物ばかりで、半分壊れかけているのか、光は変なリズムで点滅しているし、音はひび割れ、急に速まったりゆっくりになったりと安定しない。まるで無理やり誰かに動かされているようだ。とっくに動けなくなった機械が、苦しみながら動いているように見えた。ドライブゲームは画面がひび割れて映像が歪んでいるし、UFOキャッチャーは、中に残された汚れの酷いぬいぐるみたちが、光に当てられこちらを睨んでいるように見える。


 埃を被り、汚れたゲームたちが壊れたように一斉に動き出したその光景は、不気味という他なかった。


「な、なにこれ……」


 私はつい震え、そばにあった暁人さんの腕にしがみついてしまう。二人も厳しい顔をして、目の前の光景を見つめている。


 そして柊一さんが、小さな声で言った。


「いる」


 そのたった二文字が、自分をさらに恐怖へと突き落とした。


 ゆっくりと視線をゲームコーナーへ戻す。じっと明るいその場所を見つめ、異変を探す。スロットゲーム、ドライブゲーム、スウィートランド……一つ一つを震えながら見ていると、あるところで視線が止まった。


 UFOキャッチャーのガラスの向こうから、誰かが見ている。


 顔の上半分だけが見えていた。開ききった瞳孔に、黒髪。そしてそれらを覆いつくすほどの真っ赤な血が目立っている。


 あれは……男性ではないか?


 叫び出してしまいそうになったのを、柊一さんが私の口を押さえて止めた。同時に、暁人さんがポケットから何かを取り出す。真っ黒な数珠だった。それを手に、彼は構えるような体制になる。


 西雄一郎。やはりまだこのホテルに残っていた。


 相手の女性をストーカーし、無理心中した犯人。そして死後なお、佳子さんを離さず成仏させない、狂った愛情の持ち主。


 西雄はじっと私たちを見ている。生気のない真っ黒な瞳が恐ろしく、震え上がった。


 あんなのを、今から柊一さんは体内に入れるというのか。


 私が悲鳴を飲み込んだのを確認し、柊一さんが手を離す。そしてこちらに微笑みかけた。


「ちょっと見てくる。もし食べることになったら、遥さんには嫌な光景かもしれないけど、怖かったら目をつむってて」


 そう優しく言ってくれた柊一さんを、引き留めたくて仕方なかった。彼が食べた後浄化するためについてきたというのに、今更ながら、彼の危険な方法がいかに恐ろしいことか理解した。


 人を殺した悪霊なんか体に閉じ込めて、平気なはずがない。


 心配になり、彼の袖をつい握ってしまう。そんな私に気付いたのか、柊一さんがまた優しく微笑んだ。大丈夫だよ、と言っているようだった。


 彼は私の手をはらい、西雄に向かって歩いていく。心配で暁人さんを見上げるが、彼も眉を顰め、不安げに柊一さんを見送っている。


ーーこんな方法しかないなんて。


 ぎゅっと拳を握りしめつつ、隣の暁人さんを見上げて尋ねる。


「柊一さん、大丈夫なんですか? だって人殺しの霊を体内に入れるんですよ、いくら私が浄化できるといっても、普通に考えて危なすぎます……!」


「大丈夫かどうか、で訊かれると、あまり大丈夫ではないです。井上さんがおっしゃるように、悪意に満ちた魂を体内に入れることはとても危険で辛い。普通の人間なら、その黒い感情に呑まれてしまいますからね。でも、柊一はこの方法を何度も行ってきた。今は耐えて数をこなすしかないんです。それに、今回は井上さんがいるからかなり心強いですよ」


 私の方を見て優しく口角を上げた暁人さんだが、その表情からはやはり、どこか心配そうな気持が伝わってくるような気がした。私は静かに柊一さんの後ろ姿を見つめる。


 さっきからずっと思っていたけれど、どうしてこんな方法を取ってまでこの仕事をしているんだろう。他にも仕事はたくさんある。あれだけ綺麗な顔をしているんだから、モデルでだってやっていけるレベルだ。なのに、あえて選んだのが霊を食べる仕事、だなんて。


 複雑な思いで見守っていると、柊一さんがUFOキャッチャーのそばに近づいた。向こう側で私たちをじっと見ている西雄一郎は、消えることなくそのまま存在している。不気味な目でじっと柊一さんを見上げている。緊張感のあるその空気を、私は固唾を呑んで見守っていた。


 柊一さんが西雄一郎に何か言いかけた時、突如自分の足にぬるりとした感触が伝わってきた。べたりとした何かで濡れており、温度は生ぬるくて、嫌な感触。


 そして鼻につく、鉄の匂い。


 自分の足元に視線を落とした瞬間、叫び声をあげた。私の足に縋りついているのが、血まみれの女性だったからだ。


 真っ黒な黒髪は長く、その隙間からこちらを見上げる目が覗いている。今にも零れ落ちそうなほど見開かれ、白目は血走っていた。私の足首をしっかり握り、苦しそうに顔を歪めながら私を見上げている。全身真っ赤に染まり、黒髪ですら、血でところどころ固まって肌に張り付いていた。首に大きな傷があり、そこからまるで生きているように流血していた。


 その恐ろしい風貌につい声を上げてしまったが、すぐに思いなおす。この人は理不尽に殺され、そのあとも三十年ここから動けずにいる、哀れな人なんだと。私に助けを求めている。


 ……こんな姿にさせられただなんて。


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