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メッセージ

 柊一さんが暁人さんに言う。


「やっぱり、遥さんは無理なんじゃないかな。今日は撤収しようか」


「……そうだな」


 二人が相談しているのを見て、私は慌てる。それってもしや、私の浄化する仕事は無理ということだろうか。


「だ、大丈夫です! 怖かったけど、怪我とかそういうのは何もなかったし。私が油断したのもいけなかったんです。今日は最後まで付き合うって決めてきたので、このまま同行させてください」


 離れるな、とさんざん言われたのに、部屋の中へ入って行ってしまったのは自分の落ち度だ。ほんの数歩でも離れてはいけないのだとこれで学んだ。次からは気を付ければいい。


 確かにめちゃくちゃ怖くてたまらなかったし、どうやら自分も霊を見る能力があるらしいと分かってしまった。とはいえ、こんな中途半端なところで終えたくはない。あれだけ気遣ってくれた二人に申し訳ない。


 柊一さんは眉尻を下げる。


「でも、今までの経過を見るに、遥さんはここの奴と相性がよさそうだよ。狙われてるかの」


「ねらっ……いえ、もう絶対に二人からは離れないので大丈夫です」


 一瞬ビビってしまったが、しっかり自分を落ち着けて答えた。暁人さんがほっとしたように言う。


「強い人ですね。柊一、ここまで言ってくれるんだから、もう少し様子を見ようか」


「……まあ、遥さんがそういうならいいけどさ。んじゃあ、離れないように三人で手でもつなぐ?」


 にっこり笑って私に手を差し出したので、ついのけ反ってしまった。な、なんだと? 三人で手をつなぐ!? こんなイケメン二人に囲まれてるだけで凄いのに、手なんか繋いだら、私の呼吸は止まってしまう。


 暁人さんが呆れたように言う。


「それは無理だよ柊一」


「そ、そうですよ!」


「両手を繋がれたら、井上さんが懐中電灯を持てなくなる」


「……」


 突っ込みどころはそこじゃないんだけど……もしかして、暁人さんも天然入ってる??


 そして、柊一さんも納得したように頷いた。


「それもそっかー。じゃあ好きな方と手を繋いでおけばいいよ!」


「!? あのいえ、私なんかがお二人の間に立ってるだけで申し訳ないのに、手を繋ぐなんて本当、畏れ多いので! 大丈夫です! 繋ぐならお二人で!」


「え? どういう意味?」


「とにかく大丈夫です!」


 私がきっぱり断ると、ようやく柊一さんも引いてくれた。ああよかった、柊一さんにしろ暁人さんにしろ、手なんか恥ずかしくて繋げないよ。


 とりあえず、私の調査続行は決定したので、気を引き締めていくことにしよう。ちらりと後ろを振り返る。


 暁人さんが蹴り破った扉がひっそりとあった。木製の古い扉だったからできたことだ、もしあれが破られなかったらと思うとぞっとする。ずっとあの部屋に閉じ込められていたのだとしたら。


「暁人さん、足は大丈夫ですか? 怪我とか」


「ああ、別に大丈夫です。かなり脆くなってましたから」


「ならよかったです。あ、懐中電灯の電池……」


 私は手元を見下ろした。結局電池を拾うことなく外に出てしまっている。暁人さんが私に言う。


「ああ、俺が持ってきます。待っててください」


「すみません」


 柊一さんとその場に残り、暁人さんの帰りを待つ。だがすぐに、暁人さんの厳しい声が届いた。


「柊一、ちょっとこれを見てくれるか」


 私たちは顔を見合わせる。私は彼から離れないよう心掛けながら、そっと足を踏み出し、暁人さんが呼ぶ方へと向かった。扉は破られ開きっぱなしになっているので、もう閉じ込められる心配はないだろうが、警戒心を持ったままそろそろ近づいていく。


 部屋の中から、暁人さんが扉を見つめていた。私たちは彼に並ぶ。


 暁人さんが扉をそっと閉じると、そこに見覚えのない字が書かれていた。真っ赤な文字を見て、先ほどの血に染まった手を思い出す。ひっと自分の口から声が漏れた。


『ダシテ』


 扉全体に、そう記されていた。




 三人で一階に向かってゆっくり散策を続けていた。だが私はどんよりと落ちた気持ちのまま何とか歩いている状態だった。


 先ほど見た扉の文字が目に焼き付いて離れてくれない。悲痛な叫び声を聞いたような気がした。


 私が見た血まみれの手や、血で書かれたメッセージ。あの部屋で間違いなく事件が起きたのだろう。殺された佳子さんっていう方が、何かを伝えようとしているのだろうか。


 それにしても……衝撃が強い。


「遥さん、本当に大丈夫?」


 歩きながら、右隣で柊一さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。同時に、左隣からは暁人さんも声を掛けてくる。


「一旦車に戻って休憩しますか?」


 二人の顔を見比べ、精神を何とか保った。今、私を奮い立たせるものは、このタイプの違ういい男たちだけだ。彼らの綺麗な顔でも見て、アドレナリンを出すしかない。これまでの人生、こんな素敵な人たちに囲まれた経験なんてなかったじゃないか、それだけを考えろ自分。実際の所、私という存在は、二人には邪魔だと思うが。


「大丈夫です、お二人の顔を見て元気が出てきました」


「え、そんなもので元気出る?」


「そりゃもう!」


「変わってるね。普通おにぎり食べるとかしないと元気なんか出なくない? やっぱりさっきのカフェでおにぎりを作ってもらってテイクアウトしておけば」


 悔しそうに彼は言うが、残念ながら、私はおにぎりでテンションは上がらないんですよ。というか、そんなに上がるのあなたぐらいのものです。


 ……という声は心に秘めておき、私は本題に戻った。


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