過保護
「・・・くしゅっ・・」
「なんだよ、結菜。風邪か?」
「ううん。ちょっと鼻がムズムズしただけ」
本当は、夕べから悪寒がしてたんだけど
陽斗に言うと大げさに心配するから。
どうもあの日以来、陽斗は私に対して過保護過ぎる。
「一人ぼっちになった可哀想な結菜を、俺が守ってやらないと」
そんな風に思ってるのが伝わってくる。
私は、誰にも守ってなんかもらわなくて平気なのに。
1時間目は体育だった私は、体操服に着替えて体育館へと向かって歩いていた。
廊下の先から、荻原先生が歩いてくるのが目に入った。
なんとなく避けたい気持ちを抑えながら横を通り過ぎようとすると
いつもどおり朗らかな笑顔をした彼が声を掛けてきた。
「よう、結菜。1時間目は体育か?頑張れよ」
「先生もね」
そう言って通り過ぎようとした私の腕を先生が掴んだ。
「なにを・・・っ」
思わず彼の顔を見上げたが、探るような視線に耐えられずに目を逸らす。
「お前、熱あるだろ?」
「熱なんて・・・」
「嘘つけ」
右手は私の腕を掴んだまま、左手をおでこに当てる。
「やっぱりな・・手も熱いが、額もかなりなもんだ」
誰も・・・陽斗にだって気づかれなかったのに。
「先生?」
「ああ、渚か、ちょうどいい。お前、結菜を保健室に連れて行ってくれないか?」
声のするほうを見ると、クラス委員の佐々木さんが怪訝そうな顔でこちらを見ている。
「島崎さん、どうかしたんですか?」
「ああ。かなり熱があるみたいなんだ。」
その時、1時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「1時間目、始まっちまったな。じゃあ・・・俺が保健室に連れて行くから
お前は体育の先生にこのことを伝えておいてくれるか?」
「はい、分かりました」
体育館に走っていく佐々木さんの後姿を見送ると
先生が今度は私に向き直って言った。
「ほら、行くぜ結菜。」
「あの・・私なら一人で・・・」
保健室くらい一人で行ける。そう言おうとした私を有無を言わせない視線が遮った。
「黙って一緒に来るか、俺に抱えられて行くか、選ばせてやろうか?」
この男なら、私を抱えて保健室に行くこともやりかねない。
分からないようについた溜息に気づいたんだろう、先生の顔が少し綻んだ。
どうして私の周りには、過保護なヤツばかりいるんだろう。
諦めた私は、先生に付き添われながら保健室へと向かった。