始まり
「それで・・・荻原、何時の便で戻ってくるんだって?」
「14時35分成田着だから・・・そろそろこっちに着いても
いい頃だと思うんだけどね」
荻原先生がペルーに行って4年。
メールとたまの電話だけ。実際に会えたのは4年間でたった3回。
自分でも、よく待ってたなと思う。
寂しくなかったわけじゃない。
大学時代、何回か告白されるたびに
どうして傍にいてくれない人を思い続けてるんだろうって
自分で自分に呆れたこともあった。
それでも・・・
メールのちょっとしたニュアンスを感じ取って
「どうした?」って言ってくれるのは、幼馴染の陽斗は別として
先生以外に他にはいない。
遠く離れていても、先生が私のことを案じてくれているのは
いつも感じられたから。
だから、信じて待つことが出来たんだ。
4年前のバレンタインの後
お互いの気持ちを伝えあった私たちだったが
先生のペルー行きが決まっていたために
恋人らしいことなんて、何ひとつ出来ずに別れ別れになって。
一時帰国した先生に、ちょっとだけ聞いてみたことがある。
「先生は・・・その・・・平気、なの?
私が傍にいなくて・・・心配じゃないの?」
先生は、ちょっと困った顔をすると、すぐにいつもの笑顔になって言った。
「全く心配じゃないとは言えないな。だが、離れてよかったと思うこともある」
「よかった!?」
「ああ・・・・」
先生が、私の腕を掴んでグッと引き寄せた。
「先生っ!?」
「ずっと傍にいたら、こうせずにはいられない。そうだろ?」
真っ赤になって講義しようと開きかけた唇を塞がれて
私は結局、先生の問いに答えることができなかった。
先生が、もうすぐ帰ってくる。
「いい加減『先生』って呼ぶの、やめなくちゃね」
私は、窓から空を眺めながら、そんなことを考えていた。
いつか、貴方の傍にずっといられますようにと願ったことが
現実になるのが、嬉しいような、怖いような。
それでも、私は貴方となら、ずっと一緒に歩いていけるだろう。
もう、失うことを恐れて、なんでも最初から諦めていた結菜はいない。
「ただいま、結菜」
まるで、ちょっとそこまで行って帰ってきたような気軽さで微笑む先生の腕の中で
私は、自分こそが帰る場所を見つけたことに気づいていた。
荻原先生と結菜のハッピーエンドで終わった恋物語
如何だったでしょうか。
最初は、三角関係どころか、単なる幼馴染程度だったはずの陽斗の存在が
思いの他、私の中で大きくなってしまって
その分、荻原先生の魅力や、どうして結菜が完璧な幼馴染より
来たばかりの教師に惹かれるかなど、書ききれなかったのが残念です。
その代わり、陽斗で別の話を書くことができるかなぁ・・・なんて(笑)
数日前、ふと思いついてしまった新たな恋物語の連載を
始めてしまったので、暫くはそちらにかかりきりになると思いますが。
それでは、最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。
毎日の皆様のアクセスに励ましていただいて、完結することができました。
よろしければ新しい連載「愛すべきもの」(http://ncode.syosetu.com/n8185j/)も
ご覧になって頂けると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。