悪友
「しかし、お前が教師になるなんてな~」
「なんだよ。そんなに意外だったか?」
「いや、学生の頃から面倒見よかったし、職業選択としては意外じゃないよ。
だけど、お前の実家って代々続く大病院だろ?てっきり医者になるんだとばかり
思ってたからさ」
この手のことは言われなれている。
いつもどおりの返事が、スラスラと口をついて出た。
「うちの病院なら、跡継ぎがちゃんといるから
俺は好き勝手させてもらってるよ」
「ああ、そういえば弟も優秀だったな」
俺よりはるかになと笑うと、坂田はフンと鼻を鳴らした。
高校大学と、ずっと俺の成績を抜かすといい続けて
結局負け続けたことを、未だに根に持ってるらしい。
「ところで・・・可愛い先生や生徒はいるのか?」
「はぁ?何考えてんだよ、お前」
呆れながら首を振る俺に構わず、坂田が続ける。
「うちの職場、若い子が居なくてさ。
いいよな、女子高生選り取りみどりだろ?」
「お前なぁ・・・・・」
即座に否定しようとした俺は、屋上での結菜の笑顔が頭を過って
一瞬言葉に詰まってしまった。
長年の悪友が、そんな俺に気づかないハズがなかった。
「ははーん、その様子じゃ、いるんだな?」
「いるって、なんだよ!?」
「はは、ムキになるなって。
けど、まさか瓢箪から駒とは思わなかったな」
「おい、坂田!勝手な解釈するなよっ」
否定すればするほど、坂田のニヤニヤ笑いは大きくなっていった。
「勝手にしろっ」
これ以上何を言っても無駄だと悟った俺は
珈琲でも飲もうとキッチンへと向かった。
「やっぱりいい匂いだよな」
珈琲なんて飲めればいいという坂田だが
部屋中に漂いだした香りに、さすがに感心したように言う。
「豆にも拘ってるからな」
カップに淹れ立ての珈琲を注ぐと、「ほら」と坂田の前に置いてやる。
坂田は一口飲んで「美味い」というと、今日来た本当の目的だったんだろう
言いにくそうに口を開いた。
「お前・・・ペルーに行くっていうのは、本当なのか?」
「なんだ、もう知ってるのか」
「知ってるも何も、みんな、その話で持ちきりだぜ?」
全く・・・卒業して3年にもなるっていうのに
未だにみんな仲がいいことで。
そんな思いが顔に出たんだろう。
坂田の口調が少し尖った。
「お前だって、逆だったら心配するだろ?」
「ああ・・・・・そうだな。」
コイツに、誤魔化しや言い訳は通用しないだろうな。
俺は溜息をつくと、静かに話し始めた。