決心
私は、保健室へは行かずに屋上へと向かった。
屋上のドアを開けて、その選択が間違いだったことに気づく。
どこを見渡しても、荻原先生の姿が見える気がした。
私をからかう先生の笑顔。
楽しそうな笑い声。
先生はいつも優しかったのに
私は、意地を張ってばかりだった。
『くれるんだろ?その・・・チョコを、さ。』
「バレンタイン・・・どうしよう・・・・」
いなくなってしまう先生に渡しても・・・・と思う。
いなくなってしまうから・・・・とも。
たとえ、先生が私のことを、ただの生徒だと思っているとしても
それでも私は・・・・・。
「なんだ、サボりか?」
「先生!?どうして・・・」
「お前が保健室に行ったって聞いたから見に行ってみたのに
いなかったから・・・に決まってるだろ?」
そっか・・・・先生、探してくれたんだ。
「随分具合が悪そうだったって聞いたが・・大丈夫なのか?」
「・・・・・すみません」
「謝ることはないが・・・・」
言いながら先生が私の顔を覗きこんだ。
涙の跡を見られたくなくて、咄嗟に顔を背けたけど
一瞬遅かったようだ。
「・・・・・泣いてたのか?」
首を振る私の頬にそっと指を這わせて
涙を拭って言う。
「嘘つきだな」
「・・・・・・・」
「俺には言えないことか?」
先生がいなくなってしまうって聞いて泣いてました
そんなこと、言えるワケがない。
「まぁ、いい。休み時間までに気持ちを切り替えて
降りて来いよ?」
私の頭を軽く撫でると、先生が立ち上がった。
「先生?」
「ん?なんだ?」
私は心を決めた。
「バレンタイン、期待しててくださいね?」
先生は、私の言葉に一瞬ビックリしてから
本当に嬉しそうに微笑んだ。
「ああ。その言葉、忘れるなよ?
盛大に期待して待ってるからな」
ニッコリと微笑み返すと
先生は少し驚いた顔をした。
そりゃ、そうだよね。
いつも素直じゃなかったから。
残された日々を後悔しないように過ごそう。
この時、私はそう決心していた。