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告白

学校からの帰り道。

前方を歩く陽斗が目に入った。


いつもなら、呼び止めるのに

ううん、その前に一緒に帰ってるはず。

その考えは、昼休みの一件で落ち込み気味だった気持ちを

更に落ち込ませるのに十分だった。







「少し買い物して帰ろうかな」




陽斗の後姿を見ていられなくて

私は曲がらなくてもいい交差点を曲がって帰ることにした。








バレンタイン、作るものは決まってるけど

ラッピングの材料とか、いろいろ見ておきたいし。

ちょっとくらい、遅くなってもいいだろうと思った私は

駅の近くに新しくできたショッピングモールへと向かった。












「ちょっと買いすぎちゃったかな・・・」



スクールバックの他に、手提げの紙袋ふたつ。

いつもなら陽斗が荷物持ってくれるんだけどな。


・・・ダメダメ。陽斗にばっかり頼るのやめにしなくちゃ。

そんなことを思いながら歩いていると、大声で自分を呼ぶ声がした。




「結菜!」



「陽斗?」



「まったく、何やってんだよ。とっくに家に帰ってる時間だろ?」




どうして、陽斗が?

考えが顔に出てたんだろう。陽斗が説明を始めた。



「美奈子おばさんが心配してうちに電話してきたんだよ。

 結菜がまだ帰らないけど、うちに来てないかって。」



「そう・・なんだ。ごめんね、心配かけて」



「俺はいいけど、家に帰ったらちゃんとおばさんに謝れよ?」



そういって、私の荷物に手を伸ばす。



「いいよ。自分で持つから・・・」



一瞬の間ののち、陽斗が言った。



「・・・いいから、貸せよ。

 荷物持ちは俺の仕事なんだろ?」






相変わらず目を合わせてはくれないけど

いつもの陽斗が戻ってきてくれたみたいで

私はなんだか嬉しかった。










家の近くの公園の前まで来た時

陽斗が突然立ち止まった。





「どうかした?」



「あー・・・・うん、ちょっと寄り道してもいいか?」



「うん、いいよ」



美奈子おばさんにはさっき電話して、陽斗と一緒だって言っておいたから

少しくらい遅くなったって、もう心配することはないだろう。









私にベンチに座るように言うと、陽斗は荷物を私の隣に置いて

「ちょっと待ってろよ」と言い置くと、少し離れた自販機へと向かった。



戻ってきた陽斗は、私がいつも好きで飲むカフェオレの缶を手渡してくれた。

自分用には人気のコーヒーストアが出したブラックコーヒーを買ってきたらしい。




「ほら、あったかいぜ」



「ありがと・・・」





2人で並んでベンチに座ると、黙って缶を開けた。

少し飲んだところで、陽斗が口を開く。






「お前・・・荻原のことが好きなのか?」



「えっ!?」





何か話があるんだろうくらいに思っていたけど

まさか先生のことを聞かれるなんて夢にも思ってなかった私は

突然過ぎて、否定することもできずにいた。




「私が?荻原先生を?」




先生のことを思い出して、頬が熱くなる。

そんな私の様子を見ていた陽斗が苦々しげに言った。




「やっぱりな・・・荻原に好きだとでも言われたのか?」



「そんなこと、先生が言うわけないじゃない!

 先生にとっては、私なんてただの生徒でしかないんだからっ」






・・・そう。先生は私のことなんて・・・


昼休みの屋上での先生とのやり取りを思い出して

俯いてしまった私を、陽斗が引き寄せた。





「俺じゃ、ダメか?」


「陽斗・・・」



顔を上げようにも、ぎゅっと抱きしめられていて

身動きが出来なくて。




「ずっと、お前のことだけを見てきたんだ。

 お前が、俺の気持ちに気づいてくれるまで待つ気でいた」



くぐもった陽斗の声が頭の上から聞こえた。




「でも・・・もう、待ちたくない。

 誰にも、お前を渡したくないんだ」






ずっと私のことを見守ってくれていた陽斗。

いつだって、私の隣には陽斗がいた。






陽斗に抱きしめられたの、どれくらいぶりだろう。


そうだ・・・お葬式の後

一人で家に戻ってきた時、今みたいに抱きしめてくれたっけ。







「陽斗、私ね・・・」



口を開こうとした私を陽斗が遮った。




「いいんだ。待ちたくないとは言ったけど

 今すぐ俺の気持ちに応えてくれとは言わない。

 ただ、俺の気持ちを知っていて欲しかったんだ」




抱きしめていた腕を解くと、陽斗は何も無かったかのように

荷物を取り上げた。



「帰ろう。美奈子おばさんが心配する」






その後は、いつもどおりの陽斗で。

公園での出来事は、夢か幻だったんじゃないかってくらいだった。






「じゃあ、明日の朝、迎えに来るから」


「・・・・・うん」










私は・・・・いったい、どうしたいんだろう。

自分でも、自分の気持ちが分からなくなっていた。

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