思い違い
陽斗と田口さんの会話を聞いてしまったあの日から
当然だけど、陽斗とは顔を合わせ辛くて。
登下校も一人。学校でも一人でいることが多かった。
元々あんまり人付き合いのいい方じゃなかったし
陽斗の他には、親友と言えるのは杏くらいだけど
杏は去年、お父さんの仕事の都合で北海道へ転校しちゃってたから。
杏が今度のことを聞いたら怒るだろうな。
彼女は陽斗贔屓だから。
そんなことを考えながら歩いていた私は
声を掛けられるまで、荻原先生の存在にも気づかずにいた。
「どうした、結菜。このところ元気がないな。
まだ体調悪いのか?」
「別に・・いつもと同じですよ。
体調も特に悪くありません。」
私の顔をしげしげと眺めた先生は、信じられないなと言わんばかりに目を細めた。
「そうか?そういえば、騎士はどうした?」
「騎士?」
「陽斗だよ。アイツ、お前に何かあったらって
いつも目を光らせてるものな」
笑いを含んだ先生の言葉。
悪気はないんだろうけど、陽斗の名前を聞いて私の表情が曇る。
それを見て、先生は何かを察したらしい。
「ふーん。さては喧嘩でもしたな?
ま、仲がいいほど喧嘩するって言うしな。早く仲直りしろよ?」
もしかしたら、先生は私たちが付き合ってると思ってるのかな?
その考えは、私の気分を更に落ち込ませた。
先生にとって、私はやっぱりただの生徒でしかないんだ・・・。
「先生には、関係ないじゃない・・・」
「結菜?」
「担任だからって、ただの生徒のこと、そこまで心配してくれなくていいんだからねっ!」
先生に言葉をぶつけながら、屋上での陽斗の顔が頭を過った。
陽斗も・・・こんな気持ちだったのかな・・・・・。
しかも、先生にやつあたりするなんて。
「私・・・ごめんなさいっ」
私は、先生の顔をまともに見ることも出来ずに
その場から走り去った。
「ただの生徒なら・・・こんなに心配なんてするもんか」
先生の呟きは、当然私の耳には届かなかった。