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戸惑い
この感情が恋だと自覚したのはいつのことだろう。
見てくれは、好みじゃなかったはず。
いや、ルックスが悪いって言うんじゃない。
むしろその反対。
いい男って、それだけでなんだか胡散臭いから。
しかも、優しくて、面倒見がよくて、学校1の人気者。
そんなヤツ、好きになんてなりたくなかった。
・・・・・・・・・傷つきたく、なかったから。
「よう、結菜。今、帰りか?」
「そうですけど。それが何か?」
「ったく、相変わらずそっけないヤツだな。
たまには、ニッコリ笑って『先生、さようなら』って言ってみ?」
鞄持って校門近くを歩いてるんだから
帰るところに決まってんじゃない。
そう言ったらどうせ「可愛くない」って言われるのがオチだって分かってる。
そして彼がそれを待ってるのも。だから言ってあげない。
「さよなら、センセ」
それだけ言って横を通り過ぎようとした私に
怪訝そうな顔をした彼が、私にだけ分かるように呟いた。
「俺、何かしたか?」
何かしたか?
ううん。何も。
私が勝手にあなたを好きになっちゃっただけ。
そう言ったら、あなたはきっと、困った顔するんだろうね。