48話 自衛
「マリー様、」
「ん?どうしたの?」
「私、少し席を外します。」
「…また?どうして?」
不安そうな声で私に尋ねてくる、マリー様を見て私はとても心苦しい気持ちとともに大きな怒りがわいてくる。
当然それは彼女に向けてではない、彼女をこんな状態にした本人への怒りだ。
私だってできればここから離れたくはないが、さすがにこのことを尋ねないわけにはいかない。
「ちょっといろいろ尋ねないといけないことができたので」
「…ちゃんと戻ってくるよね?」
「…もちろんです。私はあなたのメイドですから。」
***
「あ、マオさん戻って…」
「メリーさん!!あれはどういうことですか!?マリー様に一体何をしたのですか!?」
「…っ!、」
私は玄関で待っていたメリーさんにすぐさま近づき、彼女の両肩をつかんで怒りの混じった声で彼女に尋ねる。
私の顔と声を見たメリーさんはすぐに私がなんのことを言っているのか理解したようで、その顔は引きつってすごく申し訳なさそうな表情をしている。
「まって、どうしたのですかルイ様!」
「…マオさん、いいの。これは私が悪いから。」
「…メリーさん」
「ルイさん、あなたが 今聞きたいのは彼女がなんであんな状態になったか、であってるよね。」
「そうです!早く話してください!!」
マオさんが止めに入るのを制止した彼女は、私の目を見てそう話しかけてきた。
彼女が本当に心の底から反省しているのも伝わってくるし、これも念のための確認なのはわかっているが頭に血が上っている私にとってはそれすらもどかしく感じてしまい、強く彼女に当たってしまう。
「…細かいところは私にもよくわかんないんだけどね、さっき港でマリーちゃんが私を説得し終わったときに私のちょうど目の前に雷が落ちてきてさ。落ちそうになって、それをマリーちゃんに助けてもらってからあんな風に…」
「…っ!!…なんで!!そんなことがこっちでも…どうして世界は彼女を苦しめるの!?」
どうしてだ!どうしてまた!?…それじゃあ、それじゃあー。
「私たちでは、彼女のあの状態を戻せない…。」
その事実にたどり着いてしまった私は、手の力が抜けメリーさんの肩から手が外れた。
「…ちょっとまって、え?どういうこと?ルイさんは何を知ってるの?」
「…ごめん、それについては話せません。」
「…そう、でもじゃあどうしたら彼女を戻せるの?」
「彼女が自力で乗り越えるか、忘れるのを待つしかないかと。」
「そんな…。」
私がそう、状況を説明するとその場にいた三人の顔が暗くなり空気が重くなったのが分かった。
それもそのはず、今までさんざん彼女からいろんなものを私たちはもらっているのに、肝心の彼女が苦しんでいるときは私たちは傍観しかできないのだ。
「…とりあえず、私はマリー様を連れて帰ります。メリーさんはとりあえずマオさんについて行ってください。…じゃあマオさんいろいろお願いします。」
「承りました、ではメリー様こちらへ。」
「うん、じゃあルイさん、マリーちゃんにごめんねって伝えといてください。」
「わかりました。では、また。」
また、という言葉にメリーさんは笑顔でお辞儀をしてマオさんについて行った。
***
それから私はマリー様とともに久しぶりに家に帰ってきた。
「おかえり!メリー!!マリー!!心配してたんだぞ!?」
「そうよ、私たち夜も寝れなかったんだから。」
扉を開けて最初に両親からの盛大なはぐをもらった。二人とも本当に心配してたようで手からは震えが残っているのを感じた。
「お母さん、お父さんただいま!ふふ、久しぶりのお家だ。わーい。」
マリー様は二人とのはぐを終えた後、久しぶりの我が家の中でハイテンションで走り回っている。
どうやら、やっぱり今の彼女は別に私たちについて忘れているわけではなく、きちんとマリーという名前やここが我が家であることなどは覚えているようだった。
「…なあ、ルイ。マリーのやつどうしたんだ?」
「…あとで事情はすべて話します。」
「わかった」
その明らかに今までと違うマリー様をやはりお父様方はすぐに見抜いた。さっきまでの安心した顔はまた真剣に娘を心配する親の顔になる。
…私はやっぱりこの家族は本当に優しく強い絆で結ばれているのだと改めても思った。
「…まあ、とはいえ無事に二人とも帰ってきたのだし、今日はお母さん大盤振る舞いしちゃうわ」
「「「わーい」」」
その日の夜はとても楽しい夜だった。平和で笑顔があふれる本当に久しぶりの夜だった。
そしてまた一つ、マリー様はこうなっていてもとっても優しくて笑顔があふれる人であることは変わりないということが分かった。
でもやっぱり、我が家であっても私が少し離れようとしたとき少しだけ彼女は不安そうな顔をしていたのだった。
そうして本当にいろいろあった一日は幕を閉め、私とマリー様は同じ布団で寝た。
お互いに不安を安心に変えながら…
***
「ん-、ふう。」
今日も朝の太陽の明るさとともに私は目を覚ます。最近は良く寝れなかったのだが今日は久しぶりに良く寝れた。
「さて、マリー様を起こす前にいろいろ準備をしなければ。」
そうして久しぶりの朝のルーティンをこなそうと私はその部屋から出て身支度をしに行こうと扉を開けようとした時ー。
「うーん、あ、おはようルイちゃん。今日もいい天気だね。」
「…え?」
いつもより早く彼女は起き、おはよう…と私に挨拶をした。そう、ルイに挨拶をしたんだ。
「マリー様…?元に戻ったのですか?」
「え?元に戻ったって何のこと?」
「いえ、わからないならいいんです。おはようございます。」
…寝て起きた程度で、あれが治るのか?…そんなことどうでもいいか。元に戻ったのならそれが一番だ。理由なんてゆっくり考えればいい。
…そうして主人が元に戻ったことをうれしく思っていたのもつかの間だった。私の喜びはすべて次の一言に粉砕された。
「今日は私の学校初日だよね。どんな学校なのかな?」
そのセリフを聞いて、私はお茶を入れようと持っていたポットを地面に落としてしまった。
ガシャンと地面でそれが割れて、お茶が服にかかる。しかし、服についたお茶の熱さすらその時の私は感じなかった。
だってそうだろう、彼女の言ったそのセリフはあの学園に入学する日の朝、言った言葉と全く同じだったのだから。
トラウマ、鬱は基本的に時間が癒してくれるものだ。けれど、あまりにつらすぎるトラウマは時間では直しきることができない。
では、その時はどうなるか。簡単な話、脳が勝手に忘れる。心が壊れる前に自衛本能が働くのだ。
…じゃあ、もしもその記憶を思い出してしまったとしよう、そうしたとき人の脳はどうするのか?
そう、また忘れるのだ。再び思い出さないためにここ最近の出来事を丸々と、
つまり、何が言いたいのかというと。マリー・グランヒルはこの学園で過ごした数か月を忘れたということである。
きりがいいから一回章を区切ります




