45話 メリー・マーガレット
私はマーガレット家に生まれた。お母さんとお父さんと私の3人家族で貴族の中では珍しくメイドを持たない家だった。
家もそこまで大きいわけでもなく、本当に一般的な中流貴族の家だったと思う。
「お母さん、あそぼー」
「いいわよ、何して遊ぶ?メリー?」
「んー、私、パズルしたい、」
「わかったわ。じゃあ持ってきてちょうだい。」
「はーい。」
私はうきうきで階段を上がって自分の部屋からお気に入りのパズルを引き出しから取り出す。
前にお父さんがプレゼントしてくれたものでもう20回は完成させてるぐらいのお気に入りだ。
「ふんふんふん、…ん?」
そうしてパズルを片手に握りしめて階段を鼻歌を歌いながら降りていると、玄関でお母さんが誰かと話している様子が目に入る。
「お母さん、何話してるのかな?」
気になった時の子供の興味というものは尽きるものがない。すっと階段を降り、すぐさまお母さんたちが話しているところの物陰に隠れ、耳を澄ます。
するとどうやらお母さんの話し相手は男の人のようでひどくもめているようだった。
「…から、いい加減しつこいって言ってるでしょ?私はもうそっちの家にかかわるつもりはないの」
「は?人がせっかく話に来てやってるのにその態度はなんだよ?俺はなんも難しいことは言ってねえよ。ただお前の持つ本をよこせばいいんだよ」
「あのさ?何回言ったらわかるの?あの本はおばあちゃんの形見だから渡せないって。」
「だから、俺らの方がうまく使えるから渡せって言ってるんだよ」
「ああ、もう埒が明かない!いい?私が生きてる限り私の所有物は誰にもあげないから。かえって!!」
「…チッ!」
「はぁ、まったくこれだからあの家は。」
お母さんが怖い顔でおこりながらそうつぶやきつつこっちに来る。見たこともないような顔をしていたお母さんを見て、少しお母さんが怖くなってしまった。
「あら、メリー聞いていたのね。駄目よ?人の話勝手に聞いたら。」
「…いつものお母さんだ。」
「いつものって…ああ、ごめんね。さっきのお母さん怖かったんでしょ?」
その質問に私はコクコクと首をふってうなずく。そうするとお母さんは私に抱き着いて、ごめんねと言いながら頭をなでてくれる。
さっきまでの表情と打って変わってお母さんの表情はいつもの優しい安心する顔に戻っている。さっきまで感じてた怖さもすぐになくなり、よかったという気持ちになる。
そしてしばらくの間お母さんの胸の中でぬくもりを感じていると、私は急に眠気に襲われてその場で寝てしまった。
そうして目が覚めると私は自分の布団の上で寝かしつけられていた。せっかくお母さんと遊べる機会だったのに寝てしまったことを少し後悔をする。
時計を見るとどうやらがっつり2時間も寝ていたらしい。と、なるともうすぐ夕飯の時間だ。
「寝ちゃったのは残念だけど、また遊べばいいもんね。」
お母さんも言ってたけどやっぱり世の中ポジティブにとらえるのが一番だ。もうそろそろお父さんも帰ってくるし、ごはんを楽しみにしよう。
じゃあ、ご飯ができるまでパズルを…あれ?…パズルがない。えっとまって、最後に私どうしてたっけ?
「…あ、そうか。さっき寝ちゃったときに普通に落としちゃったんだ。じゃあ、パズルはお母さんが持ってるのかな?」
なら、下に行って料理作ってるお母さんからパズルもらいにいこっと。
「…あれ?お母さん?いないの~?」
下に降りてお母さんからパズルをもらおうとしたもののなぜか台所にもリビングにもお母さんの姿がない。
いつもなら下の台所で料理をしているはずなのに…。どこ行っちゃたんだろ?
そうして、不安を抱えながら周りを探していると一枚の手紙を見つけた。
「あ、これお母さんからだ。おきてがみ?ってやつなのかな?」
椅子を使ってその手紙を手に取って、中身の内容を確認すると、そこにはこのように書かれていた。
ー愛しのメリーとお父さんへ。ー
ちょっと実家にカチコミに行ってきます。すぐ戻るので適当に麺でも茹でて食べててね。
追記:メリーちゃんごめん、寝かせるときにパズル置いておくの忘れちゃった。帰ったら渡すね。
…カチコミって何だろう?まあよくわかんないけどすぐに戻ってくるって書いてあるし、気にしなくてもいいかな?
それより、パズルお母さんが持ってるのか。じゃあ、お絵描きでもして待ってようかな?
その日の夜、結局お母さんが帰ってくることはなかった。
***
次の日、一通の手紙がうちに届いた。その手紙はお母さんからだった。
その手紙が届くやいなや私とお父さんは飛びつくようにその手紙を開いた。
いつもなら一日も家を空けることはないお母さんが今帰ってきていないのだ。しかもおき手紙には手紙ですぐに帰るって言ってたのにだ。だからこそ、何かあったんじゃないかと、あまりに心配で昨日の夜は私もお父さんもよく寝れなかった。
当然その手紙の宛先は私とお父さんだった。
ーメリーとお父さんへー
ごめーん、思ったよりカチコミがめんどくさいことになっちゃってしばらく家に帰れないかもしれないや。でも安心して、必ず実家に痛い目を見せてやるから!!
…なんともお母さんらしい文章だった。まあともかくともお母さんの安否は確認できたため一安心ではある。…しかしまあ、しばらくお母さん帰ってこないのか。
「…メリー、そう寂しがらなくてもいいよ。よっしじゃあしばらくはお父さんが遊び相手になってやろう。」
「…うん、わかった。じゃあ、リバースやろ。」
「よっし、どんとこいや!」
そうして寂しい気持ちをごまかすようにその日はお父さんとリバースを楽しんだのだった。
そうしておおよそ一週間後、ようやく帰れるという手紙をお母さんからもらい、私は心底うれしい気持ちになった。
その日の私はウキウキで、お母さんが家に帰ったら何して遊ぼうかなってことばかりを考えていた。
「パズルにしようかな?それかお父さんと戦って強くなったリバースで戦おうかな?あ、お絵描きもいいな!」
この一週間遊べなかった分、たくさん遊びたい。一週間でたまったいろんな出来事を話したい。
やっぱりそう思うと胸が興奮してどうしても待ちきれない思いになる。…もういっそのこと玄関前で待ってようかな?
早く帰ってこないかなと玄関周りを右往左往しながら、玄関の扉が開かれるのを心待ちにしている。
「まだかな、早く来ないかな。いつ帰ってくるのかな?うふふふ。」
そうやって私はお母さんを朝からずっと待っていた。…けれどいつまでたってもお母さんが帰ってくることはなかった。待ちきれない興奮は次第に不安になり、恐怖に変わっていってしまう。
「もしかしたら帰ってくる日見間違えたのかも、なんかでまた帰れなくなちゃったのかも。うん、そうだきっとそう。」
そう、心に言い聞かせごまかしてもそれは一時しのぎにしかならない。外もどんどん暗くなって本当に帰ってこないのか、どんどんどんどん嫌な予感が、最悪の想像が膨らんでいってしまう。
せめて手紙だけでも、と思ってもその手紙すら来る気配はない。もう、最初のわくわくは消え、私はもう玄関の前で居座り続けている。
そうしていると、ようやく足音が聞こえて誰かが来ているのがわかる。いつもならお父さんという可能性もあったが実は、今日お父さんは昼間から仕事に出かけており、帰ってくるのは明日といわれている。
だから、この場で家に来る人はもうお母さん以外ありえないというわけだ。
そうして扉が開かれようとしているとき、私は本当に喜びでいっぱいだった。
それまでの不安も飛んで、さっきまで泣きそうだったのが嘘のように興奮が戻ってくる。
しっかり、「おかえり」で迎えよう。そう、おもって私はゆっくり開かれる扉からお母さんの姿が見えるのを心待ちにしていた。
「…!おかえ…」
「すみません、お邪魔します。」
しかしそこにいたのは期待していた姿ではなく、スーツを着た一人の男性だった。
この人は見たことがある、たまにお母さんが話していたたまに手紙を持ってきてくれる郵便屋さんだ。
「…郵便のお兄さん、どうしたの?なんで私の家の鍵もってるの?」
「…すみません、緊急事態だったものてこの、合鍵を使わせてもらいました。」
「…なんで合鍵なんで持ってるの?」
「それがメリーさんのお母さんに私が緊急事態のときもしお父さんがいなかったらよろしく、と言われていまして…」
「…お、かあさんが緊急時の…とき?」
その言葉を聞いた時、嫌ないや最悪な未来が頭をよぎってしまう。もう声が震えてしまっている、これ以上もう聞きたくない、でも私は聞かなければならない。…だから、その…疑問を…言葉にする。
その疑問を聞いた時、郵便のお兄さんは下を向いて私の目を見て、本当に申し訳なさそうな顔をして話し始めた。
…でも、やっぱり聞きたくない
「メリーちゃん、落ち着いて聞いてください。」
いやだ…
「実はあなたのお母さんは…」
やめて…それ以上言わないで、
「先ほど交通事故に合われて」
「やめて!!!」
「…っ!…、交通事故に合われてお亡くなりになりました。」
「あ、……………………あああああああああぁぁぁあぁああああ!!!」
「!!め、メリーちゃん!!落ち着いて!」
それから私はしばらく放心していた。叫んで、泣いて泣いて、枯れるまで泣き続けて疲れてしまってずっと玄関の前で座っていた。
ただよく聞こえてなかったけど、お兄さん曰くお父さんは事故処理があるとかなんとかで帰って来ないことだけは聞こえた。
でも、こんなに傷ついているのにこんなに悲しいのに、もう十分泣いたのに、まだ悪夢は終わらなかった。
放心状態のまま夜が過ぎて、朝になってしばらくした時、目の前の扉はまた開かれた。
「うぃーす、お邪魔しまーす」
「お邪魔するわー。」
「…!?」
突然開かれた扉にいたのはお父さんではなく、全く知らない男と銀髪の女の子だった。
男は大体お母さんと同い年ぐらいで女の子の方は私と同い年か年上といった感じだった。
そんな二人はさも当然のように私の家に上がってくる。
「お、金目のものみっけ。もーらおっと」
「あら、いいわね。目的のものを回収するついでにいろいろもらっていきましょうか。」
「…は?」
何を…しているんだ?あれはお母さんが大事にしていたネックレスだ。なんであいつはそれを当然のように…
「け、なんだ?このダサい絵画?気持ちわりぃなあ。」
あれは、お母さんが趣味で書いてた絵画。きれいにかけたからって壁に飾ったやつ。
気持ち悪いなんてそんなことはない。あいつは何を言ってるんだ?
「んー邪魔だし破いて捨てとくか。」
「…っ!!やめて!!!」
「…ん!?なんだこのガキいつの間に!?」
男が大事な絵画を破ろうとしたとき、ずっと放心状態で曖昧だった意識が戻り、わたしはそれを止めた。
このまま大切なものを勝手に奪われたくないという思いで、意識を戻してしまった…
「それも、ネックレスもこの家のもの全部、私たちのもの!返してよ!」
「あ?なんだこいつ?何様だ?ガキが俺にとやかく言う権利はないんだよ。…おい、こいつどこのガキかわかるか?」
「…ん?あーそいつ?そいつはあの女の娘だよ。」
「あー、そういやいたなぁ。…んー、なるほどねぇ」
「…っ!!」
彼は私をにらみつけるように見てくると、私を見て何かを思いついたように少し笑う。
「なあガキ?この絵返してほしいのか?」
「当たり前だよ!それはお母さんのものだから!」
「へえ、なかなか威勢がいいな。でもな、世の中には礼儀ってもんがあるんだ。…ほら、返してほしんだろ?ならそれ相応の姿勢っていうもんがあるんじゃないか?子供でもそれくらい知ってるだろ?」
「…っ!!…わかりました。…返してくださいお願いします」
「は、よく言えたじゃねえか。あの女しっかり教育はできてたんだな」
そうして、私は土下座をしてお母さんの絵を返してもらうことをお願いした。プライドなんてどうでもいい今はお母さんのものを奪われる方がいやだから。
「ほら。約束の絵だよ。」
「…え?」
そうして、彼は私にその絵を見せ、そのばでそれをびりびりに破いて地面に投げ捨てた。
「さーて、次は何を…」
「…っ!!!約束と違うじゃん!!返してよ、お母さんの私の大切なものを!!」
「あ?お前なんか勘違いしてないか?もう、ここの家は俺の家なんだよ。だからここにあるのは全部俺の所有権なわけ。お前が口出しする権利はないんだよ」
「…どういうこと、?ここは私の家だよ?」
「残念、お前のお母さんが正当な跡継ぎの処理もしないで死んだからここはもともとの所有権があった、俺たちエレクトロ家のものなんだよ。」
…エレクトロ家って確か四大貴族の。お母さんがそこ出身て言っていた気がする。
いや、今はそんなことどうでもいい、じゃあ、もしこいつが言ってることが本当なら…
「…ぁ」
「あーやっと気づいた?そう、もうお前は指をくわえてみてるしかないんだよ。実に哀れなガキだぜ。」
…それからの時間は永遠にも感じられた。目の前で私の大切なものがすべて壊わされて、思い出を壊されて盗まれて、大切なものはすべてすべてすべてすべて、奪われた。
「あ、あったわ。探してた本。」
あ、あれはお母さんがおばあちゃんの形見って言ってた一番大切な本…。あれも奪われるんだ…。
あははは、私の大切なもの全部奪われちゃった。あははははははははは
「あ、そういやまだ名乗ってなかったわね、せっかくだし帰る前に教えてあげるわ。」
「いい、よく聞きなさい。私のなまえはクラメル・エレクトロですわ、では以後お見知りおきを。」
「じゃあな、ガキ。家を出てく準備しとけよ」
光も感じられないその世界で私の頭にはクラメルという名前だけがずっと残っていた。
***
それからのことはもうよく覚えていない。
気づいたら葬式にいて、気づいたら引っ越しをしていて、気づいたら私はまた学園を無心で過ごしていた。
お父さんもあの日、家に帰ってきた日からずっと仕事に打ち込んで家に帰ってくることがほぼなくなった。
でも、そんなある日一通の手紙とともに薬が送られてきた。内容はよく覚えてないが、確か忘れ薬をもらった気がする。
サルネ様が用意してくれたとか書いてあったっけ?
半信半疑で飲んでみたら、本当に心が楽になっていろんなものがまた見えるようになった。
だから、もうあの悲しみを思い出したくなくて、苦しみたくなくて私はその薬をずっとずっっと使い続けた。
でも、そんなある日一つの手紙を見てしまった。
「ん?なんだろうこれ?お父さんあての手紙だ。」
そう、手紙の内容は簡単。お母さんの死因についてだ。
お母さんは車輪が壊れたことによる衝突事故によってなくなった。けれど、その車輪の故障が故意的である可能性があるというもの。
そしてそれが「シャドウメモリー」率いるクラメルによるものである可能性がたかいということ。
そんなことが書かれていた。
…私の家を奪ったやつもクラメルって名乗ってた。…なーんだ、全部こいつのせいだったのか。
はははははは…
絶対に、許さない…
悲しみは憎しみに苦しみは怒りに変わる、薬の効果も意味がなく私はもうずっと復讐することしか頭になかった。
しかし、いくらつながりがあったとはいえ中流貴族である私とクラメルが出会うことは本来はありえないことだった。
でも、偶然私は高校でクラメルと同じ学校に通うことができた。
学校で始めてみたクラメルの顔はあの日みた顔とおんなじで彼女はずっと笑っていた。…チャンスはいくらでもあった、話しかける機会はいくらでもあった。
でも、私はできなかった。たとえ薬で忘れていても頭では忘れていても体はずっと彼女に恐怖を覚えてしまっていたんだ。
悔しくて、悔しくてしょうがなかった。こんなに席も近いのに私は彼女を見るだけでも恐怖がこみあげてくる。
復讐も果たせず、忘れることもできずただ時間だけが経って一か月が過ぎたある日、彼女はやってきた。
「どうもみなさん、こんにちわ。グランヒル家のマリー・グランヒルです。どうぞよろしくお願いします。」
彼女の笑顔はどこか似ていた。彼女の優しい雰囲気は同じだった。彼女の声は本当に落ち着いた。
そう、まるでお母さんと同じように…。だからさ、私彼女と友達になって見たいっておもったんだよね。
彼女の影にお母さんを重ねて…
メリーちゃんの過去終わり!
メリーちゃん編はもうすこしだけ続くよ




