16話 知っている。
「ー調子はどうだクラメル」
「はい、お父様。以前体調はよく、学業も以前1位でございます。」
「ふ、当然だ。エレクトロ家の人間が1位以外を取ることは許されない。約束の件も忘れるなよ」
「わかってますお父様」
遠くで聞いた感じやはりクラメルの前にいる男性は彼女のお父様らしい。こわ目の顔しているが顔はイケメン寄りのコワモテといった感じだ。
ただ、彼からは厳しさを感じるのではなくどことなく違和感を感じる。
「まぁ、姉様なら大丈夫だよなぁ、昔から頭だけは良かったし」
「そうね、私の妹ならこれくらい当然だわ。」
「ありがとうございます、お姉様、弟様」
次に、奥にいた二人の人がクラメルに話しかけていた。
聞いた感じどうやらクラメルの弟と姉らしい。
しかし、二人とも美形で間違えないのだが髪の色が銀色で顔もそこまで似ておらず、本当に兄弟なのか怪しいぐらいである。
「そうだ、最近学校ではどうだ。約束通り混血などの友達なんて作ってないだろうな」
「はい、もちろんです」
どうやら、彼女が人と関わらないのは親も関わっているらしい。普段の行動から本人が人嫌いなのは間違いないだろう。だが、おそらく彼女が人を寄せ付けない本当の理由はそこにあるのかもしれない。
「いいか、確認だがもしお前が友人を持つとしてもそれは純血の人間か、お前より頭の良い奴だけだからな」
「あは、お父様クラメルに友達作らせない気じゃん。だってこの子より頭のいい子いないんでしょ。」
「でも姉さん、クラメルにはそのぐらいの人しか似合わないよ」
「あは、確かに」
「ワハハ、我が息子ながらよく言えてるな」
気持ち悪い、あまりに気持ち悪い。私は彼女らのやりとりを見ているだけでとても気分が悪くなる。
友達が作れないようにしているのは自分だちなのにそれを笑って楽しんでいる。そして私は認識する。
そこにあるのは家族の団欒ではない醜悪に満ちた地獄の空間であること、あの家族が明らかに狂っていることに。
だが、それでもクラメルは笑っている。最初に見せた時と同じように違和感のある笑いをしている。
「あ、そう言えば。姉様、まだあれ持ってるのか?」
「…っ!」
「そろそろそんな子供っぽいこと卒業しろよな。
…あっ、そうだ今度俺がお姉様の部屋行って持って帰ろうか?」
「やめて!!あれにだけは触らないで!」
彼女は急に感情を露わにして声を上げる。さっきまでの様子と違いその表情は怒りに満ち溢れている。
その表情が作り物でないことは一目でわからほど彼女からは激情が伝わってくる。
"あれ"が何を指すかはわからないないがそれはクラメルのとても大切なものだと言うことはわかる。
「おお、怖い怖い。けど口の聞き方には気をつけろよな、俺らは姉様より上なんだから」
「いいじゃない弟、彼女にとってあれが唯一の思い出なんでしょう。」
「まぁ、確かにな。おい、姉様。今回は俺の寛大さにに免じて許してやるから感謝しろ」
「すみません。ありがとうございます」
彼女は綺麗に90度にお辞儀をして謝る。今の話から悪いのは確実に弟の方なのに何故かクラメルが謝るのだろうか?
私はそれを見ていると心の中でモヤモヤや、苛立ちが出てくる。
「おっ、そろそろ時間だな、おい、二人とも行くぞ。ークラメル、また来週この時間に来て報告会をするように。分かったな」
「はい、わかりました。本日はありがとうございました。」
そう言ってようやくこの話が終わり、彼らが馬車に乗ろうとした時何故かクラメルの姉がクラメルをちらりと見て止まる。そして何かを思いついたように笑みを浮かべる。
「待ってお父様、最後にこの子の瞳を見てから行きましょう。その方が面白いわ」
「姉さんってなかなか変な趣味してるな。あんな瞳見たいなんて。」
「いいじゃない、別に。それで、いいかしら?お父様?」
「確かにあの瞳を見てから行くのも悪くない。クラメル瞳をあけて笑って送り出してくれ」
「…わかりました」
そうすると彼女は普段開けない瞳を上げ二人を見ている。私はいる位置的に彼女の瞳がどんなものか見ることができない。
しかし、それを見た三人は薄汚い笑みを浮かべる。その笑みもとても気持ち悪い。
「はは、やっぱり気持ち悪い目。はぁ、満足したわ。
…さぁ、帰りましょう行きましょう。」
彼女はそう言葉を残して、三人とも馬車に乗っていってしまった。
クラメルは最後まで彼らを見届けた後こちらを振り向く。
すると私は彼女と目が合う。その時私は彼女の瞳を初めて見ることになった。
その瞳は薄い水色でまるで宝石のように美しい。しかし、その瞳に光は灯っておらず絶妙に視点もずれているように感じる。
ーそして、その時。私はようやく気づいた。
それは私の心の中モヤモヤの正体、そして彼女の秘密、それをサルネ様の時のように頭の中で繋がった。繋がってしまった。私は何故彼女の目がおかしいのか知っているのだ。
ここでもし彼女のような瞳を見た時普通の人は、あんな家族に対して疲れ切ってしまったのだと思うかもしれない。
しかし、それは正しくない。
ー私は知っている。彼女に感情がないことを。
ー私は知っている彼女の瞳には光がなく、焦点もずれていることを。
ー私は知っている。彼女の瞳にはある状態を示していると。
ー私は知っている。それが"絶望"だと言うことを。
そう、私は知っているのだ…
ようやく話が進む
追加:リアルが忙しいので投稿ペースが遅くなります