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ヒューマンドラマ

一輪の小さな花は確かに「ありがとう」と僕に言ったんだ

作者: たこす
掲載日:2022/11/03

こちらは汐の音様のフリーイラストからインスピレーションを受けたお話です。

挿絵(By みてみん)


「ねえ、花は好き?」


 突然、目の前に現れた彼女は唐突にその問いかけを僕にした。


 日曜日の昼下がり。


 公園で一人ベンチに腰掛けて読書をしていると、白ユリを持った女性が隣に座ってそう尋ねてきたのだ。


 とても綺麗な女性だった。

 クリッとした大きな瞳にくっきりとした眉。

 艶やかな唇に色白の肌。

 ただそこにいるだけで絵になる美しさを放っている。


 けれども、その表情にはまるで生気が感じられず、全体的な存在感が希薄だった。

 僕はゴクッとつばを飲み込んだ。


「花……ですか?」

「ええ、花」

「好きですよ?」


 特になにがというわけではないが、そう答えた。

 別に花は嫌いではない。


「そう……」


 女性はそう言うなり、黙りこくってしまった。


 いったい、なんなんだ。


 見れば彼女、少し寂しそうな顔をしている。


「何かあったんですか?」


 僕は読んでいた本を閉じて尋ねた。

 女性は僕の方をチラリと見たあと、ひとつの方向を指さした。


 そこには一輪のしおれた花が地面から生えていた。


 あたりには何もなく、その花だけが地面から顔を出している。


 けれども土の養分が足りないのか、日の当たりが弱いのか、はたまたその両方か。

 元気がなさそうにクシャッと頭から折れていた。


「あの花が……どうしました?」

「かわいそう」


 女性は言った。


「かわいそう?」


 確かに、まあ、かわいそうだ。

 この公園の周りは木々で生い茂っているし、花壇もあれば芝生もある。

 あの花だけがなぜかポツンとそこにある。


 おそらく何かの拍子にそこに種が落ちたのだろう。


 けれどもあそこは地面も固いし、日光もあまり射さない。

 植物が育つには不十分な環境だ。

 あの花が咲いてること自体、僥倖ぎょうこうだった。


「そ、そうですね。かわいそうですね」


 ただ、だからといってどうすることもできない。

 まさか移植しろとでも言いたいのだろうか。

 スコップもないのに。


 それに残念ながら僕はそんなに植物に詳しくはない。

 どこがベストポジションなのかもわからないのだ。

 変に移植して枯れてしまっては元も子もない。


「残念ですが、僕には何も……」


 僕の言葉は彼女にはまったく届いてないようだった。

 無感情のその目で、じっと僕を見つめている。


「………」


 正直、居心地が悪かった。

 僕は別に悪いことをしてるわけではない。

 けれども、なんだかすごく悪いことをしているように感じた。


「わ、わかりました。あの花の位置を変えればいいんですね?」


 そう言うと、彼女はかすかに(本当にかすかにだが)笑った。




 自宅に戻った僕は、本をかたしたあと、スコップを持って公園に行った。

 本を読んでいたベンチに彼女はいた。

 相変わらず感情のない表情で白ユリを持ちながら座っている。


「スコップを持ってきました」


 彼女はうんともすんとも言わなかった。

 多少なりとも何か言って欲しい。


 そう思いつつ、しおれた花のまわりをザクザク掘っていく。


 公園って市の管轄だったか。

 勝手にこんなことしていいのだろうか。


 そんなことを思いながら丁寧に地面を掘っていき、花を持ち上げた。

 そしてどこかいい場所はないか辺りを探す。


 すると女性はまた、ひとつの方向を指さした。

 小鳥たちがさえずる木々の根元だ。


「うん、あそこなら日当たりも良さそうだし、地面も柔らかそうだ」


 僕は持ち上げた花を静かに運び、木々の根元に穴を掘って植えた。

 そしてついでに持ってきたペットボトルの水をかけてあげる。

 本当は肥料もあげたかったのだけど、さすがにそれはなかった。


 まあ、元あった場所にあるよりははるかにいいだろう。


 大したことをしたわけではないのに、なんだか僕は一仕事終えた気分だった。


「移し変えましたよ? これでいいですか?」


 ベンチにいる女性に声をかけたつもりで振り向くと、なぜか彼女は姿を消していた。


「あ、あれ?」


 どこだ?

 どこに行った?


 時間にすればものの数分だ。

 その間に彼女の姿はすっかり消えていた。


「おかしいな」


 辺りを見渡して頭をかく。

 まるでキツネにつままれたようだった。


 彼女はいったい、何者だったんだろう。


 ポリポリと頭をかく僕の足元で、何やらささやき声がした。

 ぼそぼそと小さく何かをつぶやいている。


 下を向くと、植え変えたばかりの花が、なぜか僕に頭を下げてるように見えた。

 そして僕にお礼を言っているようにも感じられた。



「ありがとう」



 確かにそう聞こえた。

 不意に、ベンチに座っていた彼女とこの花が重なった。

 感情をあらわさなかった彼女が、今、満面の笑みを浮かべて僕に頭を下げている。そんな気がした。



「……まさかな」



 そう思いつつも、僕はその花をふんわりと指で撫でた。


 そして立ち上がると、今度は栄養満点の肥料を持ってこの花に会いに来ようと誓った。



おしまい

お読みいただきありがとうございました。

挿絵(By みてみん)

バナー提供:黒森 冬炎様

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか、いい話~! ( *´艸`)
[良い点] こういう不思議、好きです。 [一言] あ、やっぱり! きっと肥料は公園のボランティアがやってくれますよ!
[良い点] ちょうど今ぐらいの季節の、ぽかぽか温かい日だまりが目に浮かびました (*´ω`*) >本当は肥料もあげたかったのだけど、さすがにそれはなかった。 このくだりがなんだかたまらなく好きです…
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