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異風人

作者: GONJI

彼は小さな頃から真面目で、親の言うことをよく聞くいわゆる育てやすい子供として成長してきた

小学校や中学校の成績もトップではないにしろまずまず優秀で、1年間で学期ごとに交代するクラス委員長にも必ず2学期になると選ばれていた

つまり2番手の人気ということだろうか・・・


彼の通っていた高校は、そういう事もあってやはり2番手クラスの進学校だった

2番手クラスの進学校の学生は、自分は勉強すればできると自惚れている者が多く、結果日々の勉強を怠り、定期試験前の一夜漬け勉強でなんとか逃れてきている者が多い

進路は超難関大学には浪人生でも合格することはほぼないが、国公立または有名私学には浪人すればちゃんと収まる

そんな学生が多いところだ


彼も高校に入学してからはその伝統を受け継いで、青春を謳歌する学生となった

高校2年生になって彼は恋愛を経験した。


まず、挨拶代わりに彼の恋の遍歴は・・・・

初恋らしきものは小学校6年生の時、隣のクラスの学年で一番可愛い子だった

小学校3年と4年の時は同じクラスだったし同時期にクラス委員長と副委員長をした

恋愛感情なんてまだない子供の彼は、このころの男子の掟のようなもの、女子と仲良くすることは、クラスの男子からいじられるということを警戒した

こういう頃の少年って何か恥ずかしくて、女の子には気持ちを悟られまいと虚勢をはる

まあ、精神的には女の子の方が大人なので相手にされていないかもしれないが・・・


小学校6年生になった彼は休憩時間によく彼女のことを見つめていた

彼女にもその気持は伝わるようで、何故か彼女も彼を見つめていた

小学校卒業後すぐに一大決心して、ラヴレターを彼女に郵送した

でも、この淡い可愛い片思いはここで終わった


はずだったのが、数年後に・・・

神様のいたずらか・・・


実は彼は本来通学するべき地域の小学校ではなく違う地域だが家から近い方の小学校へ通学していた

当時彼の住む地域だけが特別に認められていた

彼が卒業して数年後、近くに本来通学するべき学校の分校ができるまでそうだった

中学校はさすがに本来通学するべき中学校へ入学した

なので、あの学年で一番可愛い片思いの彼女とは別々の中学校になってしまったのだ


違う小学校からきた彼はほとんど知らない顔の同級生と新しい学生生活を始めた

ある日、彼は校内で偶然同じ学年でとても可愛い女の子を見つけてしまった

彼の心に衝撃が走った

彼は驚きの顔で彼女をつい見つめてしまった、いぶかしげに彼女も彼の顔を見つめていた

校則により女子は髪の毛が肩につく長さを超えたら束ねないといけないことになっていた

彼女はツインテールだった

実は彼女は彼とは違う本来の小学校からの進学組で、小学校の時から学年で一番可愛いとの評判だったらしいと後で知った


しかし彼自身はいつも2番手でありながら、気になる子はいつも一番ばかりだ


数日後、彼は下校時に偶然彼女を見かけた

彼女も女友達2人と下校途中だった

「あれ?彼女の家は同じ方向なのかなぁ・・・」

彼は何故か得した気分になった

そして、翌日下校時にまた3人で下校している彼女を見かけた

その時に彼は心を撃ち抜かれた

彼女がツインテールから、ゴムを外してストレートにしていたのだ

「か・わ・い・い!」

不覚にも彼は彼女に驚きの笑顔を送ってしまったのだった

なんとも恥ずかしい・・・


そこから彼の片思いがまた始まった

実は彼女もそんな彼を意識するようになり、下校時は必ず髪の毛をツインテールからストレートにして、同じように彼の後ろを友達と3人でついてくるようになった


結果から言うと、それも片思いで終わった

その状況でも彼には告白する勇気はなかった

ほんとダメダメ君である


彼女は中学校3年生の夏に、家の事情で遠い町へ引っ越してしまった


さて、中学校3年生の正月、嫌でも入試が迫ってくる

彼にとって初めての将来をかけた試験だ

併願だった彼はまず2月に私立高校を受けた

一週間後に結果発表で無事合格!

まずは、行き先がなくなることはなくなった


これで来月の公立高校は志望通りの願書を出せる


受験生たちはこの頃には誰がどこを受ける?とかの話題で持ちきりになる

実は、あの小学校の時の片思いの彼女と同じ塾に行っているらしい同級生から

「おまえ彼女と同じ小学校だったよね?彼女のこと知ってる?」と聞かれた

正直、内心とても焦った「なぜこいつが彼女のことを話しだすんだ?俺のことを彼女から聞いたのだろうか?」

そうラヴレターの記憶が蘇ってきた

何事もないふりをして「知っているよ それで?」

「彼女はあの高校を受験するらしい」

そうか彼女はあそこを受験するのか・・・

それは彼が受験する高校ではなかった


さて彼はまだ全然知るよしもなかった・・・

ここから数年間継続する一大事が始まることを


公立高校受験の初日、その高校の指定された教室に入室した

指定された椅子に座り、しばし心の準備・・・

左後ろに視線を感じる・・・

彼は何気なく左後ろへ振り向いた


「えっ?・・・・・」

何事もない顔をしてはいたが、内心動揺しまくり「・・・何故そこにいるの?」

実はちょうど振り向いた方向の2列向こうの席にあの小学校の時の片思いの彼女が座っていたのだ

心の中で「あの高校受験するんじゃなかったの?」

もう、ラヴレターのことが恥ずかしくて恥ずかしくて・・・

「えーーーーーー」

となった彼だった


こんな時に・・・


長い恥ずかしい2日間だった



一週間後の合格発表の日、彼は少しドキドキしながら高校へ向かった

上級生たちがクラブの部員獲得のため大勢押し寄せていた

中学の時の先輩もいた


壁に貼り出された番号を見て・・・おお!あったあった!

ほっとした瞬間だった


入学手続きに必要な書類をもらい、必要な物品を購入したところで、すでにクラス分けされた名簿が貼り出されていることを知った

彼は、自分がどのクラスなのかを探しに行った

「えーと、1組はと・・・・お?早々名前があった 1組か・・・」

「さて、クラスメイトに誰か知り合いはいるかなぁ?」

「あいつと、あいつと、あいつと、あの子と、あの子と・・・同じ中学から結構多いなぁ」

「えっ?・・・」

彼は突然、思考停止状態となった

この青春真只中の大切な高校生活をどうしよう?

なんと小学校の時の片思いの彼女がまさかのクラスメイトになっていた

恥ずかしい恥ずかしい気まずい気まずい・・・


逃げる暇もなく新学期が始まった

あの彼女はやはり同じ教室にいた・・・

何事もなかったように、わざと距離を持って接することにした

しかし、しばらくするとやはり彼女の可愛さは学校中で評判になった


結局彼女とは距離を持ったまま1年間だけでなく3年間を過ごした


じゃあ、彼が経験した高校2年生の恋愛とは?

その彼女は、見た目は普通だった

しっかりと自分の考えを持つ女性だった

彼は初めて恋愛らしいことを経験した

恋は盲目

でも、手を繋ぐこともなかった

心は奪われていた


そんな恋は長くは続かなかった

彼は彼女から見事に振られた


どん底に落ちた

悲しくて悲しくてどこまで行っても悲しい


ある日彼は終わらない悲しみに、何故こんなに悲しいのか?と疑問を抱くようになった

彼の答えは「感情があるからだ」

そこから彼は感情を捨てて生きようとした

「生きるなら間違いのない生き方がしたい じゃあ正しいって誰が決めるの?」

彼は社会の常識と言われる価値観に疑問を持ち始めた


ドロップアウト


彼はそんな言葉で表現される人になってしまった


ただ、現在は外から帰還して普通に生活をしている彼だが、その経験から次のようなことを言っている


近づきすぎない それが流行りの生き方 離れすぎない それも流行りの生き方

人であふれる街へ出かけて行くだけで とても心地よい孤独とやさしさがある

すれ違うだけの人と繋がっていく人 違いも判らず通り過ぎていく

全て偶然だと済ませば意味などないのだろうけど 

全て決められた必然ならそいつの意味を知りたい


始める前から答えがわかって諦めている けれど欲望、そいつだけは消えない

ぶつかり合っても当然なほどのエゴイズムに仮面をかぶせて見た目だけでかわせてる

いい人でいることに勇気がいることの不思議 

何でも与え続けられているから全ては自分のものと勘違いするのは誰のせいなんだろう

自分は許されると思っているから他人を許せない


そしてそんな人を異風人というのではなく

そんな時代を憂う その人こそ今の異風人

心安らぐ日はいつ来るのだろう


彼の儚い可愛い片思いの物語が、その後の恋愛を経験したことで、彼に急転直下の展開を見せた


誰も多かれ少なかれ悲しみを知っている

悲しみがあるから喜びもひとしおなのだ


慈しみを育んだ人たちこそ、この現在の殺伐とした世の中では異風人なのかもしれない


でも彼はそんな異風人に憧れている


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