流れた願い
12月のある日、流れ星が流れた。
それは寒い寒い夜のことで、ターニャはかじかむ両掌を思わず伸ばしてしまうくらい綺麗な綺麗な星だった。
実を言うと、ターニャは流れ星というものを知らない。
見たこともないし、教えてくれる人もいなかった。
けれど、いつかどこかで聞いた、
“美しく煌めいていて願わずにはいられない”
という言葉に、思わず納得してしまうくらい綺麗だった。
だった、けれども。
なんだか、観ているとすごく哀しい気持ちになってしまうのだ。
キラキラと流れていく星はターニャの考えている間にも流れ続けている。
気になってついに聞いてしまった。
「ねえねえお姉さん。どうして星を流しているの?」
その人は一瞬驚いたように目を瞬かせた後、またはらはらと星を流していた。
「私の星が堕ちてしまったの。」
「ふーん。どうして堕ちてしまったの?」
「わからない。わからないわ。
でも、堕ちてしまったの。」
「もう、何もかも手遅れ。もう、堕ちた星は戻ってこないわ。」
ターニャには言っている意味がよくわからなかった。
けれどもあんまりにも沢山の星を流すものだから、思わず言ってしまったのだ。
「じゃあターニャがお姉さんの星がもう一度できるように星に願ってあげる!」
お姉さんは不思議そうな顔で言う。
「星ができるように、星に願うの?」
「うん!だって、流れ星って”美しく煌めいていて願わずにはいられない”ものなんでしょう?
願っても星は叶えてくれないかもしれないけど、願うだけなら心の自由だもの。」
「心の自由…」
「うん。それに、お姉さんはそんなに沢山流れ星を流しているのだから、一つは気まぐれにお姉さんの星になってくれるかも」
ふふっ、そうね
お姉さんは微笑みながらポケットから出したハンカチーフで星を拭った。
「あれ?星はもう出さなくていいの?」
「ええ、もういいの。ありがとう、元気が出たわ。」
「?よくわかんないけど良かったね。」
「ええ。…そうよね。星は気まぐれだものね。心は、自由だものね。」
「ううん?」
ターニャはよくわからなくて首を大きく傾げた。
それを見たお姉さんが笑いながら、
「貴女にお礼がしたいわ。もし良かったら、今晩うちでご馳走させてくれないかしら」
「いいのー!?やった!今日はご飯食べれないと思ってたんだ!」
お姉さんは、少し悲しそうな顔をしてから、「行きましょう」
と言って2人で道を歩き出した。
「今度、貴女のお家に行ってもいいかしら。」
「うんいいよ。皆んな喜ぶと思う。」
ターニャの住んでいる空き家は孤児院なんて大層なものでは無いけれど、身寄りのない子供達が沢山集まって、支え合って生きている。
お金もないし、こんな冬の日はひもじくて凍えてしまいそうだけど、なんとか年長組で働いて、今はもう使われていない毛布などをかき集めて、みんなで固まって寝るのだ。
「今日はいい日だなぁ。ご飯も食べられるし、流れ星も見られたし」
「あ!お姉さん、ご飯、家に持って帰ってもいい?今日は皆んな何も食べてないんだ。」
「ええ、いつもいっぱい作って余っちゃうの。
沢山食べて、沢山持っていって頂戴ね。」
えへへ、ふふと笑い合う2人の間は周りの寒さに負けないくらい強い暖かさが生まれていた。
2人を優しく照らす街灯の上では一つの星がキラリと流れていた。