第7話 松坂の答え
この後、俺が訪れた過去の場面は、それは本当に散々なものだった。バンドの低迷、そして解散。事務所を移籍し、メジャーレーベルでソロデビューを果たすも、人気低迷。結果、レコード会社と契約打ち切り。そして、今のインディーズでのソロ活動。
右肩下がりの人生グラフ、右肩上がりの荒み具合……。
だけど、そんな俺に対しても、手を差し伸べようとした人、アドバイスを送ろうとした人は、過去の場面に存在していた。それなのに、俺は……。
過去への旅を終えると、俺達二人はフィルムの外である暗闇の世界に再び戻って来た。
「やれやれ、大変な旅だったのう」
老人は俺を気遣うように言った。
「それで、決めたかの? 修正しようとする過去の箇所は?」
「ああ、決めたよ」
俺はもう……選択を間違えない!
「……そうか。それはどこなのじゃ?」
「それは――」
俺は一呼吸を置く。
「どこも修正しないことに決めたよ」
「何と⁉」
予想外の答えだったのだろう。老人は驚嘆した表情だ。
「本当にそれでええのか?」
「ああ。こう振り返ってみると、俺の周りには様々な人がいた。見えない所で、俺を輝かせようとしてくれていた人。俺を愛してくれた人。俺の歌で元気付けられた人。――そんな人達を、俺の過去を修正することで影響を及ぼしたくはねえ。もしかすると、悪影響が出るかもしれないのに」
「ほう。他に理由は?」
「そうだな……よく考えてみたら、幾ら今が至ってなくても、振り返って修正なんて糞ダセえ。そんなの、全然ロックじゃねえし」
「ふぉふぉふぉ」
老人は笑みを浮かべる。
「よし、合格じゃ」
「合格?」
老人からの突拍子も無い言葉に、俺は面を食らってしまった。
「そうじゃ。実はの――」
老人は真剣な表情に切り替える。
「お前さんが予定よりも大幅に早く、こちらの世界に来た結果、死神達の間でお前さんをどこの界に送るか、非常にモメたんじゃ。受け入れ予定の楽の界では、受け入れ準備がまだできとらんから、他の界を担当する死神が『こっちに寄こせ』と煩くての。――特に獄の界の担当は。そこで、テストで決めることにしたのじゃ」
「テスト?」
「そう、テストじゃ。お前さんに過去を振り返ってもらい、真摯に反省して『修正しない』と選択したら合格。『修正する』を選択したら不合格で、その場合は楽の界以外にお前さんを送るつもりだったのじゃ。――おそらくは獄の界じゃが」
「マジかよ……」
「何せ、お前さんの魂は黒ずんでいたからの。今では少しは反省したのか、半透明といったところかの。――もう少し現世で徳を積んで、完全な透明にして来るのじゃ」
「えっ、それって甦れるってこと?」
「そう、合格特典じゃ。因みにここでの記憶は、現世に戻ったら忘れとるからの。それじゃあ達者でな」
老人は俺の肩をポンと叩いた。それを、俺は笑顔のサムズアップポーズで返した。
「ああ。69といわず、96まで生きてやるぜ!」
「ふぉふぉふぉ、それは楽しみじゃ」
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