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第4話 松坂の過去1

 瞬間移動のようにして、辿り着いた先……そこには、服装からして20歳前後の俺と、当時組んでいたバンドのメンバーの姿があった。場所はレコーディングスタジオだろう。

昔の俺は歌詞を書いていて、他の二人のメンバーは楽器の音を鳴らしている。


「松坂、この曲の歌詞はまだなのか?」


 和月(わづき)が昔の俺に語り掛けた。和月はギター担当でテクニックの方は微妙だったが、メロディーセンスが良く、バンドの大半の曲が彼の作曲だった。


「まだ途中。あー、ラブソングの歌詞なんて書きたくねえ」


「そうぼやくなよ。先ずは売れ線の曲でヒットを飛ばさないと、何も始まらないんだぞ。なあ、安藤(あんどう)?」


「そうだ。つべこべ言わずに書け」


 安藤も続く。安藤はドラム担当で、無口な大男だが腕は確かだった。


 俺等三人は同じ音楽事務所に採用され、事務所主導でバンドを結成させられた。まあ、採用経緯が似た者同士を適当にくっつけたのだろう。俺はボーカル兼ベース担当。


 ただ、メンバー其々が好む音楽ジャンルは異なっており、俺達はよく衝突を繰り返したものだ。――特に和月とは。俺はハードロックを好み、彼はポップロック。そりが合うはずも無い。


 こんな言い合いも、まだ結成直後の俺達にとっては日常的なことだった。


「あーうるせえ。外で一服してくるわ」


 昔の俺はそう言い残し、足早にスタジオから出ていった。


「松坂! ……全く仕方のない奴だ。でも、奴の作詞センスと歌唱力だけはピカイチなんだよな。そこに俺の曲が合わされば、絶対売れるバンドになると思うんだが。そう思わないか、安藤?」


「ああ、奴は才能がある」


「だよな。何とか俺達二人が頑張って、奴を輝かせてやろうぜ」


 二人はそう言い合うと、それまで以上の熱量で制作作業を進めて行く。


 その傍で、俺はただ呆然となっていた。初耳だったのだ。彼等は、俺の前ではそんなことを一切言わなかったのだ。


「どうせ、裏で悪口を言いまくっていると思い込んでいたよ……」


 俺は老人に偽らざる心情を吐露した。


「お前さんが彼等の気持ちを理解していたなら、もっと良いバンドに成っていたかものう。それこそ、今でも人気が維持できるくらいの」


「今でも人気……過去の修正か……」


「まあ、そう結論を焦らんでもよい。過去への振り返り旅は始まったばかりなのじゃから」


 老人の言葉に、俺は無言で頷いた。


「さて、次の場面に行こうかの」


<お願い>

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