第1話 ソロシンガー松坂の現状、そして危機
今日のライブもしけてやがる……。収容人数300人前後の小規模なこのライブハウスでさえ、半分は空席だ。新規の客なんてこれっぽっちで、目につくのは俺が人気のあったバンド時代からのファンばかりだ。だが、過去のバンド時代の曲は一切演奏しないせいか、そいつらは特にノリが悪い。
「もう少しノレよ」
そんな嘆きにも近い心の声を、俺は押し殺す。後はアンコールまで一気に流れ作業。会場のボルテージは上がらぬまま、ライブは終演した。
終演後、俺はライブの感想を肌で知りたくて、ステージ裏で客の様子を隠れ見した。やはりなのか、満足気な表情で帰っていく客は殆ど見当たらない。そんな中、常連の黒髪ロングの女、通称『貞子』は、ホラーチックな不気味な笑みを浮かべながら帰っていった。
「けっ。メシマズだな」
捨て台詞だと分かっていても、吐くしかなかった。
控室に戻り、バックバンドのメンバーと手短な反省会と打ち上げを済ませると、俺は二次会には参加せず、一人タクシーで帰路に就いた。
住んでいるマンションに帰宅し、テーブルとソファーとテレビしかない殺風景なリビングに明かりを灯す。キッチンにある冷蔵庫から、イカの塩辛と日本酒を取り出し、テーブルの上に置いた。俺はソファーに深々と座り、イカの塩辛を肴に晩酌を始めた。
数年前まで同棲していた彼女と別れて以来、晩酌はいつも俺一人だ。結婚歴が無いので、子供もいない。来年で40歳。孤独な隙間風がビュウビュウだ。
一人の寂しさを紛らわすために、取り敢えずテレビをつけた。画面に映るのは音楽番組で、名も知らないアイドルグループが曲を披露している。右上のテロップには大人気の文字がある。
「見た目も曲もセンスねえなあ」
ディスる対象はアイドルというより、その先のマリオネットの糸を動かしているプロデューサーだ。こんなのでも売れているのは、全てが宣伝のおかげだ。――クソ、もう寝る。
俺は不貞腐れながらソファーに横たわる。
ドクン――。
その時、急に俺の心臓の鼓動が爆音を立てた。
く、苦しい……。
激しい痛み、呼吸も困難。ただのたうち回るしかない。だが、すぐに身動き一つ取れなくなった。
やべえ、俺、このまま死ぬのかな……。
焦燥感が無情にも体温を奪っていく。
「…………」
俺は意識を失った。
<お願い>
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