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95 話題選び

 千聡への誕生日プレゼントを購入するという目的は果たしたが。まだ帰るには早い時間だったので、潮浬は自身が言う所のデートを継続しようとしている。


「ねぇ潮浬。どこかってどこに行くの?」


「そうですね、銀行へ行くとかどうでしょうか?」


「銀行? なにか用事あるの?」


「陛下と私の結婚資金を積み立てる口座を作って、『300万円貯まったら結婚式を挙げよう』みたいな企画を立ち上げるの、ステキだと思いませんか?」


 ……それって、結婚詐欺の常套じょうとう手段じゃないだろうか? 目標額に達する直前に、通帳持って姿を消しちゃうやつ。


 ――だがこの場合は、即日目標額を達成して結婚を迫られるパターンな気がする。それはそれで危ないな。


「ええと……口座はもう持ってるから遠慮しとこうかな」


「そうですか……では、家具を買いたいので付き合っていただけませんか?」


「家具? それは別にいいけど、もう引越して来て2ヶ月くらいになるのに、まだ揃ってなかったの?」


「いえ、揃ってはいるのですが。せっかくなので今ある物は全部捨てて、陛下と二人で選んだ物だけで統一したいなと思いまして」


 ……相変わらず、言う事が重い。


 とはいえ断る理由もないし。結婚式費用を積み立てる口座を作りに行くよりはマシなので、ついて行って小一時間一緒に家具を選ぶ。


 一人暮らしのはずなのに、二人用の大きいベッドを買っていたのは見なかった事にして。一段落ついた所で、お茶を飲む事になった。



「…………」


 潮浬の案内で百貨店フロアにあるちょっと高級そうなカフェに入り。運ばれてきたカフェオレを少しずつ口に含みながら、潮浬の様子を見る。


 ちなみにこのカフェオレ。潮浬に『一応毒見を』と言われて一口飲まれたので、口にするたび間接キスでちょっとドキドキする。


 一方潮浬はアイスティーにほとんど口をつける事なく、嬉しそうな笑顔を浮かべながらじっと俺を見ている。……ドキドキしているのを悟られているのだろうか?



 ……無言は気まずいのでなにか話題をと思うが、なにを話せばいいのだろう?


 店員さんはカウンターへ戻り。店内にはボリュームは絞ってあるものの音楽が流れているので、小声で話せば内緒話もできそうではある。たとえば魔族の話とか……。


 とはいえ、それだと千聡の話になってしまう訳で。潮浬的にはデートであるらしいこの場で他の女の子の話をするのは、さすがにちょっと気が引ける。


「陛下。わたしは別にここで千聡の話をされても、不快に思ったりはしませんよ」


 ――あやうく、口に含んでいたカフェオレを噴く所だった。


「……潮浬は人の心が読めたりするの?」


「そのような能力はありませんが、陛下の事はいつでもずっと見ていますから。なんとなくお考えが分かるようになってきました。当たっていたようで嬉しいです」


 そう言って、輝くような笑顔を浮かべる。


 まだ出会って2ヶ月ほどなのに、それは十分特殊能力なんじゃないだろうか?


「……潮浬は、俺が千聡の話ばっかりしたら嫌じゃないの?」


「それはもちろん嫉妬しっとしますが、それ以上に陛下と話せる事が楽しくて幸せなので問題ありません。アルコール中毒患者が、お酒を飲めれば種類はなんでもいいみたいなものです」


 ……その例えはどうなんだろう? とりあえず『なるほどね』とはならないな。


「潮浬の中で千聡ってどういう存在なの? 仲間? 同僚? それとも恋敵?」


「一言で言うのは難しいですが、あえて言うなら『利用価値のある存在』ですね。たしかに恋敵と見る事もできますが、別に陛下の相手は一人だけと決まっている訳でもありませんし。現状わたしにとっての一番の障害は陛下の貞操観念だと思っていますから、それを緩くするには有用なこまだと思っています」


 相手は一人だけって、この国の法律で決まっているような気がするけど……でも、潮浬達は法律とか気にしなさそうだよね。普通に武器とか持ち歩いてるし。


 そして潮浬の恋愛感も、前に聞いた記憶がある。『自分を一員に加えてくれるなら、他に何人女を作ってもいい……』だったかな?


「……それならお言葉に甘えて千聡の話をさせてもらうけど。俺と千聡の関係って、出会ってから進展してると思う?」


「千聡の忠誠度は積み重なっているので、主従関係としては極めて良好で進展もしていると思いますが。以前言っておられた対等の恋人同士としては、残念ながら……」


「ん、ちょっと待って。下がってないならともかく、俺なんか千聡の好感度上げるような事したっけ?」


「それはもう。魔王としての有能さを存分に示した上、部下の統率も完璧にこなしておられました」


「……そうかな?」


「そうですよ。ちなみにわたしやリーゼちゃん、玉藻殿を初めとしたこの国の魔族達。天川殿や……名前を出すのも嫌ですが、ヨーロッパの某好色サキュバスの好感度や忠誠度も上がっていますよ。そして多分、勇者の好感度も……。まさに偉大な魔王と評するにふさわしい、輝かしい偉勲いくんですね」


「あれ、潮浬の好感度も上がってるの? ……こんな事言うのはなんだけど、俺潮浬にはわりと冷たく接していると思うんだけど?」


 具体的には、一日4~5回のペースで告白やベッドへのお誘いをお断りしている。


「好きな人のとなりにいられて。その姿を見て、声を聞いて、息遣いを感じていると、それだけでもう自動的に好感度が上がっていきますからね。千聡も同じだと思いますよ」


「え?」


「そしてわたしは、優しさだけが愛情だみたいな狭量きょうりょうな価値観は持っていません。好きな相手からなら冷たくされるのも痛くされるのも、苦しくされるのだって悪くないものです。……離れたり放置されるのだけは絶対に耐えられませんが」


 ……潮浬の特殊な趣味は置いておくとして。一つ聞き捨てならない言葉があった。


「今『千聡も同じ』って言ったけど、もしかして千聡も一緒にいるだけで好感度が上がっていくの?」


「それはそうですよ。尊敬する主君のおそば近く仕えさせていただくなんて、それだけであの子にとっては無上の喜びです。そしてその喜びを与えてくれるのは他ならぬ魔王様なのですからね。わたしが陛下の匂いを嗅いでいるだけで、どんどん好きが募っていくのと同じです」


 相変わらず例えはよくわからないが、わりと重大な事を聞いてしまった気がする。


 もし潮浬が言う事が本当なら。千聡の好感度を下げて対等の恋人同士になるなんて、一生無理なんじゃないだろうか?



 …………いや待てよ。一つだけ方法がある気がする。


 それはついさっき。潮浬が『絶対に耐えられない』と言った行為。

 千聡と距離を置き、放置するのだ。


 それは正直、俺にとってもキツイし悲しい。

 でも多分、千聡はもっと効くのだろう。


 ……間違いなく効果はある気がするが、千聡を悲しませるような事はしたくない。


 でもそれが唯一の方法なのだとしたら、俺は一体どうすればいいのだろう?



 良心と願望との間で。俺は手元のカフェオレを見つめながら、ぐるぐると思考を巡らせるのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.25%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に

・天川さんを仲間に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%→

※潮浬の恋愛感については、13話をご参照ください。

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