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92 潮浬と買い物

 髪を切ってもらってから数日後。学校の昼休みに、俺は近くにいる潮浬のスマホ宛にメッセージを打つ。


 言葉には出せない、内緒の話をするためだ。


『もうすぐ千聡の誕生日だからなにかプレゼントを買いたいんだけど、一緒に来てアドバイスをもらえないかな? お礼にご飯をご馳走ちそうするからさ。可能なら今度の土日のどっちか、都合のいい日があったら教えて』


 文章を完成させてから、二度三度と読み返す。


 潮浬と二人で買い物というのは、なにか無用の期待をいだかせてしまいそうな気がするので。誤解を生まないように細心の注意を払う必要がある。


 ……目的をはっきりさせていて。別の女の子へのプレゼントを買うためだから、デートだと誤解させる事はない。お礼もあらかじめ決定済み。……よし、問題ないな。


 あとはちょっと感じ悪いかなと思って迷ったが、誤解を生まない事を優先して文末に『リーゼか天川さんに頼もうかとも思ったけど、潮浬が一番千聡の好みに詳しそうだから』の一文を付け加える。


 これで『潮浬に声をかけたのはいくつかある選択肢の一つだった』『選んだ理由は千聡との付き合いが長いから』という事になり。デートに誘われたと勘違いする要素は完全になくなるだろう。


 実際、リーゼか天川さんに頼もうかと思ったのは本当なのだが。リーゼはプレゼント選びの能力にイマイチ不安があるのと、うっかり口を滑らせて千聡にバラしてしまいそうな気がしたので。


 天川さんは最近暇さえあれば玉藻さんの所に通って天狗さん達から色々特訓を受けているらしく、邪魔したら悪い気がしたので、潮浬にお願いする事にしたのだ。


 潮浬も大人気アイドルなので忙しい……はずなのだが、出会ってから10日中9日くらいの割合で一日中ずっと一緒にいるので、多分大丈夫だろう。


 なんか、近くにスタジオみたいな場所を用意して。そこで早朝俺が起きる前に仕事を済ませているらしい。

 睡眠時間大丈夫なのだろうか?



 メッセージの文面を最後にもう一度読み返して送信ボタンを押し、ホッと一息ついてスマホを置こうとしたら、それより早く返信が返ってきた。


『ぜひお供させてください。陛下とのデートとあれば都合が悪い日などありませんから、いつでも大丈夫です。陛下の都合のいい日時をお知らせください』


 …………あれ? さっきの文章、デートと勘違いさせる要素まだ残ってたかな?


 改めて読み返してみるが、やはりデート要素はない。このまま笠井に送っても違和感ないくらいだ。


 もしかして潮浬の中では、二人で出かけたら全部デートだったりするのだろうか? リーゼと二人でスーパーに買い物行ったりとか、わりとしてるんだけどな……。



 改めて潮浬の強メンタルさ。もしくは思考の前向きさを再確認した所で、気を取り直して返事を打つ。


『デートではないけど、じゃあ土曜の10時でいい?』


『了解しました。当日のデートプランはわたしにお任せください、抜かりなくエスコートいたします。待ち合わせは執務室前でよろしいでしょうか?』


『うん、デートではないけどよろしくね。あと、待ち合わせは必要なくない? 同じアパートに住んでるんだし、いつも通り部屋で合流すればいいのでは?』


『せっかくの陛下とのデートですから、演出にもこだわりたいのです。合流する場所が室内でもドアの外でも陛下の手間は大して変わらないと思うので、お願いできませんでしょうか?』


『デートではないけど、分かった。じゃあ土曜の10時に部屋の前でね』


『ありがとうございます。デート楽しみにしていますね』


『デートではないけど、こっちこそよろしくね』


 ……結局最後まで、断固デートだという潮浬の主張は揺るがなかった。メンタル強すぎる。


 とはいえ予定は決まったので、千聡とリーゼにもその旨知らせておく。


 潮浬との話は千聡に内緒だったので、目の前にいるのにスマホでのやり取りだったが。外出予定は秘密じゃないし、そもそも秘密しようとしてもできないだろうから、普通に口で伝える。


 これで後は、当日を待つだけだ……。




 土曜日の朝目覚めてみると、外はあいにくの雨模様だった。


 軽く朝食を食べて執務室という名の居間に出ると、いつもいる潮浬の姿がなく。千聡とリーゼ、それにシバしかいない。


 どうやら本当に部屋の外で待ち合わせをするらしい。



 しばらくの間、千聡から日課の報告を受けたりシバとたわむれたりしてまったりと過ごし。10時5分前になった所で、『じゃあ行ってくるね。晩御飯には戻るから』と言い置いて、外へと向かう。


 千聡が『お気をつけて』と言ってくれたが、なにに気をつけるかは微妙な所だ……。



 部屋のドアを開けると、すぐ前に傘を差した潮浬が立っていて。満面の笑みを浮かべて迎えてくれる


「おはようございます、陛下」


「うん、おはよう……もしかして待たせちゃった?」


「いえ、今来た所ですよ……ふふ、このやりとり。いかにもデートって感じがしてステキですね」


 ……それは正直、俺も思った。

 もしかしてすでに潮浬の手の内なのだろうか?


 改めて見ると、潮浬はちょっと露出高めでオシャレな格好をしていて、ちょっと大人の女性っぽい。

 とても中学生には見えないくらいに魅力的だ。


 これ、完全にデートモードで気合入れてるよね……。


 一方俺はちょっと近所のコンビニに行くようなラフな格好なので、アンバランス感がすごい。


 ……あれ?


 潮浬の姿を眺めていた俺は、ふと違和感を覚えて視線を止めた。


 地面が。潮浬の足元の地面が、そこだけ切り取ったように色が違うのだ。


 ――よく見ると、そこだけ雨が当たらずに乾いているらしい。

 でも、今日は朝からずっと雨だったよね……。


「……ねぇ潮浬。ホントに今来た所?」


「わたしの体感では今来た所ですよ」


 俺の視線で足元に気付いたのだろう。潮浬は話を誤魔化すように輝くアイドルスマイルを浮かべ、言葉を続ける。


「そんな事より、早速参りましょう。今日はわたしが万全のエスコートをいたしますから」


 そう言って潮浬は俺の手を取ると、自分の傘に引き込んで歩き出す。


 ……これは俗に言う、相々傘というやつだ。


 早くもデートっぽいイベントをこなしつつある事に戦慄せんりつを覚えながら。潮浬に手を引かれてアパートの前庭に停まっている車へと向かう。


 果たして、俺は無事に千聡へのプレゼントを買って帰れるのだろうか?



 一抹いちまつの不安を覚えながら、俺は車中の人となって雨の街へと向かうのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.25%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に

・天川さんを仲間に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%→

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