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90 俺の髪とリーゼの髪

 潮浬に髪を切ってもらった後。『シャンプーをしましょう』と二階へ連れて行かれそうになった所で、千聡から『どこへ行く気ですか!』とストップがかかった。


「どこって決まっているでしょう。わたしの部屋のお風呂へ行って、陛下の体を洗って差し上げるのよ」


 ……なにそれ決まってるの? しかも頭じゃなくて体?


「魔王様。潮浬はこう言っていますが、それをお望みですか?」


 ――おおう、千聡さん微妙に目がわっていらっしゃる。


「えっと……自分の部屋で一人で洗えるから、それでいいかなって……」


「ちょっと、いきなり陛下の意見を訊くなんてズルイでしょ。せっかく自然な流れでお風呂をご一緒しようとしているのに!」


「なにがズルイのですか、魔王様のご意思が全てでしょう!」


「そんな事分かってるわよ! でも今確認しなくても、とりあえずお風呂に行ってお互い裸になって。向かい合ってちょっと体に触れてみたりしてから確認してもいいでしょうが!」


 いや、よくはないと思う……。


「そこまで行ってから何を確認するのですか!」


「本当に体を洗うだけで終わるのか。それともついでにわたしを抱くかに決まってるでしょ!」


 だから決まっては……と言うか、それはついでにやるような軽い事じゃないと思う。うん。


「あの……やっぱり自分で洗ってくるから大丈夫だよ。潮浬、髪切ってくれてありがとうね」


 口論に割って入ると、直接俺の意思を確認したからか。潮浬も一応納得してくれたようで、それ以上食い下がってはこなかった。


 俺は半ば逃げるように、自室のお風呂へと向かう……。



 お風呂に入って執務室という名の居間に戻ってくると、ちょうどリーゼの髪も切り終わった所らしく。千聡がハサミをブラシに持ち替えて、髪をいてあげていた。


 目を閉じて気持ち良さそうにしているリーゼは、大きなネコみたいでとても可愛かわいらしい。



 ……しばらくそれを眺めた後。定位置になっている椅子いすに座ると、それを待っていたのかちょうど手入れが終わったのか。千聡が机の前にやってきてひざまずく。


「魔王様。切った髪の扱いに関してなのですが」


「うん、耐久試験やるんだっけ?」


「いえ。リーゼのではなく、魔王様の髪についてです」


「俺の?」


「はい。恐れ多い事ですが、拝領はいりょうするお許しを頂けませんでしょうか?」


 ……拝領?


 たしか、もらうって意味だったと思う。


 部屋を見回すと、散髪に使った椅子いすは片付けられて。床も綺麗に掃除されている。


 俺の髪も回収されたみたいだが、そんなのゴミにしかならない気がするんだけど……。


「欲しいなら別にいいけど、何に使うの?」


「魔術具の素材として使わせて頂きたく思います」


 ……魔術具ってまた微妙な響きだけど、呪いのわら人形とかじゃないよね?


 天川さんにあげた矢みたいなものだと思いたい。そう思っておこう……。


「わたしは小袋に入れていつも持ち歩いて、ながめたり匂いを嗅いだりするのに使います」


 あ、潮浬も欲しいのね……て言うか、ちょっと欲望がだだ漏れ過ぎないだろうか? また千聡に怒られるぞ……。


「待ちなさい。恐れ多くも魔王様の髪を、そんな煩悩ぼんのうを満たすために使うのではありません!」


 ほらね。


「なんでダメなのよ! ご寵愛ちょうあいを賜れないのだから、せめてそのくらいやってもいいじゃない!」


 ……潮浬の凄い所は、こういう場面で一歩も引かない所だよね。どこまでも欲望に忠実だ。


「いい訳ないでしょう、魔王様がご不快に思われたらどうするのですか!」


「それはさすがに陛下が見てない場所でやるわよ!」


「そういう問題ではありません!」


 ……この二人って、わりとすぐケンカに発展するよね。仲が良いのか悪いのか、よく分からない。


 最近ちょっと慣れてきたので、ヒートアップしてきたら止めに入る準備をしつつ。とりあえず様子を見る……。



「大体あなただって、こないだ陛下の洗濯物を自分の部屋に持って帰っていたじゃない。あれ、何に使ったのしら?」


「――なっ!」


 お、千聡の顔が一瞬で耳まで真っ赤になった。


「……あれ? 適当に言ってみただけなんだけど、もしかしてホントにやってたの? へー、そっかー。ふーん」


 満面の笑みを浮かべて、勝ち誇ったように千聡を見る潮浬。珍しい構図だ。


「――あ、あれは。シャツのボタンが取れかけていたので直そうとしただけです。貴女が想像するような事はしていません!」


「へぇー。ちなみに洗濯前と後と、どっちのタイミングで持って帰った?」


「…………」


「ふふ、その沈黙は答えているのと同じよね。うんうん、そりゃ洗濯前のほうがいいに決まってるわよね」


 ……なんだろう、潮浬がすっごい楽しそうだ。目が生き生きしている。


「服なんて持って帰ってどうするんですか?」


 横からリーゼも話に加わってきた。ものすごく純真ピュアな質問だが、潮浬は一層楽しそうに言葉を返す。


「んー、そうねー。まずは顔を埋めて匂いを嗅いだり、ほおずりしたり。自分で着てみてニヤニヤしたり……その先はリーゼちゃんにはまだ早いかな」


「そんな、子供扱いしないで教えてくださいよ!」


「そう? じゃあ、性欲を自分で解消する為の行為でオナニ……『ま、待ちなさい! そのような行為はしていないと言っているでしょう!』


「ふーん、じゃあどこまでやったの? ねぇ、どこまでやったの?」


「そ、それは……」


 なんか、こんな追い詰められる千聡を見るのはすごく新鮮だ。顔を真っ赤にしてうつむく姿は、すごくかわいい。


 そして潮浬さんってば、ものすごくウッキウキですね。


 ……珍しいものを見られた気はするが、さすがにそろそろ止めに入るべきだろう。



「――そういえば、リーゼの髪の強度についてなんだけど」


 話を変えようとする俺の言葉に、当人であるリーゼが早速食いついてくる。


「そうだ、試してみましょうよ! 絶対拳銃なんかに負けませんから!」


「あぁ、そういえばそんな話あったわね。リーゼちゃんの髪はそっちの袋にまとめてあるわよ」


 潮浬もそろそろ引き際だと思ったのか、あるいは十分に満足したのか。こちらの話に乗ってくれる。


 顔が真っ赤だった千聡も、俺の要望だからか手際よく動いてくれる……が、顔はしばらくの間赤いままだった。



 実験は木の棒にリーゼの髪を貼り付けたものに銃を撃ち込む形で行われ。結果は見事に弾を止めた。

 リーゼは会心のドヤ顔である。


 俺の髪も千聡と潮浬で半分ずつ分ける事になり、とりあえず騒動は一段落となった。



 そうして平和……だったと思う土曜の午後は、ゆっくりと過ぎていく……。




 現時点での世界統一進行度……0.25%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に

・天川さんを仲間に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『魔王様に対して不敬を働いたにもかかわらず、こんな私を助けて下さった。この大恩に報いる方法など、想像もつかない……』忠誠度上昇

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