87 人間の仲間
『我々の仲間になる気はありませんか?』
不意に発せられた千聡の問いに、天川さんは手に持っていた矢を矢筒に戻し。それを千聡との間に置いて、表情を硬くして口を開く。
「『友達に』なら大歓迎だけど。『仲間に』って言うからには、なにか目的があっての集まりだよね? その目的を聞かないと答えられないかな」
天川さんの返事に、千聡は満足気な表情を浮かべて言葉を発する。
「それは当然でしょうね。では我々の目的をお話いたしましょう」
そう言って千聡は、魔族の事を。俺が記憶を失った魔王である事を。その記憶を取り戻す方法を探している事を。魔王の下世界を統一し、秩序と安定をもたらそうとしている事を。そして勇者の存在を。淡々と語っていく。
黙って聞いていた天川さんは、話が終わると俺に視線を向けた。
「烏丸君が魔王っていうのは本当?」
「……千聡達はそう言っているけど、正直俺には全く実感がない」
その答えに天川さんは軽く頷くと、今度は千聡に視線を向ける。
「早川さんにとって魔王の言葉はどれだけ重い? 魔王の記憶を失っている今の烏丸君だとして、どんな命令なら拒否するライン?」
「記憶を失っておられても、魔王様が魔王様である事には変わりありません。どんな命令であっても、魔王様のご命令に歯向かうなど考えもつかない事です」
「…………」
天川さんはしばらくじっと千聡を見ていたが、しばらくしてニコリと笑顔を浮かべて口を開く。
「わかった。じゃあ、とりあえず烏丸君の記憶が戻るまでの間は仲間になる。記憶が戻った後の事は、その時の烏丸君を見て改めて決めるって事でもいい?」
「構いませんよ。貴女は元の魔王様を知らないのですから、そこに区切りを入れるのは当然の事です」
「うん、じゃあよろしくね……えっと、烏丸君の事は『魔王様』って呼んだほうがいいのかな?」
「普通に今まで通りでいいよ」
「わかった。じゃあ、改めてこれからよろしく」
天川さんはそう言って。俺からはじまって千聡達全員と順に握手をしていく……。
握手が一巡した所で、俺は一つ気になっていた疑問を口にする。
「天川さん、仲間になるのになんで俺の事を気にしたの? 魔王と言っても記憶がないんだから、千聡達の方を気にするべきだったんじゃないの?」
実際俺は、ほとんど千聡達に流されて魔王をやっているに過ぎない。
「んー。一つは、早川さんは全然底が見えないからかな。私、人を見る目はそこそこあるつもりなんだけど、早川さんの感情は全然読み取れないんだよね。何百年も生きているって話を、それだけで信じちゃうくらいだよ」
「……つまり、俺は読み取りやすいと?」
「あはは、まぁそうだね。烏丸君は分かりやす過ぎるくらいにいい人だよ。だから烏丸君の命令が絶対だって言うなら、それだけでこの組織は信用できる。烏丸君の話をする時だけは早川さんの感情が見えたし、ここが嘘じゃないならとりあえず大丈夫かなって」
「なるほど……。『一つは』って事は、他にもあるの?」
「うん。もう一つは、烏丸君の魔力が暖かくて癒されたからだね。傷を治してもらう時に他のみんなの魔力も流してもらったけど、烏丸君のだけ飛び抜けて気持ちよかったから」
……そういえば、なんか一際大きく艶っぽい声を出していたな。
天川さんはちょっとだけ頬を赤らめながら、言葉を続ける。
「聞く所によると、相性のいい魔力は心地よく感じるらしいじゃない。それで、あの暖かさの持ち主なら信用できると思ったから、烏丸君がトップの組織ならまぁ大丈夫かなって」
「……魔力ってそんなに違うものなの?」
「少なくとも、烏丸君だけは別格だったよ。さっき魔王だって聞かされた時にスッと受け入れられたのは、あれを感じたからだと思う」
天川さんの言葉に千聡が。なぜか潮浬も、うんうんと頷いている。
よくわからないけど、とりあえず気が合うようでなによりだ……。
俺達の仲間になった天川さんは、本人の希望で魔族としての能力を高めたいらしく。千聡に修行法を教えてもらい、後日玉藻さん達にも紹介してもらうそうだ。
人脈にもなるし。天狗さんは面倒見がいいから、鍛えてもらうといいという話をしている。
天狗と特訓とか、源義経みたいだな。
目指すものが退魔師なのか陰陽師なのか、魔法使いや呪術師の類なのかはわからないが。そもそも俺にはどう違うのかすらよくわからないし。一人娘でゆくゆくは神社を継ぐらしいから、いずれにせよ将来の役に立つ……のかもしれない。
ちなみにここで言う魔法使いは炎とかを出す魔法使いではなく、使い魔を使役するタイプの魔法使いらしい。
そしてなんとなくだけど、天川さんには使い魔を従える素質がある気がする。
天川さんに命令されたら、俺も使役されてしまいそうな気がするもんね……。
人間の見習い魔法使いに使役される魔王とか。最高に情けなくて千聡の好感度が駄々下がりする気がするので、機会を見てぜひともお願いしてみよう。
そして天川さんには学校でのフォローもお願いできるそうで、クラスで人望も人気もある存在だけに、こちらもとても頼もしい。
……そんなこんなで全面的な協力関係が構築され。話が一段落ついた所で、その日は解散となった。
心配していた千聡達の学校生活も、この分なら問題なく過ごせそうだ……。
現時点での世界統一進行度……0.25%(+0.01)
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
・天川さんを仲間に
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『人間であっても、ある程度魔力がある存在なら魔王様の偉大さがわかるのだ。人間世界も含めて、まさにこの世の全てを支配するにふさわしいお方だ……』忠誠度上昇




