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86 新しい矢

 天川さんの家にお邪魔した翌日。


 朝起きて執務室という名の実質居間へ行ったら、なぜか潮浬が巫女服を着て正座しているという事件があった。


 どうやら、俺が天川さんの巫女服姿にかれていたのはモロバレだったらしい。


 だが最近この手の事に慣れてきた俺は、普通に『おはよう』と挨拶を交わして、動揺を悟られないように普段通りの一日をはじめる。

 変な所で成長を実感するな……。


 千聡達はまだ魔力の完全回復には至っていないようだったが、日常生活には問題ないらしい。逆に俺の方を気遣われたが、石段の上り下りで足が筋肉痛である事以外はなにも問題ない。


 千聡が何度も心配してくれたが、元々体内の魔力なんて感じていなかったので、それを抜かれたと言われても正直よくわからない。


 あまりに実感がないので、


「昨日の治療って、千聡達の魔力で聖剣の呪いを破る寸前まで行ってて、俺は最後の一押しをしただけじゃないの?」


 と訊いてみたが。目を輝かせながら、


「いえ、聖剣の呪いを破るには累積るいせきではなく、一度に大量の魔力をぶつける必要があります。お感じになっておられないだけで、魔王様の体に宿る魔力は我々などとは比較にならないくらい巨大なものなのです」


 って言われてしまった。


 なんか千聡の魔王に対する好感度が上がってしまった気がして、俺的にはあまりよろしくない。


 なんとか好感度を下げる方法はないかと考えるも、特にいいアイディアが浮かぶ事もなく一週間が過ぎた頃。千聡が天川さんを呼び出し、放課後に表向き千聡達の家で話をする事になった……。




「その後、傷の経過はいかがですか?」


「うん、おかげさまですっかりよくなったよ。あとも消えたし、痛みも完全になくなった。10年近くも治らなかったのに、嘘みたいだよ…………見る?」


 天川さんはそう言って制服の上着に手をかけ、なぜか俺に視線を向ける。


 ……これって、もし『うん、見る』って言ったら天川さんの制服たくし上げが見れたりするのだろうか?


 それは大変魅力的だし、千聡からの好感度も下がりそうな気はするけど。同時に天川さんの好感度も下がりそうだ。


 これからの学校生活を天川さんの冷たい視線を浴びながら過ごすと思うと、さすがにちょっと辛いものがある。


「……いや、大丈夫」


 微妙なの後にそう答えると、天川さんはニコリと柔らかい笑顔を浮かべて『烏丸君はやっぱりいい人だね』と嬉しそうだった。


 どうやら無事に正解を引けたようで安堵あんどするが、今日の集まりは俺が試されるために開かれた訳ではないのである。


 千聡に視線で先をうながすと、小さくうなずいて話を再開してくれた。


「無事完治したのならなによりです。今日お呼びしたのはこれを渡そうと思いまして」


 千聡はそう言いながら、天川さんから預かった矢筒を取り出す。


 中に入っていた聖剣の破片は報告によると、一万トンプレス機・3000度の炉・強酸や強アルカリでも破壊する事はできず。結局俺の意見に従って、アパートのとなりに建設中である魔王本拠の地下深くに、一メートル四方のコンクリートで固めて埋められる事になったそうだ。


 完全に魔王城の地下にある伝説の剣だが、宝箱に入っている訳ではないので、見つかる事はないだろう……多分。


 矢筒を渡された天川さんは、『わざわざありがとう』と言って受け取ったが、すぐに疑問の表情を浮かべる。


 元々自分の持ち物だけに、重さが違うのに気付いたのだろう。


「開けてみて下さい」


 千聡の言葉に天川さんがフタを外すと、真っ黒い羽がついた新品の矢が、10本ほど姿を現した。


 天川さんはその中から一本を引き抜いてまじまじと見つめると、また表情が変わっていく。


「なにか感じますか?」


「……うん。前の矢ほどじゃないけど、強い力を感じる」


 この矢は俺のお願いで千聡が用意してくれたもので。天狗さんの羽と木霊さんの枝。やじりには田沢湖にいた水竜さんの角が使われているらしい。


 弓の力以上に高速で正確に飛び、丈夫で折れにくく。普通の弓で撃っても数センチの鉄板なら貫通できるほどの威力が出るそうだ。


 さすがに聖剣の破片には及ばないものの、先端についている水竜さんの角は低級の魔族なら見ただけでおびえるほどの代物で、退魔師ならのどから手が出るほど欲しがる、垂涎すいぜんの品だとの事。


 ちなみに天狗さんの羽や木霊さんの枝は強引に脅し取ってきた訳ではなく。自然に生え変わったり、手入れで切ったものを譲り受けたそうだ。


 元々、魔力だったり霊力だったりが宿る品として、退魔師や陰陽師、魔法使いや呪術師なんかの間で高値で取引される品らしい。


 俺としてはそんな職業が実在する事にびっくりだけどね。


 なお、『高値』と聞いて我慢できずに値段を訊いてみた所。この手の物を扱う裏市場なら一本7000万~一億円と言われて、思わず持っていた矢をそっと慎重にテーブルに置いた。


 その手の家系なら代々伝えられていく家宝。神社のご神体や宝物ほうもつになってもおかしくない代物との事だ。


 特に水竜さんの角が希少で高価らしいが。俺の記憶ではトラックの荷台にドンと乗るくらいの大きさがあった気がするんだけど……。



 天川さんには値段を伏せる事になっているが、それでも価値はわかるらしく。矢を端から端まで何度も眺めては『すごい……』とか『綺麗きれい……』とか、ため息をつくようにくり返している。


「お気に召しましたか?」


「それはもう……本当に貰っていいの?」


「はい。前の矢の代わりですから、お好きにお使いください。魔力を宿していますから、魔族の血が流れている貴女には前の物より馴染なじむはずです」


「うん……前の矢は畏怖いふと言うか、怖い系の力を感じていたけど。これは力強くて頼もしくて、心地いい感じがする」


 うっとりとした目で矢を眺める天川さん。喜んでもらえて俺もうれしい限りである。


 結構力があるものらしいが、天川さんなら変な事に使ったりもしないだろう。


 ……そしてもう一つ。千聡と相談した事を話してもらう。



「天川殿。我々の仲間になる気はありませんか?」


 千聡の口から出た提案に。天川さんの動きが一瞬止まった……。




 現時点での世界統一進行度……0.24%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『私と潮浬をあわせた魔力量を上回る魔力を消費して、少しも消耗した様子がない。やはり魔王様は知勇だけでなく、魔族としてもはるかな高みにいらっしゃる偉大なお方だ……』忠誠度上昇

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