85 聖剣の破片の取り扱い
「――ありがとう、烏丸君に早川さん。それに鈴木さんと斉藤さんも」
涙目になった天川さんが抱きつかんばかりの勢いで身を乗り出し、お礼を言ってくれる。
潮浬とリーゼの偽名は全然慣れないな。
「我々はなにもしていません。全て和人君の力です」
千聡が全力で俺を持ち上げるが、むしろ俺こそなにもしていない気がする。
結局自力で魔力を流す事はできなかったし、診断から治療法。魔力を流す手伝いを含めた実際の治療まで、ほとんど全部千聡がやったと思うのだが……。
だがその千聡が、全て俺の力だと言ったのだ。
天川さんはそれを素直に信じたらしく、俺に真剣な表情を向ける。
「ありがとう和人君。……この傷、一生治らないと思ってたよ」
手を取って頭を下げられると、なんかこそばゆいような役に立てて嬉しいような、暖かい気持ちになる……と、天川さんが突然頭を上げた。
「そうだ、なにかお礼をしないと」
「え、いやいいよお礼なんて」
「そんな訳にはいかないよ。早川さん達にも頑張ってもらったんだし」
……そういえば、千聡達は息を切らせるまで魔力を流し込んだんだった。お礼を受け取るとしたら、俺より千聡達だよね。
「ええと、みんな希望とかある?」
「和人君が決めてください」
「わたしは別に」
「自分はそもそも役に立ってないですから……」
うん、またボールが俺の所に戻ってきた。それなら……
「やっぱりお礼はいいよ。天川さん最初俺をお祓いしようとして呼んでくれたけど、成功したらなにかお礼を要求するつもりだったの?」
「それは……そんな事は考えてなかったけど……」
「でしょ。なら俺の方も同じ気持ちだよ」
「…………」
俺の言葉に、天川さんは黙ってコクリと頷いて納得してくれた。
下を向く姿はなんかシュンとした大型犬のような、独特のかわいさがある。
――まぁなにはともあれ、これで一件落着だ。家に帰って晩御飯にしよう。
そう思って立ち上がりかけた時、となりで千聡が声を発した。
「最後に一つ。その聖剣の破片についてなのですが」
――おっと、そういえばその話が残っていたな。
浮かせかけた腰を慌てて下ろし。何もなかったように平静を装う。
天川さんは矢筒に目をやると、しんみりとした声を発した。
「これだけ迷惑かけたんだもんね……うん、これの扱いは早川さん達に任せるよ」
そう言って、矢筒をスッと前に出してくる。
「話が早くて助かります」
千聡がそれを受け取るが。声こそ落ち着いているものの、なんか指先がプルプル震えている。
そりゃまぁ、魔族の自覚がない俺でも怖いくらいだもんね……。
そうして意外なほどあっさりと聖剣の破片を確保する事に成功し。今度こそ一件落着で、俺達は帰路に着いた。
天川さんは巫女服のまま300段ほどの石段を降りて、下まで俺達を見送ってくれる。
慣れているのだろうが、息一つ乱さないのはさすがである。
……と言うか、魔力を放出してヘトヘトになっていた千聡達も平然としているのに、消耗した自覚がない俺だけ膝がガクガクなのはどういう訳だろう?
まぁ、どうもこうもただの運動不足なんだけどね……。
待機していた車に乗って一息つき、アパートへと向かう道中。俺は我慢できずに声を発する事になった。
「ねぇ千聡。それ持とうか?」
千聡は天川さんから受け取った矢筒を。聖剣の破片が入ったそれを両手で抱くようにして持っているのだが、その顔は青褪め。冷や汗は服を濡らして体に貼り付かせるほどである。
「――いえ、大丈夫です。お気遣い痛み入ります……」
そうだろうなとは思ったが、やはり遠慮されてしまう。
俺も正直結構な恐怖を感じるが。冷や汗ダラダラになる程ではないので、預けてくれてもいいんだけどね……。
でも千聡がそれを拒否する気持ちも分かるので、せめて気を紛らわせようと話をする。
「その聖剣の破片どうするの?」
「……まずは破壊を試みようと思っております。それが無理だった場合は、海の海溝部を選んで一万メートル以上の深海に沈めるか、火山の火口にでも投げ込むか、ロケットで宇宙に飛ばしてしまうか、そうでなければどこかに厳重に保管するかを考えております……魔王様はなにかお考えがありますか?」
……あ。俺今、なんでRPGとかで魔王の城に勇者の最強装備があったりするのかわかった気がする。
魔王が先に手に入れて、でも破壊できなかった場合。どこかで厳重に保管しようという事になって、それが自分の城だというのは自然な流れなのだろう。
子供の頃は『なんで魔王城に勇者の最強装備が?』と疑問に思っていたが、思わぬ所で答えに巡り合った。
そして、入手困難な場所にバラ撒かれた聖剣の破片を集めて元の姿に再生するのって、なんかRPGのイベントとかでありそうだよね。……うん、これは復活フラグかもしれない。
個人的には、元の持ち主である有紗さんに見せてみたい気もするが。そんな事を言ったら千聡が卒倒しそうだし、有紗さんも聖剣にはあまりいい思い出がないみたいな事を言っていたから、やめておこう。
となると、やはり一番無難なのは……。
「どこかに厳重に保管するのがいいと思うよ」
「はい。承知いたしました」
「うん……あ、そうだ。この矢、天川さんから取り上げたみたいになっちゃったじゃない。代わりを用意してあげる事ってできないかな?」
「これよりも魔族に適したものをという事ですね。了解しました、用意しておきます」
「う、うん。ありがとう……それと、天川さんみたいな怪我しないように気をつけてね」
「――あ、はい。お気遣い痛み入ります」
千聡はハッとしたように返事をし、矢筒を抱える方向を左右入れ替える。
天川さんの時みたいに千聡のお腹に手を当てて治療なんて事になったら、俺冷静でいられる自信がないからね……。
一瞬頭に浮かんだ千聡のお腹の映像と、天川さんのお腹に手を乗せた時の感覚が蘇ってきて融合し。心臓がバクバクと音を立てるのを押さえられない。
動揺を悟られないように全力で平静を装い。俺は気を落ち着かせるために、無心で窓の外を見つめるのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.24%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『さすが魔王様。聖剣の破片が間近にあっても動じる事なく。冷静さを失わずに状況を把握し、配下を気にする余裕までお持ちとは。それに比べて、わが身のなんとふがいない事か……まだまだ私など、魔王様の足元にも及ばない矮小な存在だ』忠誠度上昇




