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84 魔王の魔力

 天川さんのお腹に、聖剣の破片によってつけられた傷。


 それをいやすためには大量の魔力で相殺そうさいするのが有効らしいのだが。リーゼ、千聡潮浬コンビと挑んで、両方失敗に終わってしまった。


 となると順番的に、次は俺の番だ。


「ねぇ千聡。魔力を流すのってどうやるの?」


 俺の問いに、千聡はちょっと苦しそうな表情を浮かべてスマホを手にする。


『魔力を放出する事は疲労に直結します。魔王様のお手をわずらわせずとも、後日我々の魔力が回復した後三人で試すなり、他の魔族に応援を頼むなり方法はありますが……』


『でもそれだと、何日も先になっちゃうでしょ? 天川さんは隠してるけど、結構痛いみたいだし。可能ならなるべく早く治してあげたいんだけど』


 俺の返信を見てだろう。千聡は顔を上げて、一転強い意志が宿った視線をこちらに向ける。


「承知いたしました。非才の身ではありますが、全力でご指南させて頂きます。まずは、体内にある魔力の流れを感じて……」


 どうやら千聡は、俺に負担がかかる事をやらせたくなかったようだが。意思を明確に伝えると、即座にそれに沿って動いてくれる。

 よく知らないけど、部下の理想形なんじゃないだろうか?


 結構な勢いで顔を寄せてくる千聡にちょっとドキドキしつつ。、千聡となぜか潮浬も加わって、文字通り手取り足取り魔力の流し方講座が開始された……。



 ……うん、全然わからん。


 30分ほどあれこれ教えてもらったが、そもそも『体内の魔力を感じて』の時点でさっぱりだった。15年生きてきて、魔力なんて感じた事ないもんね……。


 無能な魔王として千聡の好感度が下がるのは大歓迎だが、今は天川さんを治すという目的があるので、そうも言っていられない。


 それに千聡は好感度が下がるどころか、(私の教え方が悪いせいで……)と思っているらしく。どんどん凹んでいっている感じがする。


 潮浬にいたっては、俺が魔力を集めようとしている右手をずっと握ったままで。なんかセクハラの気配を感じないでもない。


 一応魔力が集まったら教えてくれるためらしいけど、両手で包み込むように握る必要はあるのだろうか?


 天川さんも一旦起き上がり。巫女服を着直して、不安そうに俺達を見つめている。


 申し訳なく思えて気はくが。魔力という全く未知のものを感じろと言われても、感覚がさっぱりわからないのだ……。



 さらに10分ほどあれこれ試してみたが、やはりなんの成果もなく。俺の中で(実は俺って偽魔王なのでは?)との疑念が膨らんでくるが、千聡によると間違いなく魔力を有してはいるらしい。


 そこで千聡は手法を変える事にしたらしく、『私がお手伝いをして魔力を流すというのはどうでしょうか?』と提案をしてきた。


「え、そんな事できるの?」


「はい。和人君の手の上に私の手を重ねて、和人君の手を経由して私の魔力を流し込みます。そうすれば魔力の流れができますから、必然的に和人君の魔力も一緒に患部に流れ込むはずです」


「……理屈はなんとなく分かるけど。千聡今、魔力空っぽじゃないの?」


「いえ、空にしたら気を失ってしまいますから、多少は残してあります。通り道を作るだけなら流す魔力は少しで構いませんし、魔力のコントロールには自信がありますから、ご心配には及びません」


「なるほど、わかった」


 ……実はあまりよくわかっていないけど。千聡が大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろう。

 話がまとまった所で、天川さんは再び床に横たわる。


 今度は上半身全部をはだけさせるのではなく、巫女服の前だけを大きく開いているが、これはこれで逆に色っぽく見える……。


 ――て言うか、よく考えたら天川さんのお腹に直接手を触れるんだよね……。


「ねぇ千聡。俺の手を上にして、千聡の手を間に挟む形じゃダメかな?」


「残念ですが、魔力は送り込むのに比べて吸い出すのは難しく。特殊な能力を持ったごく一部の魔族にしかできません。この世界で言うサキュバスの系統であるイリスルビーレ卿ならできますがここにはおられませんし、我々の中にできる者はおりません」


 どうやら俺の質問は、嫌いな人の名前が出てきて潮浬がちょっと不機嫌になる効果しかなかったようだ。


 これは覚悟を決めるしかないらしい……。



「し、失礼します……」


 意を決して天川さんのお腹に手を伸ばし。わずかに皮膚ひふの色が変わっている所に、そっと手を乗せる。


(うわ――)


 天川さんのお腹は張りがあって吸い付くようになめらかで、ほんのり暖かくてものすごくスベスベだった。


「失礼します」


 そしてそこに、千聡も手を重ねてくる。


 こちらも柔らかく滑らかで、天川さんのお腹と千聡の手とに挟まれて。至福の感触が伝わってくる……。


「では、魔力を流します」


 千聡の声が聞こえて我に返り。少しでも効果が上がるようにと、結局一度も成功しなかった右手に魔力を集めるイメージを再度試みる。


 魔力は分からないので血液を集めるイメージでやってみるが、なんか違う所に血が集まりそうだ……。


「――ひゃうん!」


 一瞬浮かんだよこしまな考えを振り払っていたら、天川さんの口からやたらかわいらしい声が飛び出し、跳ねるようにこしが浮いた。


「ちょ、天川さん大丈夫?」


「……う、うん……大丈夫……だよ」


 顔に赤味が差して息が上がっている様子はあまり大丈夫には見えないが、上から千聡の手で押さえられているので、手を引く事もできない。


「上質だったり相性がいい魔力は、感じるだけで気持ちいいからね……」


 横からつぶやくように言われた潮浬の言葉に、天川さんは顔を真っ赤にして横を向いてしまう。


 お腹に乗っている手を伝わって、天川さんの鼓動こどうが感じられるような気がした……。



「……傷の具合はどうですか?」


「え?」


 千聡の声に、天川さんはハッとしたように頭を持ち上げ。自分のお腹に視線を向ける。


「……あれ、痛くない……かも?」


「効果があったようですね」


 千聡はそう言って手を下げたので、俺もそれにならう。


 だがあらわになった天川さんのお腹には、まだ薄いあざのようなものが残ったままだった。


「あれ、治ってなくない?」


 俺が言葉を発する間に、千聡は指先で天川さんのお腹をそっとなぞる。


「聖剣の気配は消えています。これはただの軽い火傷やけどですね、一週間もあれば治るでしょう」


「そうなの?」


 天川さんを見ると、呆気あっけにとられたように口を半開きにして、お腹の傷をでている。


「痛みが……ほとんど消えてる……すごい! ホントに痛くないよ!」


 跳ね起きてお腹をさすり。輝くような笑顔を浮かべる天川さん。


 どうやら、治療は成功したらしい。


 力が抜けた感覚も疲労感も全然ないから俺の魔力が効いたのかどうかわからないけど、とりあえず治ったのならいい事だ。



 俺はまだ信じられない様子でお腹を撫でている天川さんを見ながら、笑顔が移って来るのを感じるのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.24%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『深いご温情に加えて、潜在しているものの圧倒的な魔力。やはり魔王様は格が違う。それに引き換え私は、魔力放出の指南さえ満足にできないとはなんとふがいない……少しでもお役に立てるよう、もっと精進しなくては』忠誠度上昇

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