82 聖剣の破片
俺達四人は天川さんが待っている部屋に戻り、また座布団に座り直す。
今回の目的は天川さんを説得して聖剣の破片を手放してもらい、あわよくば仲間に引き込む事だ。
「おかえり。もうお祓いを始めても大丈夫?」
俺達が戻ると、天川さんが待ちかねたように身を乗り出してくるが。そこに千聡が割って入ってくる。
交渉事は基本、千聡の担当だ。
「その前に、いくつか質問をよろしいですか?」
「うん、いいよ。元々急な話だし、いきなりは不安だろうからなんでも訊いて」
天川さんは水を差された形にもかかわらず、不快な表情一つ浮かべずに千聡を見る。ホントにいい人だよね。
「その矢の先端に付いている金属片は、どういった由来の品ですか? この神社に代々伝わる宝物でしょうか?」
「あはは、そんな大層な物じゃないよ。私が子供の頃、裏山で遊んでいた時に拾ったの。一目見た時、金縛りにあったみたいに体が硬直してさ。なんかすごい力みたいなものを感じたから、持って帰ってきたんだよ」
「それの存在を知っている人は、貴女以外にいますか?」
「お父さんには見せたけどなにも感じなかったみたいで、子供が拾ってきた変な物扱いだったかな。他の人には見せた事ないよ」
「それをどうして矢の先に取り付けようと思ったのです?」
「んー、破魔矢ってあるじゃない。縁起物でうちの神社にもいっぱいあったから、ためしに付けてみたのが最初かな。それでなんかいい感じだったから、いつかこれで悪霊をやっつけるんだって思って、弓を習いはじめた」
……あれ、弓が得意だから矢に取り付けたのかと思っていたけど、逆なんだね。
そんな事を考えていると、千聡の表情が少し厳しくなる。
「なるほど……貴女は、妖怪や霊などは全て排除するべき存在だと考えていますか?」
「そんな事は思ってないよ。うちは違うけど、神社の中にはお稲荷様って言ってキツネの妖怪的なものを祀っている所もあるし、もっとストレートに妖怪そのものや悪霊とされた存在を祀っている所もある。人間に害を為すなら別だけど、そうじゃないなら無理に退治する必要なんてないよ」
「そうですか……。では最後の質問ですが、もし和人君を含めた私達四人全員が、貴女が言う所の妖怪だと言ったら信じますか?」
「え…………」
情報収集の後、核心に切り込んだ千聡の問い。
天川さんは呆気にとられた様子だったが、千聡は構わずに言葉を重ねる。
「更に言うと、貴女にも弱くですが妖怪の血が。我々が言う所の魔族の血が入っています。おそらく先祖に魔族がいて、貴女にはその影響が強く出たのでしょう」
「……冗談……とかじゃなくて?」
「はい。私は至って真面目に言っています」
千聡の言葉に天川さんはかなり戸惑っている様子だが、すぐに否定しない所を見ると、なにか思い当たる事でもあるのだろうか?
「……それってつまり、私も妖怪の仲間だって事?」
「一概にそうとは言えません。血の濃さで言えば圧倒的に人間寄りでしょう。ただ、普通の人間よりは魔族に近い存在だという話です」
「……なにか証拠みたいなものってある?」
「私に言わせれば、貴女が矢の先に付けていた金属片。あれに反応したというのがなによりの証拠です。あれは我々の間で聖剣と呼ばれる、魔族に害をなす剣の破片です。初見で貴女が金縛りにあったと言うのも、恐怖で硬直したものだったのでしょう」
「…………」
千聡の言葉に天川さんは、深く考え込む様子を見せる。なんだろう、心当たりとかあるのかな?
そんな事を考えていると、天川さんは不意に立ち上がった。
「ちょっと席を外していいかな。すぐ戻ってくるから」
そう言って、慌しく部屋を出ていく……。
数分で戻ってきた天川さんは、座布団に座るやいなや『見て欲しいものがあるんだけど』と言って、両腕を袖に引っ込め。襟元から出すと同時に、巫女服を一気に左右にはだけさせる。武士が切腹をする時みたいだ……って、『うわっ!』
思わず視線を逸らすが、天川さんの『大丈夫だよ』という声が聞こえてきて、恐る恐る視線を戻す……。
(……大丈夫なのかこれは?)
天川さんは本当に切腹でもするかのように、腰から上の服を完全にはだけさせていた。
胸には太い包帯みたいな布が巻いてあって隠れてはいるので、一応セーフなのかもしれないが。おヘソの辺りは丸見えで、限りなくアウトに近いような気もする。
多分さっきの間は、この布を巻きに行ったのだろう。とても色っぽい上に、かっこいいから目のやり場に困ってしまう……。
直視できずにちょっと視線を逸らしていると、天川さんは『これを見て』と、ヘソのちょっと右辺りに指先を動かす。
恐る恐る視線で追ってみると、目に映ったのは大理石のように白く滑らかな肌。女性らしく細いウエストに、形のいいおヘソ……。
やっぱり直視できなくて目を逸らそうとした瞬間。わずかな違和感に気がついた。
逸らそうとした目を凝らしてよく見ると、一部分だけ微かに皮膚の色が変わって見える。そこだけ少し日に焼けようであり、あるいは薄い痣のようでもある。
……そしてよく見ると、その形はどこかで見たような。ちょっと歪な三角形だった。
「――聖剣の破片にやられましたか」
千聡の言葉に、天川さんは小さく頷いて声を発する。
「あれを拾ったばかりの頃、家族で温泉旅行に行ったんだ。その頃はまだハンカチに包んで保管してたんだけど、当時は宝物みたいな感覚だったから、旅行にも持って行ったんだよ」
天川さんは恥ずかしがる様子もなく、上体を晒したまま話を続ける。
「浴衣とか和装の時ってさ、帯をポケット代わりにして物をはさんだりするじゃない。あの感覚でこれをはさんで、そのまま寝たら朝にはこうなってた。霊障の類だと思ってたんだけどね」
「そんな目に遭ったのに、よく持ち続ける気になりましたね」
「それだけ力があるって事だからね。むしろ私の中では、更に価値が高まったよ。使い方を間違えるとケガをして、正しく使うと役に立つのは、包丁や刀だって同じでしょ」
刀を正しい使い方で役に立たせる機会なんて、そうそうないと思うけどな……。
俺がそんな事を考えている間にも、千聡と天川さんの話は続く。
「痛みはどうですか?」
「あると言えばあるかな。ちょっと熱めのお風呂に入った時みたいなピリピリした感じが、ずっと続いてる。でも、日常生活には支障ないよ」
二人の話は淡々と続くが。熱いお風呂に入った時って、温度にもよるけど結構痛いんじゃないだろうか?
……って、待てよ。
「ねぇ千聡。魔族が聖剣でつけられた傷って、一生治らないって言ってなかった?」
「はい。血が薄ければ時間がかかっても回復するでしょうが、幼少期から変わらずとなると、望みはないでしょうでしょうね。思っていたよりも魔族の血が濃く出ているようです」
「そんな……なにか治す方法ないの?」
「一般的な手段は、傷を一回り大きく抉り取る事ですね」
「…………え?」
「聖剣によってつけられた傷を普通の傷として上書きするために、普通のナイフなどを使って周りの肉ごと傷を切除するのです。日常生活に支障がないのなら、あまりお奨めできる方法ではありませんが……」
そりゃそうだ。天川さんの傷は缶ジュースの飲み口くらいの大きさだが、それでも一回り大きく抉り取るとなると、結構な傷になるだろう。
「――それは一般的な方法なんだよね? 他に方法はないの?」
俺の問いに千聡は一瞬表情を曇らせたが、すぐに表情を消して口を開く。
「……伝承に謳われている魔王と勇者の決戦において。偉大な魔王様が聖剣を砕いた時のように、高純度で強い魔力をぶつければ相殺できるはずです」
千聡は俺が魔王である事を隠すべく、慎重に言葉を選んでくれる。
そしてその治療法って……。
現時点での世界統一進行度……0.24%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
千聡の主人公に対する忠誠度……100%→




