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72 実在する魔族

 地下に降りるエレベーターは型が古いのか、わりとゆっくりでけっこう時間がかかる。


 ひまなので辺りに視線を泳がせてみたが、案内の巫女さんの前にある操作板にはボタンが大量に並んでいるので、階層はいくつもあるらしい。

 そういえば最初に、『最下部まで』って言っていたな。


「地下に降りるルートって、このエレベーターしかないんですか?」


「いえ、むしろこれは最近設置されたものです。普通に歩いて降りる道もございますよ」


 ……なるほど、そりゃそうか。


「最近ってわりには、なんか年季入ってませんこのエレベーター?」


「設置から50年ほどですから、機械としてはそろそろ寿命なのかもしれません」


 50年……最近どころかかなり昔だと思うが、もしかしてこの巫女さんも実は魔族で、何百歳とかなのだろうか?


 外見は20代前半か、下手したら10代かなってくらいに若いけど……。


 気にはなったが、女性に歳を訊くのは失礼な気がしたので黙っていると。『ガコン』と音がしてエレベーターが停止した。


「到着いたしました。どうぞこちらへ」


 一瞬故障かと思ったが、正常に到着したらしい。


 降りた先はまた建物の中で、少し歩くと外に出た……。



「――おお!」


 建物を出ると視界が開け、俺の前には大きな空間が広がっていた。


 今いる場所は端っこらしいが、一番遠い壁ははるか彼方で、俺の視力ではよく見えないくらいだ。一瞬外に出たような錯覚に襲われたが、上を見るとかなりの高さに岩の天井があり、ここが地下なのだと確認させてくれる。


「……これ、なんで光ってるの?」


 そして次に目を引かれたのは、壁や天井がぼんやりと光っている事だった。


 まぶしいと言うほどではないが、空間全体で薄曇うすぐもりの昼間くらいの明るさがある。

 そのおかげか地面には草や木が生えているし、田んぼや畑も作られていて、森もある。


 俺の疑問に、千聡が答えてくれた。


魔光茸まこうだけという、空気中の魔力を吸収して光を発する小さなキノコがビッシリと生えているのです。太陽光には及ぶべくもありませんが、魔力さえあれば24時間光を発するので、植物も育つ事ができるのです」


「……それってやっぱりここにしか生えてないキノコなの?」


「いえ、地上でも一般的なキノコですよ。ただ一定量の魔力を受けないと発光しないので、地上ではなにも変わった所のないごく普通のキノコです。閉ざされた空間に魔族が暮らし、魔力濃度が高くたゆたっている場所だからこそ、光源となり得るのです」


「へぇ……」


 千聡の説明を聞いて壁に顔を近づけてみると、なるほど短いエノキダケみたいなのがビッシリと生えていて、淡い光を放っている。


 ……しばらく興味深く眺めていたが、大勢の人が近付いてくる気配を感じて視線を移す。


「お迎えに上がりました、どうぞ」


 ――そこにいたのは、一言で表現するといわゆる『鬼』だった。


 大柄な体に屈強な肉体。そして、人間にはついていないツノとキバ……。


 人数は20人ほどもいるだろうか? 一瞬ちょっと身構えてしまったが、彼等かれらの後ろには輿こしと言うのだろうか? 木を井桁に組んで座る所を設けたものが四つ置かれている。


「私達には必要ありません。魔王様、お乗りください」


 千聡にうながされるまま輿の一つに乗ると、屈強な鬼さん達が四人でそれを肩に担ぎ上げる。


(うわわ……)


 鬼さん達はみんな身長2メートルクラスなので、俺の視点は優に2メートル半を超え、ちょっと怖い。


 千聡、潮浬、リーゼの三人は徒歩で俺の周囲を固め。シバは俺のヒザの上。後ろに空の輿三つが続く。


 せっかく用意してくれたのに申し訳ない気もするが、千聡達にしてみると魔王のすぐそばで護衛を勤めるのが最優先なのだろう。

 最近かなり千聡達の思考がわかってきた。


 担ぎ上げられた状態で歩かれると、祭りのお神輿みこしみたいに上下に揺れてちょっと不安定だが。魔王らしい威厳を意識して、精一杯堂々とを装う。



 ……最初は座っているだけでいっぱいいっぱいだったが、しばらく進むと少し慣れてきて、周囲を見る余裕も出てくるようになった。


 どうやらここは俺がイメージしていたような巨大な地下空間ではなく、どちらかと言うと長細い形であるらしい。天井の強度の都合だろうか?


 地下空間だからか風はほとんどないが。小川は普通に流れていて、途中で天井から細い滝のように水が流れ落ちている光景も見た。

 地下水脈を上手に掘り当てているのだろう。


 そして地下だからなのか、真夏なのにかなり涼しくて快適だ。

 24時間明るいのはどうかと思うが、意外と住み良い環境なのかもしれないな。


 ちなみに鬼さん達の一人に訊いた所。この拠点は中小の部屋が幾つも繋がった、アリの巣のような構造らしい。


 最下層にあるこの部屋は中でも一番大きく、縦1里に横半里くらいあるそうだ。


 ……昔の単位わからないなと思っていたら、千聡がそっと『4×2キロメートルくらいです』と教えてくれた。

 さすが頼りになる。


 そして、住民なのだろう人達の姿も見かけるが。それはもうまさに妖怪そのもので、獣人っぽい人やそもそも人型ですらない人。見上げるように大きい人から、子供より小さな人。空を飛んでいる人……と言うかキツネ? まで色々だ。


 子供達が集まって見上げてきたので、にっこり笑って手を振ってみたら、向こうも嬉しそうな笑顔で応えてくれた。


 たとえ外見がどんなに違っていても、基本の部分は同じなのだなと安心をし、嬉しくもなる。



 そんな事をしているうちに辿り付いたのは、この空間でも最奥。舞台のように造られた広い木製の床だった。


 壁も天井もない露天だが。ここは雨とか降らないだろうし、風もほとんど吹かないので、問題ないのかもしれない。


 そんな事を思っていると、聞き覚えのある玉藻さんの声で『魔王様のご到着です!』と大声が聞こえ。すでに集合していた人達が一斉に立ち上がる。


 ……その光景は壮観と言うか、さながら妖怪大百科のようで。指くらいの大きさしかない妖精のような人から、海坊主だろうか? 身長五メートルを超えるような巨体の持ち主までいる。


 壁や天井がないのは、この人への対応かもしれないね……。


 とりあえず俺に分かるのは他に、天狗てんぐさんや鬼さん。化けダヌキさんやカッパさん、狛犬こまいぬさんに小人さん……くらいだろうか?


 あとはなんの妖怪なのか、魔族なのかわからない人達が大勢。人間タイプの人も含めて100人以上も集まっている。


 俺はズラリと並ぶ魔族さん達の真ん中に空けられた道を、千聡の先導で。後ろに潮浬とリーゼを従えて、ゆっくりと歩く。


 沢山の視線が注がれているのを感じて緊張するが、千聡の姿が見えていると心強くて安心感がある。



 俺は最奥に用意されていた、たたみを5枚くらい重ねたような一段高い所に座らされ。どうやら俺の到着待ちだったらしい宴が開始される……。




 現時点での世界統一進行度……0.24%

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『私の願いを聞き入れ、記憶を失っておられるのに魔王として振舞ってくださる。なんとありがたい事か……一日も早く魔王様の記憶を取り戻せるよう頑張らなくては』忠誠度上昇

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