7 仲間
「閣下ー!」
千聡が仲間を出迎えるために立ち上がった瞬間。玄関の扉が勢いよく開かれて人影が飛び込んできた。……あれ、鍵閉めてなかったっけ?
――千聡がとっさに俺の前に滑り込んできて、スカートの裾を持ち上げ。ふとももに巻かれたベルトから短剣を引き抜いて身構える。
その向こうから人影が結構な勢いで、ほとんど水平に飛びかかってくる……。
『ゴン!』『痛っ!』
次の瞬間。人間ミサイルさんは千聡に撃墜され、顔から思いっきり床に突っ込んだ。
きれいな長い金髪が勢いのまま宙を舞い。千聡の体にかかるようにしてフワリと床に落ちる光景は、ある種幻想的な美しさを感じさせる……。
て言うか、わりと大きな音がしたけど大丈夫なのだろうか?
「リーゼ! 魔王様に粗相がないようにと言ったでしょうが!」
「だからゆっくり跳んだじゃないですかぁ……」
「ゆっくりならいいという問題ではありませんし、そもそも靴を履いたまま上がってくるんじゃありません! 玄関も鍵がかけられていたでしょう!」
「ちょっと力入れたら普通に開きましたよ?」
「貴女の普通は普通ではないでしょう! ――魔王様、申し訳ございません。扉はこちらで修繕いたしますので」
「あ、うん……」
千聡はそう言うと短剣をしまい。『リーゼ』と呼ばれた人間ミサイルさんは、服の襟首を掴まれて玄関へと引きずられていく。
見ると、たしかに軍人が履くようなごついブーツを履いたままだった。
「ちょ、師匠待って。首絞まってます首!」
俺が呆気に取られて見ているうちに。玄関まで引き戻された人間ミサイルさんは、靴を脱いだあと床掃除をさせられている。
……ちょっと冷静になった所でよく監察してみると、新登場の人間ミサイルさんは金色の髪に青い目をしているので、外国人だろうか?
身長は170センチの俺よりも高いかもしれない。顔立ちは中性的でカッコイイ感じ。ズボンタイプのスーツをピシッと着こなしていて、なんか女の人にすごくモテそうだ。
そんな事を考えていると、もう一人の人影が部屋に入ってくる。
「――――ああ、本当に……本当に魔王陛下だ……」
澄んだきれいな声と共に現れたのは。今度は一転、小柄な女の子だった。
一見して中学生くらいだろうか? 今度は日本人だと思う。千聡の友達だから、本人は『魔族です』とか言うのかもしれないけどね……。
とりあえず、もうなにが起きても驚かないぞと覚悟を決めて身構えていると。少女は早くも目に涙を溜めながら俺の元へと歩み寄ってきて――そのまま抱きつかれた。
「――ちょ! え??」
「ああ、陛下の温もりが……陛下の匂いがする……」
そしてなにやら、変態っぽい事を口走りはじめた。俺が感じるのは危ない人の匂いだ……いや、実際にはすっごい甘くていい香りがしてるけどさ……。
ついさっきの決意もどこへやら。一瞬意識が飛びかけたが、我に返ってとりあえず体を離そうとする。……が、小柄な少女の力は思った以上に強く、肩に手をかけてみてもビクともしなかった。
それどころか、俺の胸に顔を寄せて頬ずりまでしてくる。いかん、千聡に誤解される……。
「いつまでもそうしていないで、ちゃんとご挨拶と自己紹介をなさい」
慌てる俺の耳に、千聡の声が響く。
「いいじゃない、私にとっては13年ぶりに感じる陛下の体温なのよ。あなたは昨日散々味わったんでしょう」
「――そんな厚かましい事はしていません! 魔王様は記憶を無くされているのですから、不信に思われるでしょうが!」
「…………」
千聡の言葉に。少女は少しだけ体を離して、じっと俺を見上げる。
しばらくそうしていて、戸惑う俺の表情からなにかを察してくれたのだろうか。抱きついていた腕を解くと、少し距離を置いて正座をした。
そしてそのまま。千聡のようなきれいな土下座ポーズに移行して言葉を発する。
「失礼しました、魔王陛下。この世界でのわたしの名は若槻潮浬と申します。どうぞお見知りおきください」
……なんか、どこかで聞いたような台詞だ。さすがは千聡の仲間と言った所か。
「はいはい! 閣下、自分の名前はリーゼロッテ・エーベルハルトです! リーゼと呼んで下さい!」
人間ミサイルさんも、重ねるように自己紹介をしてくれる。……そして、千聡に睨まれて床掃除に戻っていった。
俺の情報は千聡から伝えられているらしいので、簡単に『烏丸和人、高校一年生』とだけ名乗り。続けて二人のプロフィールなどを聞く。
それによると、小柄な方が若槻潮浬さん13歳、中学二年生。身長は150センチもなさそうで、小学生と言われても違和感がないくらいだ。
俺が初見で中学生だと判断したのは、服の上からでもわかるくらいに胸が成長していたからで。それと相殺だったのだと思う。
もう一人の人間ミサイル……じゃなくてリーゼロッテさんは、身長170センチの俺よりも大きいかもしれないくらいで、二つ年上の17歳。やっぱり外国人で、オーストリア貴族の家系だそうだ。……オーストリア、カンガルーがいないほうだっけ?
……なお、二人共千聡の時とほぼ同じやり取りを経て、『潮浬』『リーゼ』と呼ぶ事になった。
ちなみに俺の事は『魔王陛下』『閣下』と呼ぶようで、誰も名前で呼んではくれないらしい……。
まぁそれはともかく。二人共かなりの美少女で、潮浬はかわいい妹系。リーゼはいわゆる中性系で、かっこよくて女の人にもモテるタイプだと思う。
理知的なお嬢様タイプである千聡も加えて、なんだかすごく華やかな光景だ。
あまり広くない部屋で美少女三人と近距離で一緒なんて、俺明日辺り死ぬんじゃないだろうか?
そんな事を考えている間に掃除を終えたリーゼもテーブルに着き。千聡が『では、魔王様の御臨席を賜って、御前会議を開催します』と宣言し。なにやら話し合いがはじまった。
議題はこれからの行動方針。特に世界征服に向けての活動と拠点整備、組織造りなどらしい。
俺にはさっぱり分からないので。テーブルを挟んで正面に座る千聡を、顔がニヤけないよう気をつけながら眺めていたが。ぼんやり聞こえてきた所では、当面はこのアパートを拠点にしつつ。俺の希望を容れて、目立たない形で世界征服を目指す方針らしい。
千聡曰く。世界征服に必要な物は、『カリスマ性のある偉大な指導者』『手足となって働く部下』『経済力と武力』『情報』の四つであるとの事。
その内、『カリスマ性のある偉大な指導者』は俺がいるので万全だそうだが。他はまだまだ足りないので、目下その充足と拡張に力を注ぐのだそうだ。
……俺としては、むしろ一番問題があるのは千聡が万全だと言った部分な気がするけどね。
俺は烏丸姓なら備えているが、カリスマ性なんて欠片も備えていない自信がある。
むしろどちらかと言うと、地味で目立たないタイプなのだ。
だがそんな事を言っても千聡は納得しないだろうから、黙って会議の様子を眺めていると。ふと、メンバーの一人。潮浬に見覚えがある気がして、視線が止まった。
まさか前世の記憶とやらのはずはないので。どこかで会ったのだろうかと、記憶を辿る……。
……しばらく頭を悩ませていた俺は。急にふと思い当たって、言葉を発した。
「――ごめん、ちょっとテレビ点けてもいい?」




