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65 目に映る光景

 潮浬が着替えを済ませて戻ってきた頃。千聡と水竜さんの話も大体終わったようだった。


 千聡の報告によると、水竜さんから『娘を魔王様の元に預けたい』と申し出があったらしく、湖から竜がもう一匹。二回りほど小さいのが姿を現した。


 小さいと言っても俺くらいなら余裕で飲み込んでしまえそうなサイズがあるが。それが一瞬銀色に光ったかと思うと、着物姿で小舟に乗った黒髪の女の人へと変化していた。


 これは……ちょっとトリックとか演出とかでは説明できないものを見た気がする。


 女の人はそのまま俺の前までやってきて、きれいな着物が汚れてしまうのも気にせずにひざまずく。


多津姫たつきと申します。どうぞよろしくお願いいたします……」


 透明な水のように、冷たく透んだきれいな声。そしてそれに、なにやら思い詰めたような表情が加わる。


 ……水竜さんは『預ける』って言ってたけど、なんかお嫁に来るような雰囲気だ。


 近くで潮浬が、なんか怖い目をして多津姫さんをにらんでいらっしゃる……。


 俺はとなりにいる千聡に、小声でそっと耳打ちした。


(千聡、なんとかやんわり断れないかな?)


 俺の言葉に千聡は小さくうなずいて、湖にいる水竜さんに向けてよく通る声を発する。


「魔王様は貴方の事を信頼し、人質のたぐいは無用であるとおおせです。恐れ多くも上意じょういとして、『当面は父娘おやこで共に暮らし、いずれ好いた相手を見つけて結婚するがよい。親の都合で子の生き方を左右する事は好まぬ』とのご意向ですから。魔王様の寛容さに感謝し、以後忠節を尽くしなさい」


 千聡の言葉に、水竜さんは驚いたような表情(多分)を浮かべ。多津姫さんも目を見開いて顔を上げる。


 ……しばらくして、水竜さんの重たい声が湖に響いた。


「――魔王和人様。このたびのご温情、決して忘れませぬ……。我が力を必要とされる時があれば、いつでもお呼びくださいませ……」


 水竜さんはそう言って、また頭を半分水に沈める。

 やっぱり水竜式のお辞儀なのだろうか?


 一方で多津姫さんも、『ありがとうございます……』と言って、目に涙を浮かべて頭を下げた。


 俺と結婚するのが泣くほど嫌だった……とは思いたくないし、まだそんなに嫌われるほどの付き合いもないはずだ。

 多分結婚自体が嫌だったのだろう。他に好きな人でもいるのだろうか?


 水竜さんの様子からしても、もしかしたら軍門に下るイコール人質を差し出すみたいな認識があって、それが嫌だから抵抗していたのかもしれない。


 だとしたら、ぜひその人と結婚して幸せになってほしい……。


 そんな事を考えていると、水竜さんから娘の代わりにつのを献上すると申し出があり。湖から丸太のように太くて、いくつも枝分かれした大木のようなものが引っ張り上げられている。


 最初に水竜さんを見た時から、片方にしか角がなくて不釣り合いだなと思っていたのだが。どうやらこれは潜っていった潮浬が叩き折ったものらしい。


 ……ていうかこれ。俺達もしかして、娘を人質に出すのを嫌がって引きこもっていた父親の所に押しかけて角を叩き折り。さらにはその角を強奪していくという、かなりの悪人ポジションなのではないだろうか?


 水竜さんが従うのを拒んでいた理由は俺の想像だから、実際の所は分からないけどね……。


 ちなみに千聡によると、角の価値は水竜さんよりも上位種である俺の血はもちろん。髪やつめにさえ遠く及ばないらしいが、それでも一応は竜の角だからそれなりの薬効があるそうで、色々と使い道があるらしい。


 俺の髪や爪なんて、ゴミにしかならないと思うんだけどね……。



 とにかくなにはともあれ、今回の件は丸く収まったっぽいが。やっぱりどう考えても俺いらなかったよね?


 今にはじまった事じゃないから気にしないけどさ……。


 心の中でちょっとだけ凹んでいると、玉藻さんがやってきて不手際を詫び。深々と頭を下げてお礼を言われた。


「偉大なる魔王和人様。おかげ様でこうして、400年ぶりにこの国の魔族勢力を再統一する事ができました。病を癒して頂いた事と併せて、感謝に耐えません」


「うん……」


 そういえば、玉藻さんって昔は日本全土を統べる魔族(妖怪)のおさだったけど、病気になって体が衰えたせいで勢力が西日本だけに半減したって設定だったな。


 設定……だったんだよな?


 水竜さんと娘さんの姿を見た事で認識が大きく揺らいでいるが、顔に出ないようにと必死に取りつくろう。


「つきましては近日中に再統一を祝う祝宴を催したいと思いますので、ご臨席を賜る事ができれば大変光栄に存じます。日程などはご都合に合わせますので、ぜひに……」


「う~ん……そういう話は千聡とやってもらえるとありがたいかな」


「……そうですか、承知いたしました。では改めて、参謀殿を通じて申し入れをさせて頂きます」


 玉藻さんはそう言ってもう一度頭を下げると、俺の前を辞していった……。


 なんかちょっとだけ違和感を覚えたが、それを肯定するように。俺の隣で玉藻さんをじっと見ていた潮浬が、千聡に向かって言葉を発する。


「あなたなら100も承知だろうけど、一応言っとく。陛下の配下としての上下を争う分には好きにすればいいけど、もし陛下に迷惑をかけるような事があったら、わたしも黙ってないからね。部下はちゃんと管理しときなさいよ」


「言われるまでもありませんが、玉藻殿は魔王様の配下であって私の部下ではありません。配下のうち誰を重用ちょうようするかは魔王様のご一存で決まる事ですから、私はただ己の職域を全うするのみです」


「相変わらずめんどくさい事を……」


 千聡の返事に、潮浬はちょっと不機嫌そうな表情を浮かべてつぶやくように言う。


 ……これはあれだろうか、もしかして権力争いみたいなものが起ころうとしているのだろうか?


 よくわからないけど千聡がいなくなってしまうのは悲しすぎるので、千聡には頑張って欲しい。


 権力争いに負けた結果、対等の恋人同士になってくれるというなら大歓迎だけど、多分そうはならないだろうからね……。



 そんな事を考えているうちに事後処理的なものも終わったらしく。俺達は千聡が用意してくれた宿へと向かう事になる。


 俺は初めて目の当たりにした転移魔族という存在に、今まで設定だと思っていた魔族や転生という話に対する認識が大きく揺らぎ。

 もしかして千聡達の話は本当だったりするのだろうかと、頭を悩ませながら車に揺られるのだった……。



 現時点での世界統一進行度……0.24%(+0.03)

・日本の魔族勢力を全て配下に

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『さすが魔王様、配下の心を掴む方法をよく心得ておられる。水竜殿は玉藻殿よりも信頼の置ける相手になるかもしれない』忠誠度上昇

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