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64 初めて見る転移魔族

「状況は?」


 千聡に状況報告を求められ。玉藻さんは少し気まずそうに目をそらす。


「それが……水竜殿は『新参の魔王など認めぬ。会って欲しければここまで来るがよい。来られるものならな』と言って、湖底に引っ込んでしまいまして……」


 その言葉に、千聡達三人に『ピキッ』と怒りの感情が走り。潮浬が真っ先に口を開く。


「魔王陛下が直々に足を運んでくださったのに、なんて失礼な! わたしが行って引きずり出してきます!」


 そう言うが早いか、暗い斜面を湖岸へと降りていく。


「ちょ、お待ちを! この湖は日本一深くて、水深400メートル以上あるのですよ!」


 そう慌てた声を上げたのは、さっき紹介された玉藻さんの配下の一人。たしか、お隣の岩手県は遠野からお越しのカッパさんだったと思う。


 東日本の魔族(妖怪)の中でも早くから玉藻さんに従った協力者という話だったが。見た目は普通のおじさんで、カッパらしい要素といえば頭頂部の……これ以上はやめておこう。


 俺がそんな事を考えていると、足を止めた潮浬がちょっと苛立いらだたしげに言葉を発する。


「400メートル以上あるからなんなのよ!」


「いや、400メートルですよ? 海ですら水深200メートル以上は深海と呼ばれる別世界です。私のような元水棲すいせいの魔族であっても、特別な装備なしでは潜る事はできません」


「それはあなたの話でしょ。わたしだって元水棲の魔族だし、400だろうが一万だろうが潜れるわよ。黙って見てなさい!」


 お怒りモードの潮浬はそう叫ぶように言い、ザブザブと服のまま湖に入っていく……一見すると完全に入水じゅすい自殺だ。


「潮浬、せめて水着に着替えた方がいいんじゃない?」


 着衣水泳は難しいと聞くのでそう声をかけるが、今度は一転。とてもゴキゲン良さそうな声が聞こえてくる。


「お気遣いありがとうございます。陛下と二人きりなら水着でも下着でも全裸でもいいのですが、他の男の目がある場所で肌を晒すのは嫌ですから」


 潮浬はそう言うと、背中から倒れるようにして湖面に水しぶきを立て。そのまま姿が見えなくなってしまう……。


 二人きりでも全裸はダメだろうとか。そういえば潮浬は家にいる時はわりと露出の多い服を着ているけど、外に出る時やテレビの中では全く肌を見せず。常に長袖のロングドレスかロングスカートだったなと思い出して、あれにはそんなこだわりがあったのかと一人納得する。


 ……ってそうじゃなくて。ただでさえ着衣水泳という時点で危険なのに、おまけに夜とか。本当に大丈夫なのだろうか?


 さすがに400メートルも潜れる訳がないから、暗いのを利用してどこかに隠れているか。あらかじめ水中に空気ボンベが用意してあって、浅い所で潜っているかだと思うけど。それにしても心配だ。


「……ねぇ千聡。潮浬大丈夫だよね?」


「こと水中に関する限り、心配はないでしょう。相手が海王リヴァイアサンだというなら別ですが」


「お、おう……」


 海王リヴァイアサン……なんか前にも聞いたような気がするな。



 とりあえず異常は起きていないようなので黙って待つ事にするが。時間の経過と共に、周囲では玉藻さんの部下達がちょっとザワつきだしている。潮浬が湖に入って、もう15分ほどになるだろうか……。


 ――と、不意に月明かりを反射する湖面に小波さざなみが立ち。次の瞬間水面が大きく盛り上がって、巨大な竜の頭が姿を現した。


 周囲が大きくざわめき。そのリアルさと巨大さに俺も呆然とする中。潮浬が湖から上がってきて、ズブ濡れのまま俺の前で片膝かたひざを着く。


「魔王陛下、水竜を連れてまいりました。無礼をお詫びしたいとの事ですので、できましたら寛大な措置をお願いいたします」


 その言葉に続いて、大気を震わせるような。お腹に響く重い声が発せられる。


「まさか本当に竜神様とは……此度こたびの無礼、平にお許し頂き、どうか我等も配下に加えてくださいませ……」


 その言葉と共に、大きな竜の頭が半分水に沈む。水竜式のお辞儀じぎかなにかだろうか?


 そしてなにやら、すでに問題は解決したんじゃないかと思うような展開だ。


「……よかろう、配下に加わる事を許す。あとの事は参謀と話をせよ」


 ――こういう時はとりあえずそれっぽい事を言って、千聡に丸投げするに限る。

 この一ヶ月ほどで覚えた必勝パターンで、千聡も嬉しそうにするので一石二鳥だ。


 そして流れは目論見もくろみ通り、千聡中心へと移行してなにやら話が行われているが、俺の興味はこの水竜がなんなのかだ。


 月明かりしかないのであまりよくは見えないが、口は動くしヒゲもピクピク動く。目が派手に光ったりせず、月明かりを反射してたまにきらめく程度なのが逆にリアルだ。

 浮いたり沈んだりする事からして、潜水艇に稼動人形みたいなのを乗せてあるのだろうか?


 だとしたらすごい手間だが、それよりも動き方といい質感といい。生きた生物にしか見えないのだ。

 だが俺の知る限り、こんな生物は日本はおろか世界にも存在していない……。


 呆然としている俺を気遣ってだろう。潮浬が近寄ってきて言葉をかけてくれる。


「陛下、顔色が優れないようですが大丈夫ですか?」


「あ……うん、ちょっと水竜さんに驚いちゃってさ」


「――そういえば陛下は、転移型の魔族を見るのは初めてでしょうか?」


「転移型?」


「はい。陛下やわたしみたいなのは、この世界に人間として生まれ変わった元魔族ですから、転生型。あの水竜は姿形をそのままにこの世界に飛ばされてきた魔族ですから、転移型です。転移型はそもそも数が少ないうえに今は人間を避けて暮らしているので、人間として生きていると見る機会はめったにないですね」


 ……そういえば、千聡からもそんな話を聞いた記憶がある。


 あの時はそういう設定の話なんだと思って聞き流していたけど。実際に水竜を目の前にすると、本当だったのかもしれないと思えてくる。


 俺の中ではまだ信じられないという感情が強いが、でも目の前にいるあの竜を否定する根拠を、見つけ出す事ができないでいた……。


「……陛下、本当に大丈夫ですか? 苦しそうにお見受けしますが?」


 潮浬が、心の底から心配そうに訊いてくれる。どうやら俺が悩んでいるのが体調不良に見えるらしい。


「ありがとう、本当に大丈夫だよ。……って、それより潮浬の方こそビショ濡れじゃない。着替え持って来てるよね? 車の中で着替えてきたら?」


「温かいお言葉痛み入ります。ではお言葉に甘えて……陛下もご一緒なさいますか?」


「……え?」


 あれ、話の脈略がさっぱりわからない。


 潮浬は濡れているので着替えをする。これはいいとして、なんで俺がご一緒するのだろうか?


 俺は濡れていないし。仮に濡れていたとしても、一緒に着替えとかあまり聞かないワードである。そもそも潮浬と一緒に着替えは色々まずいだろう……ってああ、そういう事か。


「俺は濡れてないから大丈夫。ゆっくり着替えてきて」


「別に陛下は着替えなくても大丈夫ですよ。わたしが着替える所を間近で見て、気が乗ればそのまま抱いてくださったりすると最高ですが、そこまでは高望みとして。男性はおっぱいを触ると悩みが消えるとネットで見ましたので、それだけでもいかがでしょうか?」


 うん、やっぱりその手の話だよね……。そして潮浬、普段ネットでなにを見ているのだろうか?

 俺の元気がないと思って気遣ってくれるのはうれしいけど、気遣い方がちょっとどうかと思う。


「ええと……俺はいいからゆっくり着替えてきて」


 ……わかりました。ではいずれという事で。


 潮浬はそう言うと、肩を落として車へと向かう……いずれという事は、そのうちやる気なのだろうか?


 俺は心にチクチクしたものを感じながら潮浬を見送り、改めて水竜さんと千聡達に視線を戻す。



 今回の件。潮浬だけでよくて俺いらなかったんじゃ……と思えて仕方がないが、それはまぁそれとして。


 俺はどう見ても本物にしか見えない巨大な水竜さんを見ながら、この状況を説明する答えを捜し求めるのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.21%

・西日本の魔族と東日本の四割

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『光栄にも魔王様に交渉をお任せ頂いた。頑張らねば……』忠誠度上昇

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