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62 聖剣の存在

 有紗さんの昔語りは一応終わったようなので、俺は疑問に思った事を訊いてみる。


「それで魔王との戦いで聖剣が折れて、その時発生した光に包まれて有紗さんもこの世界に転生した……って話でいいんですよね?」


「そうだね。はじめて生まれ変わったんだって気付いた時には、正直ホッとしたよね」


「その聖光石……でしたっけ? それはどうしたんですか?」


「あたしが握って産まれてきたんだってさ。5歳の誕生日に、お母さんがそう言って渡してくれた」


「見せてって言ったら見せてくれます?」


「んー、和人君の事は信用してるけど、今これを外したら秒で襲い掛かってきそうな相手が三人もいるからなぁ。着けたまま見るならいいよ」


 有紗さんはそう言って、胸元から小さな水色をした石を引っ張り出す。着けたままって……。


 ネックレスの鎖はあまり長くないので、当然俺が有紗さんのすぐそばまで行って、胸元を凝視ぎょうしする事になる。


 有紗さんはTシャツ一枚で上着は着ていないし、胸はわりと自己主張しておられるので、さすがにちょっと照れ臭い。


 おまけに千聡辺りが『魔王様、危険です!』って反対しそうだし、潮浬辺りが『陛下、胸が見たいのならわたしが!』とか、よく分からない事を言ってきそうだ。


 千聡達は前の世界ゆかりの品は持っておらず。千聡の肩にある傷痕は前世由来らしいけど検証不可能なので、有紗さんのネックレスが元の世界由来なら見せてもらって、メーカー名とかメイドインどこそことか書いてあったら『うん……』って思う事ができるかと思ったのだが、無理だったようだ。


 もっとも、さすがにその辺は対策されてるかもしれないけどね。


 という訳でそっち方面を探るのは諦めて、ちょっと方向を変えてみる。


「話に出てきた聖剣は持ってないんですか?」


 俺がその言葉を発した瞬間、千聡がピクリと反応した気がしたが。有紗さんはまたコップを口に運びながら答えてくれる。


「聖剣は持ってなかったみたいだよ。さすがにあんなもの持って産まれてこれないしね。……でも魔王に折られたとはいえせいぜい半分だから、あれば短剣みたいに使えたかもしれないね」


 有紗さんは『あれば短剣みたいに使えたかもしれないね』の部分でちょっと意地悪そうな笑みを浮かべて千聡を見たが、しばらくすると悲しそうな表情になってコップに視線を落とす。


「まぁ、無くなってよかったけどね。生まれ変わってまで、また勇者なんてやりたくないもんね……」


 有紗さんはそう言いながらコップを干し。またトポトポとお酒を注ぐ。


「……飲んでばっかりだと体に悪いですよ。焼け石に水でしょうけど、ちょっとは野菜も食べないと」


 そう言って、イカと大根の煮物をズズッと有紗さんの前に押しやる。


「ありがとう、和人君はいい子だねぇ」


 有紗さんは目を細めてそんな事を言い。イカをつまんで口に運び、おいしそうにお酒で流し込む……いや、野菜を食べろ。


 心の中でこの人はもうダメかもしれないと思っていると、有紗さんは感慨深そうに言葉を発する。


「春に和人君を見かけた時には、この世界でもかって絶望したけど。記憶を失っていて、しかもそこらの人間よりも無害だって分かった時には、思わず神様に感謝したよね。ホントによかったよ……」


 有紗さんはしみじみとそう言うと、コップに残っていたお酒を一息に飲み干し。そのまま仰向けに倒れてしまう……。


 毎度おなじみの、倒れるまで飲んでお休みモードだ。

 千聡達が、大の字になって幸せそうに眠る有紗さんをじっと見つめている……。


 複雑そうなその表情は、有紗さんの話になにか思う所があったのか。

 あるいは仇敵きゅうてき……という設定の相手が無防備な姿で眠っているのに、なにもできないからなのか。


 リーゼがなにかを確かめるように、有紗さんにそっと指を伸ばしたが。静電気でも溜まっていたのか、『バチッ!』とかなり大きな音と青白い光を発したので、指を引っ込めてしまった。


 まるで話に出てきた聖光石のパワーが本当にあるみたいだったが。俺が触ってみるとリーゼで放電が終わったのか、なにも起こらない。


 このままここに転がしておく訳にもいかないので、部屋に運ぶべく背中に乗せる俺を。千聡達はものすごく不安そうに見つめていたが、過去に何度も経験があるので大丈夫だ。


 千聡が先に立って扉を開けてくれ。潮浬とリーゼがいざと言う時の補助なのか。すぐそばにピタリと陣取る。


「リーゼ、有紗さんのウイスキーペットボトルを持ってきてあげて。多分命の次の次くらいに大切なものだから」


 半分冗談だし、命の次が何なのかも想定していないが。以前酔っ払ってフタが開いた状態で倒してしまった時には、この世の終わりみたいな悲鳴を上げていたので、大切なのは間違いないと思う。


 俺の言葉に、リーゼはずいぶんと減ってしまったペットボトルを手に、ピタリと後ろをついてくる……。



 そうして有紗さんの部屋。204号室の前までやってくるが、千聡がそこで止まっていたので、『多分開いてるよ』と言うと、千聡はちょっと驚いた様子でドアノブに手をかけ、扉を開いた……。うん、たしかに信じられないほど無用心だよね。驚く気持ちはよくわかる。


 話に出てきた聖光石の力がたとえ本当だとしても、空き巣には効果ないだろうにね……。


 千聡が先に部屋に入って、なにかを調べるように天井とか壁とかをキョロキョロ見回しているが。罠とかはないと思うので安心して欲しい。


 そんなものが仕掛けてあったら、真っ先に酔った有紗さんが引っかかるだろうからね……。


 俺は有紗さんをベッドに寝かせ、薄いタオルケットをかけてあげる。相変わらず手間のかかる人だが、今日は吐かなかっただけ善しとしておこう。

 お土産おいしかったしね。


 目覚めた時に飲む用に、水道水をペットボトルに詰めて枕元に置き。振り返ると、千聡が今度はなにかを探すように。物が積み上げてある辺りをキョロキョロ見回していた。


 今度はなにを探しているのだろう? 有紗さんがないと言っていた聖剣とかだろうか?


 だが残念な事に、部屋には買い置きのお酒とお酒のお供。あとは脱ぎ散らかした服くらいしかない。

 お金目当ての泥棒なら、そのままUターンしてお帰りになるレベルだ。


 空き缶やビン・ペットボトルなんかがちゃんとまとめられているのは、有紗さん行きつけの酒屋さんはリサイクルに力を入れていて、お店のシールが貼られた缶・ビン・ペットボトルを持ち込むとポイントに交換してくれて。それがいずれ商品券に換わるからだろう。


 俺はいつの日か。近所でゴミを漁ってそのシールを探す有紗さんの姿を見かける日が来なければいいなと、わりと本気で思っている……。


 ……まぁそれはともかく。このままだと千聡が家捜しとか始めてしまいそうなので、早々に撤収して執務室へと戻る事にした。



 こうして、千聡達と有紗さんの対面初日は騒がしく過ぎ。潮浬が『陛下、あの女の部屋に行き慣れたご様子でしたね……』と暗い目で言うのを乾いた笑いで誤魔化しつつ、一日が終わるのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.19%

・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を正式に配下に


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『勇者に対しても寛大で慈愛じあいに満ちた振る舞い。どこまでも器の量り知れないお方だ。いや、そもそも私などが器を量ろうとする時点で恐れ多い……』忠誠度上昇

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