54 お揃いのキーホルダー
リーゼと一緒に買い物をしている所に突然潮浬が現れ。俺達は一緒にお昼を食べる事になった。
このショッピングモールは最上階……と言っても三階だが、そこが飲食店街になっていて、潮浬は迷う事なく。その中でも一番高級そうな和食の店へと入っていく……。
「あの、潮浬。予算の方が……」
「ご馳走しますからご心配なく。この店は個室があるのです」
どうやら潮浬は以前に来た事があるらしい。なるほど、個室なら潮浬が人目を気にせずにすむ訳だ。
中学生にご飯を奢ってもらうのは若干の抵抗があるが、そもそも経済力がミジンコとシロナガスクジラくらい違うので、今更そんな見栄を張ったって意味がない。
なので、ありがたくご馳走になる事にする。
個室に案内されて注文を済ませると、潮浬はおもむろに眼鏡をと……る事はなく。声もお姉さん風のままで言葉を発する。
「陛下、色々と訊きたそうな顔をしておられますね」
「うん……でもそれより先に、潮浬の方こそなんか用があってここに来たんじゃないの?」
「いえ、特段の用向きなどはありませんよ。ちょうどお昼でしたし、陛下とゆっくり話がしたいなと思ってお誘いしただけです」
「あれ、そうなの? わざわざここに出向いて来たくらいだから、何かあるのかと思ったのに」
「ちょうど仕事が終わったタイミングで陛下の居場所を調べたら、ここだったのでここに来ただけですよ。わたしが帰るべき場所は家ではなく、陛下の隣ですから」
……個室でよかったなと思うような恥ずかしいセリフを平気で言い放つが、一部聞き捨てならない箇所がある。
「調べたって、もしかして俺発信機とかつけられてる?」
「いえ、陛下相手にそんな失礼な事はしませんよ。千聡に連絡を取って家にいるかの確認をして。お出かけだと聞いたので、リーゼちゃんの位置情報を調べたのです。護衛としてお傍にいるはずですからね」
なるほど、俺じゃなくてリーゼに発信機がついていた訳だ。位置情報と言っていたから、スマホのGPSかなんかだろう。
とりあえず、潮浬を差し置いてデートをしたとか問い詰められる案件じゃなくて安心した。いやまぁ、実際デートじゃなかったけど。潮浬は冗談と本気の境目が分かりにくい。
「……潮浬は、この店に来た事あるの?」
「はい。最近は移動時間節約のためにこの近くで仕事をする事が多いので、その関係で」
「近くで仕事って、できるの?」
「録音や取材はスタッフと設備があればどこでもできますし、撮影も簡単なものならなんとでもなります。今は近くに仮のスタジオを用意してもらっていますが、そのうちちゃんとしたものができるでしょう」
……潮浬、本気であのアパートに定住する気なのかな?
「そういえば、せっかく個室に来たのに変装したままなの? ていうかそれ、すごいクオリティだね、全然潮浬だって分からなかったよ。身長は靴に細工してるにしても、雰囲気も声も全然違うし」
「お褒めに預かり光栄です。わたしは元々、姿形を変えるのが得意ですから。以前のように能力で変える事はできませんが、もし陛下がお望みの外見や声があれば、可能な限り再現してずっとそれでいますよ。今変装を解かない理由は、この格好で別段問題がある訳ではありませんし、個室とはいえ誰も来ない訳ではありませんからね」
潮浬の言う事を証明するようなタイミングで、店員さんが料理を運んできてくれる。
なるほど。高級料亭とかなら店員さんの口も堅いと聞くけど、このお店はここら辺ではちょっと高級なだけで、料亭とかには及ばない。
というか多分、店員さんはバイトだと思う。
もし潮浬の姿が目撃されたりした日には、優秀な田舎ネットワークで夜には街中に情報が広まっているだろう……。
「……あれ、じゃあなんでわざわざ個室に来たの?」
「個室の方が陛下との時間をゆっくり過ごせるからですよ」
……うん。まぁ、リーゼの『閣下』もそうだったが。人がいる所で『陛下』とか呼ばれても返事をしにくいし、正しい判断なのかもしれない。
運ばれてきたテンプラ定食を食べながら、俺はお姉さんバージョンの潮浬を見て、(眼鏡も似合うな……ていうか、多分どんな格好しても似合うんだろうな……)などと、ぼんやり考える。
「あ、先輩。そういえば師匠が言ってましたけど、明日イリス……なんとか公爵が来るらしいですよ」
「…………」
いち早く三人前のカツ丼を食べ終わったリーゼの言葉に。お造り定食のエビを口に運ぼうとしていた潮浬の手が、ピタリと止まる。
「あれ、先輩?」
リーゼって、わりと平気で地雷踏みに行くよね。いやまぁ、どうせ分かるんだから遅いか早いかの違いだけだけどさ。
「……陛下。わたしと一緒にどこか遠い南の島にでも行って平和に暮らしませんか? 何一つ不自由はさせないとお約束しますから」
箸を置いて、じっと俺の目を見ながら言う潮浬……。いかん、なんか目が本気だ。
「えっと……今の所あんまり乗り気じゃない……かな」
「そうですか……」
潮浬は視線を伏せてつぶやくように言うと、しばらくしてゆっくりと食事を再開する。
毎回心が痛む光景だが、なんか今日は一段と空気が重い気がする……そうだ!
「ねぇ潮浬。これ、いつもみんなにお世話になってるからお礼にと思って買ったんだけど、貰ってくれる?」
本当はみんな揃った時に渡そうと思っていたけど、場の空気を変えるために。今こそ出番だキーホルダー。
「――これを、わたしにですか?」
「うん。みんなでお揃いなのをと思ってね。はい、リーゼもこれ」
「ありがとうございます、閣下!」
元々リーゼが興味を示したものなので、リーゼはすごく嬉しそうに受け取ってくれる。
一方で潮浬は、キーホルダーを両手で包むように持ち。じっと見つめたまま微動だにしない……お気に召さなかったのだろうか?
……よく考えたら、千聡には引かれるかどうか微妙なラインだと思っていたが、潮浬はもっとラインが高そうだ。
出会ってから同じ服を着ているのをほとんど見た事がないし、ファッションにはすごく気を使っていそうである。
おまけに大人気アイドルだから、プレゼントもいっぱい貰っているだろう。
トドメに、買ったお店に『2000円以上の商品は無料でラッピングいたします』と書いてあって。それ以下の商品のラッピングは一点280円との事だったので、まぁいいかと思って剥き出しのままだ。
さすがにこれを潮浬に渡すのは失礼だったかもしれない。
「……あの、潮浬? 気に入らなかったのなら……『そんな、とんでもありません!』
「おおう……」
食い気味に、かなりの勢いで言葉を打ち消されてちょっとびっくりした。
「思いがけず陛下から贈り物をいただき、感激のあまり呆然としてしまっただけです。ありがとうございます陛下、大切にいたします……」
「う、うん……。そんなに高いものでもないから、気軽に普段使いしてやってくれるとありがたいかな。……アイドルが持つのにふさわしくないとかだったら、無理にとは言わないけど」
「わかりました。厳重に保管しておこうかと思いましたが、陛下がお望みなら常時身につけておきましょう」
「え、いやそこまではしてくれなくていいよ……そんなに大したものでもないし」
「陛下からいただいたというだけで、わたしにとっては何にも勝る宝ですよ。大切なのは、何を貰ったかではなく誰に貰ったかです。陛下からいただいたものなら、そこらで拾った小石や枯葉一枚であっても、他の誰から貰ったどんな宝石やドレスよりも、わたしにとってはずっと価値があります。陛下からいただいたという、その事実が嬉しいのです」
「お、おう……」
まさかの俺のほうがドン引きする展開になってしまったが、とりあえず喜んでくれたようでなによりだ。ごきげんも直ったらしい。
みんなでお揃いのアクセサリーをつけるというリーゼの希望も、問題なく叶いそうだ。
昼食を終えた俺達はアパートへと戻り。千聡にもキーホルダーを渡すと、なんかものすごく恐縮して、床に平伏しながら受け取ってくれた。
『この短期間に二度も御下賜の品を頂けるとは……』と、よくわからないけどどこかで聞いたようなセリフを言っていたので記憶を辿ってみたら、第一次千聡に嫌われよう作戦でジュースを買いに行ってもらった時。130円のジュースに対して100円玉一枚しか渡さなかった時の、あの100円玉で聞いた言葉だった。
どうやら千聡の中では、ジュース代(30円不足)とプレゼントが同じ枠であるらしい。
潮浬が言っていた、『何を貰うかではなく誰に貰うか』というやつだろうか?
とりあえず、千聡と対等の恋人同士になるのがまだまだ遠そうな事だけはよくわかった。
キーホルダーはなんか大事にしまい込まれそうな気がしたので、潮浬の時と同じく気軽に使って欲しいと頼んだら、どうやら使ってくれる事になったらしい。
指の先ほどの小さなキーホルダーだから、そう邪魔になる事もないだろう。
明日はイリスさんが来るらしいのでまた揉め事の予感がするが。とりあえず今日の夜は千聡が見ていてくれた角煮をみんなで食べながら。平和に過ぎていくのであった……。
現時点での世界統一進行度……0.16%
・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『またも魔王様から品を下賜された。至らない私の働きに、それでも一定の評価を頂いているのだろうか? もっとお役に立てるように頑張らなくては』忠誠度上昇




