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52 お金は大事だよ

 潮浬がアルバイトを紹介してくれるというので聞いてみたら、一回一億円で体を売る話だった件……。


 なんだろうね。ちょっと現実の話とは思えないが、潮浬はおそらく真面目に言っているので、俺も真面目に向き合わないといけないのだ。


 ……というか、よく考えたら一億とか中学生が持ってる訳……ない事もなさそうだな。なんせ潮浬は世界的な大人気アイドルだし。


「ええと……さすがに一回一億は高すぎるのでは?」


「そんな事はないと思いますが、二割引にしていただけるなら大歓迎です。もし陛下がうなずいてくださるのなら、今すぐ銀行に全力疾走して5億6千万円おろしてきますよ」


 なにその具体的な金額…………ああそうか、7回分7億円から二割引いて5億6千万円か。俺の手書き残念Tシャツの文字が思わぬ所で活用されたものだ……って、7回分?


 なにをすると一回なのかとか、どれだけの期間で7回分消費するつもりなのかとかは、気になるけど訊かないでおこう。


 そして潮浬に体を売ったお金で千聡や潮浬へのプレゼントを買うとか、千聡とのデート費用に当てるとか、なんか違う気がする。


 ……て言うか、よく考えたら根本的な部分で間違ってるなこれ。最近常識が改変されつつあるんじゃないか俺?


「えっと……そういうのじゃなくてもっとこう、設営とか荷物運びみたいな仕事ないかな?」


「陛下にそんな事をやらせたら千聡に殺されそうですし、わたしとしてもあまり気乗りはしませんね……お金がご入用なら、それこそ千聡にお命じになればよろしいのでは? わたしにでも構いませんが」


「――ん? それって千聡に『お金ちょうだい』って言えって事?」


端的たんてきに言えばそうですね。もっと威厳いげんを持たせて、『資金を献上せよ』とかの方が千聡は喜ぶと思いますが」


「喜ぶの?」


「それはそうですよ。あの子はまだ陛下と合流を果たす前から、いつか陛下のお役に立つ日が来ると信じて、寝る間も惜しんで経済力を養っていました。それを陛下が直接お召しとなれば最高の形で夢が叶う訳ですから、それはもう喜ぶでしょう」


「……でもそれ、世間で『ヒモ』って言わない?」


「なんと呼ぶかは個人の価値観次第ですが。千聡にとっては金策も参謀の仕事の内でしょうから、主君から参謀として必要とされたと感じるでしょうね。むしろ陛下がアルバイトを始めたりしたら、『私は必要として頂けなかった……』とか言ってものすごく凹みそうです」


「……それって、俺への好感度下がる?」


「いえ。自分の無力さを呪いこそすれ、陛下に責任を転嫁てんかする事などないでしょう」


 責任……?


「ちなみにわたしも、陛下がアルバイトをなさるのにはあまり賛成いたしません。もちろん陛下の希望を尊重しますし、ダメと言われたら変装してでもアルバイト先についていきますが、それでも今よりは一緒にいられる時間が減ってしまうでしょうからね。そんな事になるくらいなら、必要な金額をお申し付けいただいた方がずっとマシです」


「……今なんか、俺のバイト先についてくるって聞こえた気がしたけど?」


「正確に伝わったようでなによりです。多分と言うか間違いなくですが、千聡も来るでしょうし、リーゼちゃんも来ますよ。護衛の任務はもちろんですが、みんな陛下と一緒にいたいですから」


 ……一緒にいたいと言ってくれるのは嬉しいけど、一瞬『ストーカー』という文字が頭をよぎったのは気のせいだろうか?


 でもそうか。千聡から『外に出るときは護衛を』と言われているのも事実だし、俺のバイトはみんなに負担をかけちゃう……のか?


 かと言って千聡や潮浬からお金を貰うのは全力で気が引けるし、なんか超えちゃいけない一線な気がする。さて、どうしたものだろう?


 頭を悩ませていると、潮浬がそれを見透かしたように言葉を発する。


「陛下。でしたらとりあえず体を売るのは後日に延期として、身の回りの品を売ってみるのはいかがでしょう?」


「……中止じゃなくて延期なのは置いといて、売るってフリマサイトとか? でも俺、そんなお金になりそうな物持ってないよ?」


「身の回りの品でよいのですよ。たとえばそう……そのTシャツなどいかがでしょうか?」


「え、これ?」


 潮浬が興味を示したのは、千聡を引かせるために作った残念Tシャツ。手書きで『二割引』と大書きしてある。


 こんなもの売れる訳が……いやまてよ。買いそうな人物に心当たりがあるな。


「潮浬、もしかしてこれ欲しいの?」


「欲しいか欲しくないかで言えば、ものすごく欲しいですね」


「でもこれ、油性マジックで書いたから洗っても落ちないよ」


「洗いませんから大丈夫ですよ」


「…………」


 なんか俺、わりとヤバイ人を目の前にしているんじゃないだろうか?


「値段はわたしがつけるとまた引かれてしまいそうですので、陛下がつけてください」


 俺の困惑をよそに話がどんどん進んでいくが、値段……? 油性マジックで『二割引』と大書きされた、着古された上に元々安物なTシャツの値段……値段なんてつくのだろうか?


 正直これが終わっらた捨てようと思っていたので、俺の評価額は0円だ。


 でも多分。潮浬はそれでは納得しないだろうし、なんか特殊な価値を見い出している気配もする。


「えっと……50円とか?」


「それでは資金の足しにならないのではないでしょうか?」


「それはそうだけど……じゃあ1000円とか?」


謙虚けんきょなのは陛下の数多あまたある魅力のうちの一つだと思いますが、ここはもうちょっと攻めてもいい所だと思います」


「ええとじゃあ……4000円?」


「ご参考までに、わたしがステージで着た衣装は5000万円で買いたいと打診がありましたよ。気持ち悪いので断りましたが」


 ……それは、潮浬が世界的な大人気アイドルだからだと思う。


 そして自分の衣装を買われるのは気持ち悪いのに、俺のTシャツを買うのは平気なんだね……。まぁ、世の中そんなものかもしれない。俺のTシャツに価値があるかどうかは別にして。


「それじゃあ……8000円」


「刻みますね。もう一声」


「に、2万円?」


「もっとと言いたい所ですが、今回はそれで妥協いたしましょう」


「うん……」


 なんか値下げ交渉ならぬ値上げ交渉をされ、どうにかお許しが出た。


 潮浬はその場でかわいらしい財布を取り出すと、お札を二枚机に置く。なんか現物を見ると生々しいな。


「……って、ちょっと待って。今脱ぐの?」


「陛下の半裸鑑賞料を上乗せいたしますか?」


「いや、大丈夫……」


 そろそろ法律に触れそうな気配を感じて、俺は立ち上がってTシャツを脱ぎ、潮浬に渡す。


 潮浬は満面の笑顔でそれを受け取ると。『リーゼちゃん、ちょっとの間陛下の護衛お願いね』と言い残して外へ……多分自室へと向かった。


 俺も自室に引っ込んで新しい服にそでを通し。執務室に戻ってくると、潮浬はもう戻ってきていて、例によって机の前に正座している。


 ……あのTシャツ、どうやらすぐに使われる事はなかったらしい。

 いや、なにに使うのかは知らないけどね……。


 俺が買われていったTシャツ君の身を案じていると、リーゼがピクンと反応して『あ、師匠帰ってくるみたいですよ!』と言い、しばらくして千聡が姿を現す。


「戻りました。魔王様、なにもお変わりありませんでしたか?」


「あー……うん、特になにもなかったよ」


 本当は普通に生きていたら一生経験しないような事があったが、千聡に報告するような事ではないので黙っておく。


 千聡は一瞬の間を置いて、『そうですか』と言った後。定位置の机へと向かう。

 ……なにかさとられただろうか?



 ともあれ、アルバイトの計画は一旦中止とし。別の金策の方法や、千聡と潮浬へのプレゼントをどうするか。千聡にちょっと嫌われる方法はなにかないかなど、俺はどんどん増えていく悩みに頭を抱えるのであった……。




 現時点での世界統一進行度……0.16%

・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%→

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