50 第二次千聡に嫌われよう作戦
日本に帰ってきた翌日。俺は決意を新たに新生活をスタートさせる。
改めて目指すのは、千聡と恋人同士になる事。そのためには、潮浬が言う所の高すぎる忠誠度。俺の理解では好感度をちょっと下げて、関係を『敬愛する魔王様と配下』から『対等な恋人同士』に変えるのだ。
昨夜スマホを使って情報収集した所、女性の好感度を上げるには三つの『せい』が大切だそうで、それは『誠実』『声援』『清潔感』なのだそうだ。
『誠実』は文字通りの意味で、嘘をついたりせず正直に接し、相手を尊重する事。『声援』は相手を肯定して応援してあげる事。『清潔感』は相手に不快感を与えない身だしなみと振る舞い、センスなんかも含むらしい。
そして俺の目的は好感度をちょっと下げる事だから、これの逆をやればいいという事になる。
ちなみに、『女の人を怒らせてしまった場合の三つの「せい」』というのもあって、『誠意』『正座』『政治力』らしい。
心を込めて正座して謝って、あとは相手の友人などに仲裁を頼む政治力を発揮せよという事らしい。
やりすぎてしまった場合の参考に、これも覚えておく。
とりあえず、まずは好感度を上げる方法の逆パターンだが。『誠実』の逆は第一次千聡に嫌われよう作戦の時にやった気がする。
横柄な態度をとったり、130円のジュースを買いに行かせて100円しか渡さないという誤魔化しもやった。
だが効果はなかったので、今回は違う方法を試す。
『声援』の逆は千聡を否定すればいいのだが、これは潮浬に止められている。
魔族の話を嘘呼ばわりしたり、部下としての働きに文句を言ったりすればよさそうだが。それをやっても千聡は自分の力不足を責めるばかりで、俺への好感度を下げる事はない。むしろ自分を責めて追い詰めてしまうという話だった。
最初に聞いた時は半信半疑だったが、今ならその意味がちょっと理解できる。
俺は千聡の好感度を下げたいのであって悲しませたい訳ではないから、この方法も却下だ。
となると残るは、『清潔感』の逆。これはある意味分かりやすいし、千聡が傷つく事もない。
純粋に俺への印象だけを悪くできる、最適の方法だと思う。
……とはいえ、これは加減が難しい。
『夏なのに一週間お風呂に入らない』とかは、そりゃ効果抜群だろうけど俺が嫌だ。この場合の『清潔感』という言葉には『センス』みたいな意味も含むようなので、この方向から攻めようと思う。要は引かれるレベルでダサければいいのだ。
……そんな訳で、今日の俺は寝癖だらけのボサボサ頭。無地のTシャツにマジックで『二割引』と大書きした意味不明ファッション。
トドメに押入れを漁って発掘した、剣にドラゴンが巻きついているステキデザインのキーホルダーを、ヒモで首からぶら下げる。
なんでこんなものがあるのか自分でも頭を抱えたが。たしか中学の修学旅行の時、その場限りの妙なテンションで買った記憶がある。
とりあえず洗面所の鏡に映してみたら、自分でもびっくりするくらいに変な人だ。
もし俺が道を歩いていてこんな人を見かけたら、目を合わせないようにそっと距離をとるだろう。
これなら千聡もドン引き間違いなしだ。
……というか、こんな奴と恋人になりたいか?
目的と手段が逆転している気がしてきたが、Tシャツを一枚ダメにしてまで作り上げた格好なので、今更後に引く事はできない。
まずは好感度を下げるという目標のみに集中すると決め、軽く朝食を食べて部屋を出る。
……以前は玄関をくぐると外だったが、今は大きな部屋に出る。
「おはよう」
俺は全力で平静をよそおって、自然な動作で傍にある執務机へと身をおちつける。
登場と同時に前回り三連からの変なポーズをキメるとかやってもいいのだが、さすがにそれはオーバーキルだろう。
念のため謝る方法も調べてあるが、謝ってどうこうなる話じゃない気がするので、やめておく。
俺の姿を認めるや。左斜め前の二回り小さな机でノートパソコンに向かっていた千聡が、ガタッと勢いよく立ち上がって頭を下げる。
「おはようございます魔王様……」
挨拶をして頭を上げた瞬間、一瞬千聡の動きが止まった。どうやら効果は抜群らしい。
「……あれ、潮浬とリーゼは?」
「潮浬は仕事、リーゼはシバの散歩に出ております。リーゼはじきに、潮浬は三日分の仕事を意地でも半日で終わらせて、昼には戻ると言っておりました」
おお、つまり今いるのは千聡だけって事だ。それはいい。
俺が好感度を下げたいのは千聡だけだから、この格好を見てもらうのも千聡だけでいい。あまり大勢に見せたいものではないからね……。
そう思いながら横目でそっと千聡の様子をうかがっていると。挨拶のために立ち上がったまま、じっと俺を見つめて座ろうともしない。
なにかを言いたそうに口を開きかけてはやめるのを、何度もくり返している。
かなりの効果が上がっている気がするが……ところでこれ。引き際ってどうしたらいいんだろうね?
突然部屋に戻って着替えてくるのも変な感じだし、もしかして一日ずっとこのままなのだろうか?
後先考えずに行動した事をちょっと後悔していると、千聡が覚悟を決めたように。ちょっと上ずった声で言葉を発する。
「あ、あの。魔王様……御髪を……お梳きしてもよろしいでしょうか?」
いつもわりとクールなイメージなのに、なぜか今は妙に落ち着きがない。
「うん、別にいいけど」
「――ありがとうございます!」
千聡はそう言うが早いか、机の引き出しをガラッと開けてクシとブラシを取り出し。俺の背後へと回りこむ。
「失礼いたします」
「うん」
千聡はなんか恐る恐るといった感じでゆっくりと。そっと俺の髪を数回手で梳いてから、まずはブラシを通してくれる。
千聡に髪を梳いてもらえるなら変な格好をした甲斐があるなと、当初の目的を忘れて幸せな気分に浸っていると、千聡がまた遠慮がちに声をかけてくる。
「……魔王様。髪型はいつもと同じでよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
「承知いたしました」
なぜかホッとしたような声で返事をし。千聡の動きに迷いがなくなり、手際がよくなる。
って、これはもしかして……。
「千聡、もしかして寝癖かわざとか迷ってた?」
「――さすが魔王様。ここまで正確に心の内を見透かされたのは、この世界に生まれ変わって初めてです。はい、恐れながら……」
どう見ても見苦しい寝癖だったと思うのだが、その判断がつかずに固まっていたらしい。
そして、Tシャツにも痛アクセサリーにもツッコミがないのを見ると、もしかしてこっちは許容範囲だったりするのだろうか?
……ブラシに続いてクシを使って髪を整えてくれ。『終わりました。お手間を取らせて申し訳ありません』と、俺が言うべきな気がする言葉を言って、千聡は嬉しそうに。ゴキゲンで自分の机へと戻っていく。
好感度が下がった様子は全くない。
俺の方もテンション的にはかなり幸せだが、潮浬に判定を仰ぐまでもなく。今回も目的は全く果たせなかった気がする。
千聡に整えてもらった頭を抱えていると、その千聡がふっとスマホをのぞき、『リーゼが戻ってくるようです』と声を発する。
連絡があったのか。なんかセンサーを設置したとか言っていたから、それに反応したのかわからないが、間もなく入り口の方からドタバタと音が聞こえてきた。
それを聞きながら。俺はどうすれば千聡の好感度を下げられるのだろうかと、頭を悩ませ続けるのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.16%
・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(魔王様の御髪を整えさせて頂いた。今日の私は世界で一番幸せかもしれない。忠誠度上昇)




