49 新生活
ほぼ三日ぶりに日本に帰ってきて、懐かしの我が家に到着すると。なんか風景が変わっていた。
まず、俺の部屋だけ膨らんだように。裏と横に一メートルくらい張り出している。
そして表は、旅行前まで使われていない駐車場だった前庭に、デンと箱状の建物が居座っていた。
部屋の入り口が塞がれてしまっていて、中に入れない。
こういうのは100パーセント千聡の仕業だと思うので視線を向けると、その意味を察してだろう。説明をしてくれる。
「恐れながら、魔王様のお住まいとして最低限の安全処置をさせて頂きました。壁と窓、屋根への防弾処置と、地下からの侵入対策。各所へのセンサー設置と、電波対策です」
「電波対策?」
なにそれ千聡達入れなくなるんじゃない大丈夫……? と思ったけど、多分スマホとかの電波の話だろう。
「はい。通信機から盗聴器に至るまであらゆる電波を遮断し、唯一完全に管理下にあるアンテナを通してのみ情報をやり取りできるようになっております。魔王様がお持ちのスマートホンは問題なく使えますから、ご安心ください」
……そういえば千聡と出会ったばかりの頃。電波さん対策を調べていたら『アルミは電波を遮断する』というのを見つけて、千聡にアルミホイルを巻く事を検討し。すぐに却下したのを思い出す。
それなのにまさか、俺がアルミホイルで包まれる日が来るなんて思ってもみなかった……。
いや、ホントにアルミで遮断してるのかどうかは知らないけどね。
「えっと、アパートの前にある箱状の建物も安全対策なの?」
「はい。巡航ミサイルなどに対する防御空間であると同時に、護衛の控え室でもあります。あとは、魔王様の執務室としても使って頂ければ、この上なくありがたく存じます」
……執務室?
ミサイルはさすがに冗談だとして。今まで執務とかやった記憶がないが、これからやらされるのだろうか?
とりあえず、その執務室とやらを通らないと部屋に入れなくなったようなので。千聡の先導で足を踏み入れる。
「――おお、広い」
部屋はアパートの一階四部屋分の奥行きがあり。ちょっとした広間くらいの大きさがある。
入り口から入って左側に元のアパート一階四部屋の扉が並び、俺の部屋である101号室の脇には、なんかでっかくて立派な机が置いてある。執務室と言う名からすると、多分あそこに座れという事なのだろう。
そして、その机から見て左斜め前方にある二回りほど小さな机は、千聡の定位置だろうか?
他にも部屋の奥にはソファーなどが並べてあり、エアコンも完備で、日本風に入口で靴を脱ぐタイプ。
ゆったり過ごせる、かなりの快適空間だ。
リーゼが護衛として炎天下のドア横に立っていた事を思えば、『護衛の控え室』という用途には完璧だと思う。
そして部屋割りも正式に決まり。俺のとなりの102号室が千聡、上の201号室が潮浬、そのとなりの202号室がリーゼ、103号室にそのうちイリスさんが越してくる予定らしい。
早速執務机に座らされ。その前で姿勢よく直立した千聡からそう報告を受けた後、千聡がちょっと改まった調子で話を続ける。
「魔王様、204号室の住人の件なのですが」
「ああ、うん」
204号室は千聡達が来る前から。もっと言えば俺が越してくる前から唯一、先住民がいた部屋だ。
俺が通う城東大学付属高校の付属先に当たる、城東大学の学生さんが住んでいる。
「調べた所怪しげな素性・経歴は浮かび上がってきませんでしたが、万が一という事もありますし。これから先において利用される可能性もあります。穏便な方法で他所へ移って頂く事を考えているのですが、魔王様のご意見はいかがでしょうか?」
「あー、どうだろうね……」
204号室の住民は『高宮有紗』さんと言って、俺も多少の付き合いがあるが、明らかにスパイとかに向く人ではない。むしろよく一人暮らしできてるなと思うくらいに、大雑把でいいかげんな人である。
最初の出会いは引越しの挨拶ではなく、俺が越してきた日の夜。物音がしたので外に出てみたら、二階に上がる階段の途中で酔い潰れて寝ている所だった。
部屋までもう少しの所まで辿り着いたものの、階段を登り切れずに力尽きたらしい。
外見だけを見れば美人なお姉さんなので、一瞬なにかの事件かと焦ったのを思い出す。
その後も幾度となく倒れている所を介抱させられたが、実家が北海道であるらしく。送られてくるものをよくおすそ分けしてくれるので、トータルでは良い人だというイメージが強い。
このまえ貰ったホタテはバター焼きとフライにしたら、最高に美味しかった。
「……有紗さんいい人だし、今のままでもいいと思うよ」
食べ物に釣られた……というのは否定できないが、そう口にした瞬間。近くにいた潮浬が全力で食いついてくる。
「ありさ? 女ですね! しかも陛下が名前で呼ぶほどの仲の……」
「いや、本人がそうしろって言うから名前で呼んでるだけだよ。なんか名前の方が好きなんだってさ」
「――わたしは陛下が他に何人女を囲っても受け入れますが……ちなみにどこまで進んでいますか!?」
なんかすっごいグイグイ来るな。
「と、特に何もないよ。酔って階段で寝てるのを担いで部屋まで運んであげたり。おすそ分けしてもらった食材を調理して、逆おすそ分けしに行ったりとか……」
ホントは吐瀉物(ゲ■)で汚れた服を着替えさせたりした事もあるけど、それは黙っておこう。
「部屋で二人きりになった事があるのですね……」
「いや、泥酔してほぼ意識がない状態なのを運んだだけだし。それに潮浬とだって二人きりになった事あるじゃない」
「それはそうですが……」
「……そろそろいいですか?」
ぐぬぬモードになって沈黙してしまった潮浬に代わって、千聡が会話に戻ってくる。
「204号室の住人に関しては、魔王様のご意向の通りにいたしましょう。この所姿が見えないようですが、なにかご存知ですか?」
「うん。大学が夏休みだから、北海道の実家に帰るって言ってたよ。そのうち戻ってくると思うから、その時みんなに紹介するね」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「陛下と予定を伝え合う仲……」
潮浬が小声でなにか言っているので、更なる追及を受ける前に話をそらす。
「えっと、俺は普段この部屋にいて。ここに座っていればいいのかな?」
「いえ、どこでもお好きな場所で自由にお過ごしくださいませ。ですが、外出の際には我々三人のうち誰か一人を護衛として伴って頂ければと思います。常に最低一人はこの部屋に控えておりますから」
「うん、了解」
以前にもリーゼに買い物に付き合ってもらった、あんな感じなのだろう。
そういえば旅行帰りで冷蔵庫が空っぽなので、今夜の食材を買いに行かないといけない。
早速近所のスーパーへ行きたいと申し出た所。なぜかリーゼだけでなく、三人全員がついてくる事になった。
どうやら『護衛一人』というのは『一人以上』であって、可能なら全員で来るらしい。
そんな訳で四人揃って。シバも一緒に買い物に出かける。
こうして、俺の新しい生活が始まるのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.16%
・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(魔王様のお供ができる、なんと光栄である事か。忠誠度上昇)
※誤字報告をくださった方ありがとうございます。こっそり修正しておきました。




