48 三人の関係
『潮浬と千聡は仲間じゃないの?』
俺が発した問いに。潮浬は淡々と返答を口にする。
「わたしは仲間だとは思っていませんね。わたしにとっての千聡は、いつか共に陛下のハーレムを構成する存在です。その意味では仲間と言えなくもないかもしれませんが。見方を変えればライバルですし、陛下の存在なくしては共にいる理由すらありません。多分千聡も同じように思っているはずですよ」
潮浬はそう言って、千聡に話を向ける。
「そうですね。私から見ると、貴女は共に魔王様にお仕えする配下です。横の繋がりは最低限で構いませんし、魔王様の存在なくして共にある理由はありませんね。仲間と言うよりも同僚でしょうか」
潮浬はそんな千聡の言葉を、なぜか満足そうに聞いて話を俺に向ける。
「やはり陛下こそがわたし達の中心、扇の要なのですよ。陛下はただ存在していてくださるだけでも、他のなによりも貴く。大きな存在なのです」
潮浬にキラキラした目で見つめられ、どう反応したものかと頭を悩ませる……。
……とりあえずなにも思いつかなかったので、シバを撫でて癒されようと思って手を伸ばすと。シバがピクンと反応して顔を上げ。それにつられてリーゼも目を覚ました。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「――あ、閣下。ごめんなさい!」
なぜか俺のほうが謝られ、リーゼはピシッと姿勢を正してソファーに座る。
凛々しいけど、髪に寝癖がついてるのがちょっとユーモラスだ。
「ほらリーゼちゃん、そんなんじゃ陛下に失礼でしょ」
潮浬がブラシを取り出して、リーゼの髪を梳いてあげる。
「わわっ、先輩いいですよ。こんなのほっとけば直りますから!」
「そんな訳ないでしょ、いいから大人しくしてなさい……ってリーゼちゃん、髪の毛すっごく柔らかいわね」
「そうですか? でもホントにほっとけば直りますよ」
「そっか……これだけ柔らかくて長いと、髪の重さだけで勝手にストレートになっちゃうか……ちょっと羨ましいわね」
潮浬はそう言いながら、リーゼの髪にブラシをかけ続ける。リーゼはなんか恐縮しつつも、すごく幸せそうだ。
一通りブラシをかけ終わったあたりで、潮浬が言葉を発する。
「そうだ、陛下もリーゼちゃんの髪触ってみますか? 産まれたての子犬みたいにふかふかで、気持ちいいですよ」
「え?」
……ここは遠慮するべき所なのだろうが、ちょっと興味があったので返事が遅れてしまう。
なにしろ様子を見ていたら本当にサラサラで、ちょっと離れた俺の所までいい香りが漂ってくるのだ。
でもさすがに髪を触るとかセクハラっぽいし。リーゼも嫌だろうからやんわりお断り……しようとしたら、なんかリーゼがキラキラした目でこちらを見ているのに気付く。
これは触って欲しがってる……? いや、褒められたがってるんだな。
そう直感したので、ならばと手を伸ばす……。
――おお。
潮浬の言葉に嘘はなく、本当にフワフワのサラサラだ。手に吸いついてくるような滑らかな手触りで、指の間を少し冷やりとした髪が流れていく感触が、なんとも言えずに心地いい……。
「これはたしかに気持ちいいね。触った事ないけど、最高級の絹糸ってこんな感じなのかな?」
「わたしは最高級の絹糸を触った事がありますけど、こっちの方がずっと滑らかで気持ちいいですよ」
「へぇ……」
潮浬が言うからには、本当に最高級の絹糸よりも滑らかなのだろう。ずっと触っていられそうだ。
しばらく撫でさせてもらっていると、嬉しそうにニコニコしていたリーゼが不意に声を上げる。
「そうだ、そんなに気に入ってもらえたのなら差し上げますよ!」
そう言って、おもむろにギターケースから刀を引き抜くリーゼ。
「え? ちょ、待った待った!」
今にも髪を半分くらいバッサリいこうとする所を、慌てて引き止める。
「いやそんな、切ってくれなくていいから」
「……いりませんか?」
「いや、いらない訳じゃないけど……」
急にシュンとしてしまうリーゼに慌てて言葉を取り繕うが、さすがにこんなに綺麗で、リーゼのトレードマークでもある長髪をバッサリいってしまうのは抵抗がある。
「後日私が髪を切った時に、一部をお届けいたしましょう」
困っていると、千聡が助け舟を出してくれた。
「……って、リーゼの髪は千聡が切ってるの?」
「はい! この前から切ってもらってます!」
「リーゼちゃん、刃物を持った人間に後ろに立たれるとか無理そうだもんね……でも昔はやってもらってたけど、こっちの世界に来てからは自分でやってなかった?」
「はい、閣下を探すのに忙しかった頃は自分でやってましたけど、この前久しぶりに師匠がやってくれました!」
「魔王様に、『俺以外の事にもちゃんと時間を使うように』とご指導を賜りましたから。他の配下に気を配るのも参謀の任である事、失念しておりました」
千聡がそう言って、俺に向かって頭を下げる。
……そんな事言った記憶があるような、ないような。そしてそんな意味ではなかったような気もするが。リーゼがとても嬉しそうなので、回り回って結果オーライという事にしておこう。
そしてなぜか、リーゼが『やっぱり閣下のおかげだったんですね!』と言って、俺を涙目で見つめてくる。
なんかちょっと微妙な気分だ。
……そんな訳で、とりあえず俺の所にはそのうちリーゼの髪の毛が届く事になったらしい。
若干ホラー風味がしないではないが、気にしないでおこう。
そして、潮浬は千聡の事を仲間ではないと言っていたが。リーゼに関してはかなり仲良く見える。千聡も面倒見がいいみたいだし、なんだかんだで仲良いのではないだろうか?
そんな事を考えながら三人をほほえましく眺めていると、潮浬に『陛下、わたしの髪の毛もいりませんか? リーゼちゃんには敵いませんが、それでもそれなりに上質である自信があるのですが』と迫られ。
断るとなんか差をつけてるみたいだから、貰う約束をする事になった。
潮浬が『わたしを模した人形に植えてお渡ししましょうか?』と提案したが、怖いからやめてほしい。
一歩間違えば呪いのアイテムだ。
そんな平和なような、決してそうではないような話をしているうちに、飛行機はなつかしの日本へと帰ってきたようで、徐々に高度を下げはじめる。
色々あった旅が、ようやく終わろうとしていた……。
現時点での世界統一進行度……0.16%
・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(やはり魔王様、記憶を失っておられても自然体で部下を引きつける偉大なお方だ。忠誠度上昇)
※主人公が『俺以外の事にもちゃんと時間使ってね』と言ったのは19話をご参照ください。




