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47 潮浬が語る昔のリーゼ(後)

 幸せそうに眠るリーゼをヒザ枕してあげながら。潮浬が語るリーゼの昔話が続く。


「わたしは自分で言うのもなんですが、それなりに人を見る目はあるつもりです。ですからリーゼちゃんを初めて見た時には、あまりに危険な相手だと感じ、陛下に一時撤退を進言しました。千聡も同意見でしたよね?」


 話を振られ、千聡が黙ってうなずく。


「ですが陛下は、わたし達に下がっているよう命じ。逆に一対一での戦いを挑んだのです。文字通り、命を賭けての戦いをです」


 潮浬の表情が、少し険しくなる。


「……リーゼちゃんは本当に強かったですよ。当時は上半身が人間で下半身がヘビみたいな姿でしたが、それでも動きは速く。手は巨大なかまに、あるいは剣に変形して、その鋭さと威力は大岩をバターのように切り裂くほどでした。おまけに高い再生能力まで持っていて、少々の傷はあっという間にふさがってしまうのです。まさに戦う事だけに特化した存在で、単純な戦闘能力だけなら陛下を超えていたでしょう」


「うん……」


 感情を込めて語られる潮浬の話には、心を引き込むような力がある。


「ですが、リーゼちゃんの戦いは本能だけに頼ったもので荒く、隙もありました。もちろん簡単に突けるようなものではありませんでしたが、陛下は速さで勝っていた事を利用して巧みにリーゼちゃんの動きを誘導し。ほんの一瞬、針の穴を通すような隙を突いて、カウンターを叩き込んだのです。


 ……地面に空いた大穴の底に横たわり。口から血を吐きながら、リーゼちゃんは陛下を睨みつけ。かろうじて動く右腕で、自分の首をき切るような動作をしました。『殺せ』という意味だったのでしょうね。

 当時のリーゼちゃんは100年近く生きていたのに、ほとんど言葉を話せませんでした。教えてくれる人も、話す相手もいませんでしたからね……」


 潮浬はそう言いながら、いつくしむようにリーゼの髪をでてやる。


「あの時のリーゼちゃんは、死に急いでいるように見えました。実際そうだったのでしょう。

 心を許せる家族も、共に語らう仲間もおらず。教え導いてくれる師もいない。競い合うライバルさえいない。どうしようもなく孤独で、寂しかったのだと思います。心の底で、自分を殺してくれる相手を求めていたのかもしれません」


 ……千聡もノートパソコンをいじる手を止めたまま、眉を少し寄せてリーゼを見つめている。


 一方のリーゼは相変わらず穏やかな寝顔で、どうにもイメージが結びつかない。


「陛下が穴の底へと降りていくのを見て、わたしは止めを刺しにいくのだと思いました。ですが穴のふちに駆け寄ったわたしが見たのは、倒れたリーゼちゃんに向かって優しく手を差し伸べる陛下のお姿だったのです……。

 わたしはとっさに、『陛下、危ない!』と叫んで飛び出し。となりでも千聡が同じ事をしていました。リーゼちゃんがわずかに動く右腕を持ち上げ、陛下の心臓を貫こうとしていたのです」


 今までリーゼを優しく撫でていた潮浬の手が止まり。指先がツッと首筋に伸びる。


 一瞬不穏な気配を感じたが、潮浬は指を止めて言葉を続ける。


「穴が大きく距離があったので、わたしや千聡は間に合わないタイミングでした。ですがリーゼちゃんのダメージも大きかったようで、腕の動きは先程までとは比較にならないほど遅く、陛下ご自身がかわすのはたやすい速さでした。……ですが陛下は、手を差し出したままけようとも、受けようともなさらなかったのです」


「…………」


「そして、今にもリーゼちゃんの腕が陛下の心臓を貫こうとした瞬間。わたしののどから悲鳴が吐き出されようとした刹那せつな。わたしの目に映ったのは、リーゼちゃんの腕が陛下の服を突き破り。皮膚ひふをわずかに傷つけた所で、ピタリと止まっている光景だったのです。


 ……一瞬、陛下がなにか特殊な防御手段を用いたのかと思いました。ですがわずかについた傷からは一筋の血が流れ出ていて、リーゼちゃんの表情は驚きとも当惑ともつかない表情に染まっていました。


 そして陛下は笑みを浮かべ。自分でもなにが起きたのか戸惑とまどっている様子のリーゼちゃんを抱き上げ、黙って抱きしめてやったのです。するとあのすさんだ、世界の全てを憎んでいるようだったリーゼちゃんの目から、涙が零れ落ちました……」


 潮浬の指が動きを再開し。リーゼのほほをそっと撫でると、リーゼはくすぐったそうに。気持ちよさそうに寝顔を和らげる


「考えてみれば当然の事です。強さゆえに孤独で、温もりを知らずに育ってきたこの子が、初めて自分を倒せる力を持った相手と出会い。あまつさえ仲間になれと誘ってくれたのです。

 それまで心の奥底で渇望かつぼうし続けてきた全てが。家族が、仲間が、師が、強さを競える相手が。全てが一度に目の前に降ってきたのです、心が動かないはずがありません。


 ……ですが、リーゼちゃんはそんな感情自体を知らなかったのでしょうね。陛下を殺そうとした攻撃が無意識のうちに止まり、優しく抱きしめられて温もりを感じて初めて、自分の気持ちに気付く事ができたのでしょう」


 潮浬が眠っているリーゼのっぺたを指先でプニプニすると、リーゼはくすぐったそうに身をよじる。


「それからのリーゼちゃんは、陛下にべったりでしたよ。四六時中陛下の後をついて回って、よく千聡に怒られていましたね。

 最初は陛下にしか懐いていなかったので、千聡やわたしとは対立した事もありました。正直、殺してやろうかと思った事も200回くらいあります。

 ですが、陛下の優れた統率力のおかげで事なきを得。ご飯で釣ったりしながらまずは会話を。続いて文字を、一般常識を、頭を使った戦い方をと教えていくうちにだんだんと仲良くなり、千聡の事を『師匠』、わたしの事を『先輩』と呼ぶようにもなって、今のような関係になったのです。

 ですからリーゼちゃんは、わたしや千聡が陛下一筋なのに対して、三人全員を仲間として大切にしています。それでも結局、懐いたのはわたし達三人にだけでしたけどね」


 潮浬はそう言って、少し苦笑を浮かべながらヒザの上のリーゼに視線を落とす。


「思えばこの子もずいぶんと変わったものです。最初は誰かが近付くだけで全力で警戒し、寝る時も絶対に横にならずに、厚い壁を背にして座って眠り。わずかな物音でもすぐに目を覚ましていました。

 この子が他人を信頼して、こんな風に無防備にぐっすり眠るなんて、昔を知っている同族に言っても絶対に信じないでしょうね。これも全て、陛下のご威光の賜物です」


 またリーゼの頬っぺたをプニプニしながら、潮浬は俺に視線を向ける。


「……それって、偉いのは昔の魔王であって今の俺はなんの関係もないのでは?」


「そんな事はありませんよ。今だってわたし達三人がこうして一緒にいるのは、ひとえに陛下の存在あっての事なのですから」


「そうなの? でも、俺と出会う前からみんな一緒にいたんでしょ?」


「それは、陛下を探すという共通の目的があったからです。もしわたし達配下三人のうち誰か一人が欠けても、それはただそれだけの事に過ぎず、なにかが大きく変わる事はないでしょう。

 ですがもし陛下一人が欠けてしまったら。わたし達はもう一緒にいる事はなくなってしまうのです。……リーゼちゃんだけは、違うかもしれませんが」


「そういえばさっき、『リーゼは三人全員を仲間として大切にしている』って言ってたけど、潮浬と千聡は仲間じゃないの?」



 俺の問いに、潮浬は一瞬千聡に視線を向けた後、淡々とした口調で返答を口にする……。




 現時点での世界統一進行度……0.16%

・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(昔の魔王様を思い出すと、改めてその偉大さを思い知らされる。可能な限りご恩に報いなくては。忠誠度上昇)

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