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46 潮浬が語る昔のリーゼ(前)

 色々あったヨーロッパと北アフリカ旅行もようやく全日程が終了したらしく、俺達は新たに仲間になった柴犬を加えて帰国の途についている。


 ちなみにこの柴犬。リーゼに『閣下、名前をつけてあげてください!』と頼まれ。とっさになにも思いつかなかったので『「シバ」なんてどうかな?』と安直極まりない発言をぶちかました所、横で聞いていた千聡に『インドの破壊と再生の神、シヴァ神からの命名ですね。素晴らしいと思います』と予想外の食いつきをされた。


 リーゼも気に入ったようで、『ありがとうございます! おまえは今日からシバだぞ! ね、シバ!』とゴキゲンで。魔獣さん本人も『ワン!』とえて嬉しそうだったので、そのまま決定となった。


 て言うか鳴き声が『ワン』とか、やっぱり犬じゃないのか?


 俺の中で一層疑惑が深まるが、触らせてもらったツノの生え際はかなりリアルで、本物にしか思えなかった。


 ちなみに折れたツノはリーゼが接着剤でくっつけようとしたが、シバが嫌がったので断念し。千聡が欲しいと言ったのであげる事になった。


 大変貴重なものらしいので、薬効とかを調べるらしい。

 そういえば俺も、出会ってすぐに血を抜かれたのを思い出す……。


 一方で付け根の方は、リーゼによって蛍光ブルーの塗料が塗られ。おでこに青い宝石がついたカーバンクルのような、違う意味で痛々しい中二犬にされてしまった。


 まぁ、本人……本犬が気にしていないようなので、いいのだろう。


 そんな訳で日本への飛行は順調に進み。日本時間で二度目の夜を迎えたので、俺は一眠りさせてもう事にする……。




 スマホの時計を見ると6時間ほど眠ったらしく。飛行機内の個室で目覚めた俺は、着替えて顔を洗って部屋を出る。


 この非日常にも慣れてくるのだから、人間の順応力とは大したものだ。


 そんな事を考えながら機体後部へ向かうと、例によって三人が……と思ったら、千聡と潮浬の二人しかいない。


 そしていつもなら飛びつくように寄ってくる潮浬が座ったままで、代わりに千聡がお茶をれに立ってくれる。


 不思議に思いながらソファーに近付いていくと、理由がわかった。

 シバを抱えたリーゼが、潮浬にヒザ枕をしてもらいながら眠っているのだ。


「お迎えせずに申し訳ありません陛下。でも、中々可愛かわいらしいでしょう?」


「うん、そうだね」


 潮浬の言う通り、中々どころかとても可愛らしい。


 小柄な潮浬が背の高いリーゼをヒザ枕だが、普段のイメージもあって仲の良い姉と妹……いや、お母さんと子供のようにさえ見えてしまう。潮浬には謎の包容力があるからね……中学生相手にお母さんに見えるとか、失礼なのでバレないように黙っていよう。


「……どうです陛下、子供が欲しくなったりしませんか?」


「――ぶっ!」


 危うく千聡が淹れてきてくれたお茶を噴く所だった。

 お母さんのイメージは失礼どころか、狙ってやっていたらしい。


 とりあえず『今の所大丈夫かな』と返事をしてお茶を濁し、改めてリーゼを見るが、とにかく可愛らしいのは間違いない。


 普段はわりと凛々しい感じのリーゼだが、寝顔はとてもあどけないし、シバを抱えていると可愛さ二倍だ。ものすごくいやされる。

 おまけに潮浬のヒザ枕となれば、もうずっと見ていられるとうとい光景だ。


 しばらく見惚みとれていると。潮浬が、ヒザの上のリーゼの頭をでながら言葉を発する。


「リーゼちゃんの寝顔、可愛いでしょう。この世界で見た事があるのは多分この場にいる三人だけという、とても貴重な一品ですよ」


「そうなの? あんまり寝ないとか?」


 以前、魔族はあまり眠らないと聞かされ、千聡に一日最低二時間は寝るようにと言ったのを思い出す。


「いえ、この子の警戒心が強いからです。今はわたし達がいるから安心しきって無防備なだけで、本来なら寝ていても誰かが近付いてきた時点で目を覚まします。昔、色々あったようですから……」


「色々って?」


 俺の問いに、潮浬はゆっくりと昔の話をしはじめる。

 千聡もノートパソコンをいじっていた手を止めて、それを聞く体勢だ。


「わたしが知る限りの話ですが、リーゼちゃんの種族は元々魔族の中でも一・二を争うほどに好戦的な種族なのです。そしてその子供は、産まれる前から戦うのです。この世界のサメにも似た生態を持つ種がいますが、母親の胎内で20人からの子供が殺し合って、勝ち残った二人だけが産まれてくるのです」


 ……なんかいきなり、すっごい重い話が展開される。


「リーゼちゃんの種族は仲間内であっても争いが絶えない好戦的な種族でしたが、唯一母親の胎内を生き抜いて共に産まれてきた二人だけは、生涯における無二の友として。互いに支え合い、助け合って生きるのだそうです」


 潮浬は話をしながら、リーゼの髪を優しく撫でる。


「ですがリーゼちゃんは、あまりに強すぎたのでしょうね。たった一人で産まれてきたそうです。生涯における無二の友となるはずだった、その相手まで殺してね……」


「…………」


「そしてリーゼちゃんの母親は、まるで生命力を全て吸われてしまったかのように、リーゼちゃんを産んで間もなく死んでしまい。父親も早くに亡くして、ずっと一人で生きてきたそうです。好戦的な種族の中で、本来ならそんな子供は生き延びられません」


 潮浬はそう言いながら、リーゼをいとおしそうに撫でつつ言葉を続ける。


「ですが、リーゼちゃんは強かった。まるで母親の胎内で他の兄弟姉妹全員の力を吸収したかのように、他の同族の何十倍もの力を持っていたのです。

 そして誰の助けも受ける事なく、たった一人であらゆる敵と戦ってそれを退け。命を繋ぐと同時に、種族の中で恐れられる存在になりました。ですがそれは、更にリーゼちゃんの孤独を深める結果になったのです」


 潮浬はリーゼの顔にかかった髪をそっとすくい取って、耳にかけてやる。


「わたし達と出会った時のこの子は、そりゃあもうすさんだ目をしていましたよ。

 自分以外の何物も信じておらず、世界の全てを敵とみなしているような、そんな目でした。

 その時すでに魔王陛下と共にいくつもの族長や強敵達を倒し、従わせてきたわたし達でしたが。わたしは一目見た瞬間、(この相手はダメだ。殺すか殺されるか、二つに一つしかない……)と思ったものです」


 ……潮浬のヒザ枕で眠るリーゼは穏やかそのもので。とてもそんな気配は感じられない。だが、となりで聞いている千聡がなにも言ってこないのを見ると、この話は千聡と潮浬の共通認識なのだろう。


 今までも何度か聞かされた、『前世での記憶』というやつだ。



 俺はリーゼのほほえましい寝顔と、あまりにギャップのある重たい話に戸惑いながら。

 これから展開されるのだろう話に心を備えるのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.16%

・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか

・魔族の小勢力三つ

・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(さすが魔王様。命名センス一つをとっても、とても優れておられる。忠誠度上昇)

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