39 招待
カルメさんとの交渉を千聡に任せ、俺と潮浬、リーゼの三人で一旦船室へと戻る。
帰り道でも人影を見る事はなく、みんなまだ自室に篭って様子見モードであるらしい。
そんな中でいち早く行動を起こし。襲撃者をあっという間に撃退してしまった千聡達って、実はかなり凄いんじゃないだろうか?
人間ではなく魔族だという話も、あながち嘘じゃないのかもと思えてくる……。
「魔王陛下、一緒にお風呂に入りましょう」
部屋に戻ってくるやいなや。全身ずぶ濡れの潮浬が人懐っこい笑顔を浮かべながら、直球のお誘いを投げてくる。
「……いや、千聡にダメって言われたじゃない」
「ダメと言われたのは陛下を無理やり連れ込む事だけです。合意の上でならなんの問題もありません。そうですよねリーゼちゃん?」
「はい!」
リーゼはなぜか、こんな時の返事まで元気いっぱいだ。
「と言う訳で陛下、一緒にお風呂に入りましょう。背中を流すのはもちろん、体の隅々まで丁寧に洗ってさしあげますよ。お風呂上りにはわたしが、陛下の体についた水滴を一滴残らず全て舐め取るというプレイも……」
どんなプレイだ。
「いや、大丈夫。遠慮しとく」
「そうですか、分かりました。陛下が私の体についた水滴を舐め取るでもいいですよ。わたしは千聡と違って主従関係がどうとか恐れ多いとか、そんなメンドクサイ事は言いませんから。陛下のお好きなプレイに100パーセント完璧に対応してご覧に入れますよ!」
……なにが分かったのだろうか?
でもどっちかと言うとそっちの方が……じゃない、違う違う。
「いや、ホント大丈夫だから。一人でゆっくり入ってきて。疲れたでしょ」
「陛下と一緒に入った方が疲れが吹き飛ぶのですが……」
潮浬はそう言いながら、なおも諦められないように俺を見つめていたが。しばらくしてようやく観念したのか、一人でシャワー室に向かってくれた。
寂しそうな後ろ姿を見て少し心が痛んだが、気を強く持ってじっと耐える。
……俺、千聡だけじゃなくて潮浬にも嫌われるように。少なくとも、ある程度好感度を下げるようにした方がいいのだろうか?
そんな事を考えながら。リーゼと二人残された俺は、またトランプをやりながら千聡の帰りを待つ事にする……。
リーゼと二人で神経衰弱をしていると、五分くらいで潮浬が慌しくお風呂から上がってきて、直線移動で俺の隣に座る。
髪はまだ濡れているが、シャンプーのいい香りがするのでちゃんと体を洗いはしたのだろう。とりあえず、裸で出てこなかっただけで十分だ。
そのまま潮浬も合流してトランプをやっていると、30分も経たないうちに扉がノックされ、千聡が帰ってきた。
「カルメ卿と話をつけてきました。カルメ卿はそれなりに大きな勢力であり、傘下も多く歴史も古いですからいきなり配下にとはいきませんでしたが。大きな貸しを作ってきたのと、権益をいくつか。それと情報を取って参りました。後刻、報告書にして提出いたします」
千聡はそう簡単に報告を済ませると、潮浬をチラリと見てなにもなかったのを確認したのだろう。少し安堵の表情を浮かべて言葉を続ける。
「つきましては魔王様。襲撃の影響で明日以降の予定は中止となりました。丸一日予定が空く事になってしまいますが、よろしければこの時間を利用して会って頂きたい方がいるのですが」
「うん。いいけど、誰?」
「イリスルビーレ公爵と言って。この世界の地上において影響力の大きい魔族を四人挙げろと言われたら、間違いなくその一角に入る方です」
「うぇ」
千聡の言葉に。俺のとなりで潮浬が、アイドルらしからぬ声を出す。
「潮浬、知ってる人?」
「はい……とても嫌な女です。千聡、あんな奴の所に陛下をお連れするなんて、どういうつもりよ」
「つい先程、招待を受けたのです。先だっての集会の情報が伝わったようで、『噂の魔王殿と会ってみたい』との事でした」
「…………」
お、潮浬が急におとなしくなった。『先だっての集会の情報』という事は、自分が暴れたせいだと気付いたのだろう。誰かのせいにしたそうに視線を泳がせるが、その相手は見つからないらしい。
「ねぇ千聡。そのイリスルビーレさんってどんな人なの?」
「この世界における魔族のイメージで言えば、サキュバスに近いですね。名を何度も変え、2000年以上の時を生きてなお美しい姿を保ち、気に入った人間。特に男に肩入れしては一代の英雄として名を成さしめ。最後には破滅する姿を見て楽しむという、まぁ性格は良くない方ですね。古くはカルタゴの名将ハンニバルから、近代ではナポレオンやヒトラーまで。歴史の陰で暗躍してきた御仁です」
おおう、俺でも知ってるビッグネームが並んだな。
戸惑う俺をよそに、千聡は解説を続ける。
「表向きは、滅びた帝国の元公爵家現当主。魔族の影響力が低下した現代の地上においても、人間に対して大きな影響力を持つ数少ない一人です。魔王様が世界征服を目指されるに当たり、味方にすれば有用な協力者。敵に回せば厄介な障害となるでしょう」
「……わたしに言わせれば、敵に回すと厄介な障害。味方にするともっと厄介な毒婦ですけどね」
潮浬が普段見せない苦虫を噛み潰した表情と、心底嫌そうな口調で言う。
あの潮浬にここまで言わせるとか、なんか逆に興味が湧いてくるな。
それに千聡が勧めてくるくらいだから、危険はない……あまりないのだろう。
この船が襲われたのはまぁ、不測の事態だしね。
「じゃあせっかくのご招待みたいだし、断るのも悪いから行ってみようか」
俺の言葉に、千聡は深く頭を下げる。
「承知いたしました。ではこれより、イルスルビーレ公爵の館に向かいましょう」
千聡の言葉で荷物をまとめ。なぜか優先的にヘリに乗せて貰って近くの空港へ。そして飛行機で別の空港へと飛ぶ。
飛行機の中で、そういえばパスポートなしの密入国だった事を思い出し。やっぱり帰るべきだったかなと微妙な後悔に包まれる俺を乗せ、飛行機は高い山脈を越えて順調に飛行を続けるのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.12%(+0.01)カルメ卿より小さな拠点を複数獲得
・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか
・魔族の小勢力三つ
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(さすが魔王様。誰を相手にする事になっても、怖じる所がない。忠誠度上昇)




