37 合流
千聡は手際よく、操舵室で気を失っていた10人を後ろ手に縛り上げ。さらに体を調べて銃やナイフ、爆発物や通信機などを取り上げて一ヶ所にまとめる。
(なんかすごく手馴れてるな……)
高校生とは思えない手際のよさに、前にも経験があるんだろうなと思いながら眺めていると、一通り仕事を終えたらしい千聡が戻ってくる。
「襲撃者の隊長と思われる者を含めて四人。あとは船員と思われる者が六人ですが、内通者ではない保証はないので、とりあえず拘束しました。全員息があります。カルメ卿はここに囚われているかと思いましたが、別の場所のようですね」
千聡はサラッと言うが。船員はもちろん、人質もいる前提で閃光弾を投げ込んだんだね……。
まぁ、誰も死んでないみたいだからいいけどさ。
「ええと……これで制圧完了?」
「そうですね。船内放送と無線を使って残りの者達に降伏を呼びかけ――魔王様!」
思ったより簡単だったなと思った瞬間。千聡が俺に飛びついてきて。押し倒すように物陰に引っ張り込む。
何事かと見ると、千聡はいつの間に抜いたのか拳銃を顔の前で構え。自身も机の陰に姿を隠し、入り口の扉に全力で警戒を向けている。
そしてほんの数秒の後。扉が『バン!』と音を立てて、勢いよく開かれた――。
「師匠ー、敵出てこなくなっちゃいましたよ!」
……すごく聞き覚えがある、元気な声。
隣で千聡の体から、ガクリと力が抜けるのがわかった。
「……リーゼ、部屋に入る前は合図くらいしなさい。全員が貴女のように気配察知能力に優れている訳ではないのですよ」
「あ……ごめんなさい師匠……」
元気よく部屋に入ってきたのに、一瞬でシュンとしてしまうリーゼ。
どうやらリーゼには、中に俺達がいると気配で分かっていたらしい。扉が開く前から誰かが来たと察した千聡も相当なものだと思うが、リーゼはそれ以上なようだ。
「それで、首尾はどうでしたか?」
「はい! 48人転がしてきましたよ!」
リーゼは相変わらず立ち直りが早い。そして、貴族のお嬢様が『転がす』とか言うんじゃありません……。
だが千聡はそこを気にする様子はなく。小さく頷いて言葉を返す。
「何人か殺しましたか?」
「いえ、一人平均4~5本は骨を叩き折ったと思いますけど、致命傷は与えていないはずですよ!」
「それは上々です。魔王様もお喜びになるでしょう」
すこぶる物騒な会話の後、千聡の視線が俺に向けられる。
これは……なんか言えって事だよね?
「リーゼ、よくやった。お疲れ様」
ちょっと魔王っぽさを意識してみたものの、自分でもわかるくらいぎこちない。
だがリーゼの心には思いっきり響いたようで、『――はい、お褒めの言葉ありがとうございます!』と言って、すごく嬉しそうな笑顔を浮かべる。
なんか、小動物的なかわいさがあるな。
そんな事を考えていると、千聡が思い出したように口を開く。
「リーゼ、カルメ卿を見かけませんでしたか?」
「……誰ですかそれ?」
「この船の船主で、今年の集会の主催者です。集会前の挨拶に立ったでしょう」
「ええと……ごめんなさい、全然覚えてません。弱そうな相手には興味ないもので……」
リーゼの返事に千聡は小さくため息をついたが、慣れた事だとでもいうように言葉を続ける。
「では誰か、囚われている者を見かけませんでしたか?」
「あ、はい。いましたいました! 敵が三人飛び出してきた部屋があって、とりあえず転がしたあともっといないかなと思ってのぞいてみたら。なんか縛られて猿轡を噛まされた人が一人転がっていましたよ!」
「特徴は?」
「えっと……閣下よりちょっと小さくて、閣下より太っていて、閣下よりだいぶ歳をとっていて、閣下より弱そうで、閣下より小者っぽくて……ああ、鼻の横にほくろがありましたよ!」
なんで比較対象が一々俺なんだろうか?
そして弱そうとか小者っぽいとか、どの辺りで評価しているのだろう? 正直俺はかなり弱いし、わりと小者っぽいと思うんだけど……。
「なるほど、恐らくカルメ卿ですね。それでどうしましたか?」
「え、その……人質を装った敵がいるかもしれないって話だったので、とりあえず『ゴン』ってやって意識飛ばしときました。あ、でも、ちょっと弱めに殴りましたよ!」
「……まぁ、そこまでは指示を与えていなかったので仕方ありませんね。カルメ卿の件は後刻対処するとしましょう」
千聡はそう言って、船内放送で『襲撃者は撃退しました。ですがまだ残党が残っている恐れがあるので、しばらくの間待機をお願いします』と伝え。襲撃者達が持っていた無線機を操作していたが、なにも反応がないらしい。
「多分全滅したんだと思いますよ。敵出てこなくなりましたもん」
リーゼはなんか、ゲームのモンスターみたいな事を言う。
「戦闘要員以外もいた可能性はありますが、壊滅に近い損害を与えたのは確かなようですね。ご苦労でした」
「師匠……」
千聡のねぎらいの言葉に、リーゼは感激したように目を潤ませる。
さっき俺が褒めた時も思ったが、普段からあまり褒められ慣れていないような反応だ。それとも、千聡からだから嬉しいのだろうか? 俺の時もそんなような反応だったしね。
そんな事を考えながら眺めていると。しばらくしてリーゼが『あ、先輩も帰ってきましたよ!』と、テンション高めの声を出す。
俺は全く気配を感じなかったし、千聡も同様みたいたが。しばらくして入り口の扉がノックされ、『陛下、潮浬です。ご無事ですか?』と声が聞こえてきた。
リーゼさすがだなと思いながら、『うん、みんないるよ』と返事をすると。扉が開いて全身ズブ濡れの潮浬が姿を現す。
「うわ、潮浬大丈夫? とりあえず全然足りないだろうけどこれ……」
慌ててハンカチを差し出すと、潮浬は『ありがとうございます陛下。新しいものを買ってお返ししますね』と言って、嬉しそうに受け取ってくれる。
俺は普段ハンカチとか持ち歩いていないのだが、今着ている魔王服には入っていたのだ。
なので俺のものではないし、『洗って返す』ではなく『新しいものを買って返す』な辺りに大きな引っ掛かりを覚えるが、まぁ気にしない事にしよう。
とりあえず顔と髪を簡単に拭く潮浬の姿は、濡れたドレスや髪が艶やかだったり体に貼り付いていたりして、妙に色っぽい。
正直目のやり場に困ってしまうが、ともあれこれで再び全員が揃った事になる。
みんな怪我とかなさそうでなによりだ。
潮浬が髪を拭き終わるのを待つ……事もなく。千聡が『首尾はどうでしたか?』と、早速情報収集を開始する……。
現時点での世界統一進行度……0.11%(西日本の魔族と小さな拠点がいくつか+魔族の小勢力三つ)
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(記憶を失っておられるにもかかわらず、主君としてリーゼを労って下さる。さすが魔王様・忠誠度上昇)




