35 襲撃者との戦い
襲撃者達に制圧されているという船内は、人影もなく物音もしない。
まだ襲撃からさほど時間が経っていないので、みんな部屋にこもって様子を見ているのだろうか?
そんな中を千聡とリーゼを先頭に。俺が続いて後ろに潮浬という陣形で、足早に進んでいく。
50人ほどの敵がいるらしいが、こちらの武器はリーゼが担いでいるギターケースの中に刀と、潮浬が持っている槍だけだ。
千聡が肩からかけているカバンにもなにか入っているのかも知れないが、それでもかなり心もとない。
さっき潮浬が強い所を見たので多少の心強さはあるが、それでもまだ不安の方が強かった。
それでもなるべく魔王らしく。不安を表に出さないようにしながら千聡達についていくと、不意にフワッと。顔に風を感じる。どうやら外に出たらしい。
……外はまだ真っ暗で、星がきれいだ。夜風が冷たくて気持ちいい。
だがそんなものを堪能している場合ではないので、千聡の誘導で姿勢を低くし、小走りで船べりに身を寄せる。
「潮浬、わかりますか? 小型ボートが三隻。反対側にももう三隻います。外からの攻撃を許すと万が一の可能性を排除できませんから、先に無力化しておく必要があります」
千聡の言葉に潮浬が海をのぞき、俺も一緒にのぞいてみる……が、海は真っ黒でなにも見えなかった。
「うーん、わたしはあなたみたいに目が良くないからなにも見えないけど、とにかく六隻いるのを始末してくればいいんでしょ?」
「できますか?」
「わたしを誰だと思ってるのよ。海でわたしの脅威になるのなんて、海王リヴァイアサンくらいよ。五分で片付けてみせるわ」
「わかりました、ではよろしく頼みます」
「了解。……それよりあなたこそ、陛下の事くれぐれも頼むわよ。かすり傷一つでも負わせたら許さないから」
潮浬はそう言って千聡に厳しい視線を向け。『無論です』という返事を確認すると、俺には一転。柔らかい笑顔を向ける。
「では陛下、ちょっと行ってまいりますね」
そう言って船べりに腰を掛け。ドレスを着たまま、頭を下にして夜の海へと落ちていく。
――とっさに身を乗り出して海面をのぞいたが。なにも見えないばかりか、水音すら聞こえなかった。
「……ねえ千聡。潮浬大丈夫だよね?」
「水中はあの子本来の活動領域です。人間相手に、万に一つも後れを取る事はないでしょう」
……そういえば、潮浬は人魚っぽい水棲の魔族って設定だったな。
でもそれはあくまで設定な訳で、ホントに大丈夫なのだろうか?
不安に思いながら潮浬が消えた暗い海を眺めていると、千聡が言葉をかけてくる。
「魔王様。しばらくこの場を離れて待機して頂けませんか? この場所では伏せたとしても、姿は隠せますが身は隠せませんので」
「……それってどう違うの?」
「この船の外板は、20ミリ厚の鋼鉄板です。敵から見えないように姿を隠すには十分ですが、敵が装備している20ミリ機関砲で徹甲弾を撃ち込まれたら容易に貫通されてしまうでしょうから。身を隠す事はできません。今の所撃ってくる気配はありませんが、念のために」
「な、なるほど……」
わりと本気で怖い事を言われて、俺達は一旦船内へと戻る。
近くの空き部屋で数分時間が過ぎるのを待ち。リーゼを護衛に残して様子を見に行った千聡が『水上戦力の排除を確認しました』と報告してくれ、俺達も行動を開始する事になった。
……潮浬、どうやったんだろうね? まさか槍で船底を突いたりしたのだろうか?
俺がそんな事を考えている間に、千聡の指示が飛ぶ。
「リーゼ、貴女は船首方向から上を目指しなさい。なるべく派手に暴れ、挑発して敵の注意を引きつけるのです。ですが、可能な限り致命傷を与えるのは避けるように」
「はい」
リーゼは千聡の注意を覚えていたらしく。珍しく小さな声で返事をして、嬉しそうに部屋を出ていく。しばらくして、怒鳴り声と銃声が聞こえてきた。
「……千聡、なんて言ってるかわかる?」
「はい。リーゼは『かかってこい雑魚どもが!』とか『そんな弾当たるか下手糞が!』などと言っていますね。敵側は、『止まれ、武器を捨てろ!』とか『撃て!』とか『殺せ!』とかですね」
おおう、わりとがっつり危ない言葉だ。
だがある意味、リーゼに関しては『挑発しろ』という千聡の言葉を忠実に守っているとも言える。
「……あれ、そういえば襲撃者は人間だって言ってた気がするけど、言葉は魔族語なの?」
「いえ、これはイタリア語です」
「ああ、そうなんだ……」
一瞬矛盾を突いたかと思ったが、さすが千聡。ぬかりはない。
て言うか、リーゼはヨーロッパ出身らしいからイタリア語にも馴染みがあるのかもしれないが。千聡はすごいな。やっぱり何ヶ国語も話せるのだろうか?
……そう考えるとリーゼも日本語ペラペラなので、最低二ヶ国語。もっと話せる可能性も高い。
考えるより行動の脳筋タイプだと思っていたけど、認識を改めるべきだろうか?
そんな事を考えていると、すごく生き生きとしたリーゼの声が聞こえてくる。
「『海に叩き込んでイルカのエサにしてやる! 死にたいやつから撃ってこい!』と言っていますね」
……いや、そこはサメのエサじゃないだろうか?
千聡の誤訳という事はないと思うので、多分リーゼが本当にそう言っているのだろう。
一瞬見直しかけた認識だが、やっぱり考え直すべきだろうか?
それとも、この辺りには人を食べるイルカがいるのだろうか?
そんな事を考えていると、リーゼ達の声が遠くなるのを待っていたのだろう。千聡が言葉を発する。
「魔王様。そろそろ我々も動きたく思いますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、うん。大丈夫だよ……」
本音はあまり大丈夫ではないが。俺が戦うと決めてみんなが動いてくれている以上、今更逃げる訳にもいかない。
まさか俺達だけでやるとは思わなかったけどね……。
「ではこちらへ。我々は船尾方向から操舵室を目指します」
千聡はそう言って、リーゼが騒いでいるのと反対側から階段を登っていく。
ビルみたいに大きい船の上部構造物。その上部前方に目指す操舵室があるらしい。
リーゼが反対側で大騒ぎしてくれているおかげか。俺達は敵に遭う事なく、順調に階段を登っていくのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.11%(西日本の魔族と小さな拠点がいくつか+魔族の小勢力三つ)
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(魔王様の統率があってこそ、潮浬もリーゼも私の指示を聞く。やはり魔王様は偉大だ)




