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33 襲撃

「はいはい、これやりたいです!」


 なにかやりたい事はないかという俺の質問に、リーゼは部屋に備え付けのトランプを持ち出してくる。


「……リーゼ、ヨーロッパの生まれなんでしょ? せっかくだからどこか行きたい所とか、会いたい人とかいないの?」


「え……別にないですよ。会いたい人はここに全員そろってますし、みんなでいられる場所が居たい場所ですから」


 ……うん、そういえばリーゼも千聡の仲間だったね。言う事がすごく千聡っぽい。


 でも少しだけ違うのは。千聡や潮浬が『俺と』と言うのに対して、リーゼは『みんなと』と言う所だ。なんかそれだけで、とてもいい子に思えてしまう。


 よく考えたらリーゼは17歳で一番年長のはずなのだが。『魔族だった頃を足すと一番若い』という設定と、言動が一番子供っぽいおかげで年上に思えない。


「わかった、じゃあトランプやろうか。千聡と潮浬もやる?」


「はい」「もちろん」


 全員の意見がまとまった所で、リーゼにやりたいゲームを訊き。『7並べ』『大富豪』『ダウト』と、三回ずつやっていく……。



(……おかしい、なにやら不正の臭いがする?)


 俺がそう思い始めたのは、7戦目。ダウトの一回目が終わった所だった。

 なにがおかしいって、今まで全部俺が一位で。以下、千聡-潮浬-リーゼと、順位が固定なのである。


 明らかになんらかの力が働いているが、7戦目まで気付かなかったほどには違和感がなかったのも事実である。


 多分と言うか間違いなく千聡の接待プレイなのだろうが、ずっと千聡を見ていてもおかしな動きはどこにもない。ただじっと、他の三人の視線や表情を観察しているだけである。


 初回以外は最下位の人がカードを配るルールで、ずっとリーゼがやっているのでそこにも不正はないだろう。


 ……これは不正が行われているのではなく、単に千聡の観察眼が異様に鋭いだけなのだろうか?


 それで俺を毎回一位にし。自分もちゃっかり二位に納まっているのは、すごいとしか言いようがない。


 ズルをしていないのならとかめる理由はないし、リーゼは毎回最下位で悔しそうだが。それ以上にとても楽しそうである。


 潮浬にいたっては、手札や場と俺を1:9の割合で見つめている有様ありさまで。ゲームの勝敗とか欠片かけらも興味なさそうなので、こっちも気にしなくて良さそうだ。


 ……みんなが楽しいならゲームを中断する理由もないし、俺は黙って接待プレイに甘んじておこう。


 そんな事を考えながらダウトも三戦が終わると、9連敗をキメたリーゼは『じゃあ次は神経衰弱をやりましょう!』と、冷静さを欠いた言葉を発しはじめた。


 潮浬に『記憶力勝負で千聡に勝てる訳ないでしょ』と突っ込まれたが、果敢に勝負を断行し。見事連敗を12に伸ばす事になった。


 だが本人は全くりる事なく、『次はババ抜きをやりましょう!』と意気軒昂いきけんこうである。どうやら連敗以上に、みんなで遊ぶのが楽しくてしょうがないらしい。


 ある意味ほほえましい光景なので温かく見守っていると、不意にリーゼが大声を上げる。


「やった、上がった!」


「は――?」


 見ると、リーゼは配られたカード全てをペアにして場に出し。まだ一枚もカードをやり取りしない内から一抜けしてしまったらしい。


 事実上ゲームが始まる前なので、さすがの千聡もどうしようもない。でもこんなの、初めて見た。


「……千聡、こんな事ってあるの?」


「確率の上ではありえます。四人プレイですと、およそ4000回に一度ですが……」


「よんせん?」


 なんか俺、わりとすごいものを見たらしい。


「リーゼちゃん、運だけはやたらと強いからね……」


「はい! 閣下や師匠や先輩と出会えましたもんね!」


 感心したような潮浬の言葉に、リーゼがちょっとズレた。でも温かみのある言葉を発する。


 ……ともあれ、ついに念願の初勝利を手にして大喜びのリーゼだったが。次の二戦は安定の二連敗を喫し、また意気消沈する事になる。

 テンションの上下が激しくて。見ているだけで楽しいと言うか、ほほえましい。



 ババ抜きを三回やった所で、リーゼが知っているトランプゲームが一回りしたらしく、また最初の7並べに戻る。


 二周目一回戦の7並べも俺が一番に上がり。千聡が二番、潮浬の三位が確定しつつあった時。リーゼが急に顔を上げ、鋭い視線を窓へと向ける。


「――閣下、伏せて!」


 そう叫ぶが早いか、リーゼが飛びつくように覆い被さってきた。

 わずかに遅れて千聡と潮浬も、隙間すきまを塞ぐように体を重ねてくる。


 直後。『ドン!』と大きな音と共に、船体が震えた。


「――二人共、魔王様を!」


 のどかな空気は一転、千聡の声に潮浬が俺を抱えて廊下側の壁に身を寄せ。リーゼがテーブルをひっくり返して盾のように俺達の前に置き、自身もその後ろに立つ。


 その間に千聡は素早い動きで海側の壁に身を寄せ、窓から外をうかがう。見事な連携だ。


「……視認範囲に小型ボートが三隻。固定式の機関砲が一門と、携帯式のロケットランチャー。他に小火器装備の兵員が最低18人。反対舷にもいるかもしれませんね」


 千聡がいつもの冷静な声で。でもちょっと早口で言う。


『しょうかき』って、まさか火を消す消火器じゃないだろうから、銃やなんかの事だろう。


 ちょっと前にマフィアの皆さんが持っている自動小銃を見たが、あの時は結局発砲しなかったので本物かどうか不明だった。でも今回は、間違いなく爆発した。


「師匠、部屋の電気消しますか?」


「いえ、今は逆に目立ちます」


 リーゼの問いと千聡の反応も、なにやら緊張感に満ちている。

 その時、船内放送の声が流れてきた。


『ただいま当船は何者かの襲撃を受けましたが、ご心配には及びません。皆様は自室か、最寄の部屋での待機をお願いいたします』


 潮浬がそう内容を訳してくれたのとほとんど同時に、比較的近い場所。多分俺達がいる船側から、連続した銃の発射音が聞こえてくる。


 ――だが次の瞬間。『ドン!』『ドン!』と立て続けに大きな音と振動が響いて船が揺れ、続いて『ガンガンガン!』と、鉄板を金槌かなづちで思い切り叩いたような、すごい音が連続して聞こえてくる。


「……これはダメですね。まぁ元より、守りを破れないような戦力で攻めてくるのは、よほどの愚か者だけですからね」


 この状況に俺はかなりおびえているのだが。千聡は変わらず冷静な声で言うと、窓際を離れて俺達の元へとやってくる。


「魔王様を狙っての襲撃である可能性は低いと思いますが、いずれにせよ魔王様の安全が最優先です。――リーゼ、なにがあっても絶対に魔王様のお傍を離れないように。潮浬、もしもの時は魔王様をお連れして海へ逃げなさい。貴女なら魔王様をかかえて岸まで泳げるでしょう。私は情報を集めてきます」


「はい!」「任せといて、陛下をいてなら世界一周だって泳げるから」


 千聡と潮浬で微妙に言葉が変わっているのが気になったが。二人の返事に千聡は小さくうなずき、俺に視線を向ける。


「魔王様。ご不自由をおかけして申し訳ありませんが、しばしご辛抱ください。御身おんみの安全は必ず我々でお守りしますので」


 千聡はそう言って頭を下げ、入り口の扉に手をかける。


「――千聡!」


 俺がとっさに声を上げると。千聡はピタリと動きを止めてこちらを振り向く。

 少し開いたドアから、かすかに焦げくさい臭いが漂ってきた。


「ええと……気をつけてね」


「はい。お気遣いを賜り感謝申し上げます」


 とっさにどう声をかけていいのかわからず。止めるべきかとも迷ったが、自然と口から出たのは『気をつけてね』だった。


 振り向いた千聡から、わずかでも恐怖や動揺を感じ取ったら。俺は間違いなく止めていたと思う。


 だが目を合わせて感じたのは、確固たる信念と強い自信。そして襲撃者達への苛立いらだちだった。トランプを邪魔されたから怒っている……訳ではないと思うけど。



「……ねぇ潮浬。千聡大丈夫だよね?」


 千聡が消えていった扉を見つめながら、俺は潮浬に向かって言葉を発する。


「情報収集はあの子の得意分野ですから、心配いらないでしょう。……ところで陛下。人間危機に陥ると本能が子孫を残そうとして性欲が高まるそうですが、子供を作りたくなったりしておられませんか? 陛下の子供を産むのとか、わたしすっごく得意分野なのですが」


「……あー、うん。今の所そんな気にはなってないかな」


 なんか潮浬のおかげで、一気に冷静さが戻ってきた。


 とはいえ潮浬の想いについては色々聞いた所なので、返事はちゃんとしておく。



 冷静さが戻った頭で。断続的に響いてくる銃声や小さな爆発音を聞きながら、俺は千聡の無事を祈るのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.11%(西日本の魔族と小さな拠点がいくつか+魔族の小勢力三つ)


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑(気遣いの言葉をかけてもらって上昇 カンスト)

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとも微笑ましい一話w [一言] 末尾の忠誠度が上限突破してたのに吹きましたww
[一言] 下がるところか、カンストしていた千聡の忠誠値(いや、元々カンストでは?w
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