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31 潮浬の覚悟

 潮浬がシャルナークというらしい男の人を冷たくあしらった理由。

 望みのない片思いに希望を持たせるなんて、そんな残酷な事はしたくないという言葉に、俺は深く考え込まされる。


 なぜならそれは、今まさに俺が潮浬にしている事。俺と千聡と潮浬の関係に、そのまま当てはまるのではないかと気付いたからだ。


 潮浬の態度は一見あまりに無情で冷たいものに思えたが、その実ちゃんと相手の事を考えての行動であり。むしろそれを責めようとした俺の方が、無責任で相手の事を考えていなかったのだ……。


 そして潮浬は、『片想いをする辛さを他の誰よりもよく知っている』と言った。


 最近は潮浬からのアプローチにも慣れ。好きだと言われたり関係を迫られたりしても半ば習慣のように受け流していたが、もし潮浬が全て本気で言っていたのだとしたら。

 俺の態度はそれこそ冷たく、残酷なものだったのではないだろうか?


 俺は偉そうに潮浬を責めるような事を言ってしまったけど。本当に責められるべきは、千聡が好きでありながら潮浬にも曖昧あいまいな態度をとっている、俺の方だったのではないだろうか……。


 そんな考えが頭の中をぐるぐると回り。俺の口から、自然と言葉がこぼれ出る。


「潮浬、俺……『陛下、お待ちください!』


 ――俺の言葉を、潮浬が慌てたように。大声を上げてさえぎった。潮浬が大声を出すなんて、今まであまりなかった事だ。


 俺の言葉を遮った事で、千聡がジロリと潮浬をにらんだが。俺が不快に感じていないのを確認したからか、黙って流してくれた。


 潮浬はいつもの察しのよさで、俺が言おうとした言葉を。この残酷な現状を断ち切る言葉を発しようとしたのを、敏感びんかんに感じ取ったのだろう。

 それを言わせまいとするように。初めて見るうろたえた様子で、必死に言葉をつむぎ出す。


「陛下……い、以前にも申し上げましたが、魔王が妻を複数めとるのは当然の事です。そうですよね千聡!」


「それは魔王様がお決めになる事ですね」


 ……初手で千聡を巻き込みにきた辺り、潮浬は本当に俺の事をよく分かっている。


 俺が好きなのは千聡だから、千聡がいいと言えば浮気……複数人と同時に付き合う事も、公認という事になる。


 それに俺は、れた弱みか千聡が言う事には弱いのだ。

 それこそ密入国覚悟で外国まで来て、言われるがままに魔王コスプレをして集会に出るくらいにだ。


 ……それはともかく、潮浬は千聡から思い通りの答えを引き出せたらしい。

 勢いを得て更に言葉を重ねてくる。


「千聡もこう言っている事ですし、陛下がハーレムを構成する事にはなんの問題もありませんよ! ……それにわたしは、なにも陛下の恋人にして欲しいとか結婚して欲しいとか言っている訳ではありません。ただ陛下との子供が欲しいだけですから、シャルナーク卿のケースとは全然違うのです!」


 おおう、なんか必死だ……けど、結局の所。潮浬が言っている事は『千聡公認なので浮気しましょう』なのであって、俺としてはちょっと受け入れがたい。


 やはりここは、俺の考えをちゃんと伝えておくべきだろう。


 そう思って口を開きかけると、また潮浬が機先を制するように言葉を発する。


「陛下、お待ちを! その言葉は聞きたくありません!」


 潮浬は目に涙を浮かべて叫ぶように言うと、俺の手をつかむ。


「陛下。わたしの『好き』は、そこいらにあふれている好きとは違うのです! 振られても一晩眠れば泣きやめるような。旅行に行って美味しい物を食べれば立ち直れるような、そんな類のものではないのです!」


 ……ちょっと他の人に失礼な気もするが。潮浬は俺の手を胸元に引き寄せ、声を震わせて言葉を続ける。


「わたしは陛下に本気で拒絶されても、それで『では仕方ないですね』と引き下がる事などできないのです。この身を賭けて、命をして恋をしているのです。いざとなれば、たとえ陛下の意にそむいてでも。どんな手を使ってでも、本懐ほんかいを遂げるつもりでいるのです!」


 その言葉に千聡の視線が鋭くなり、潮浬をにらみつけるが。潮浬はそんな事には構わずに、絞り出すように声を発する。


「わたしの体には、いざという時のためにその機能も備わっています。この犬歯けんしからは毒を注入でき、相手の脳を完全に麻痺まひさせて、幸せな夢を見続けるだけの生きた人形にしてしまう事ができるのです。わたしの母はそうやって、どこかの国の王だったという父を手に入れたのです」


 そう言いながら人差し指でちょっと上唇うわくちびるを持ち上げ。キレイな歯並びの中の、とがった歯を見せてくれる潮浬。

 ……そういえば千聡が、神経毒がどうのと言っていたな。


 そんな事を思い出していると、潮浬は泣きそうな表情のまま言葉を繋ぐ。


「わたしの母は種族としての本懐ほんかいを遂げ、わたし達娘を産み育ててくれている間、本当に幸せそうでした。表情が曇っている所など見た事もありません。甲斐甲斐かいがいしく、日に何度も父の世話をしていたのをよく覚えています。そんな母でしたが、わたし達には何度も。耳にタコができるほどに同じ言葉を言い聞かせました。『毒を使って相手をものにするのは、本当に最後の最後。どうしようもなく万策尽きた時だけにするのですよ』と――」


「…………」


「最初はそこまで言われる意味がよく分かりませんでしたが、わたし達が成長して親離れをする時期になって。本懐を遂げた母が命を全うする時になって初めて、その意味がわかりました。

 この毒は副作用として日に一度、生成者の体液を取り込まなければ、受けた者を死に至らしめるのです。おそらく決して想い人を奪い返されないようにと、先祖達の執念が進化させてきたのでしょう。

 それ自体は誇らしくもありますが。一方でわたし達は本懐を遂げ、運命の相手との子を産み育てると、そこで天命をまっとうして一生を終えるのです。それはつまり、毒を使うという事は自分が愛した相手を。最も大切な人を、道連れにして殺してしまうという事なのです」


 潮浬はそこで一つ呼吸を置き。歯を小さく『ギリッ』と鳴らして話を続ける。


「わたしの母は、わたし達を育て終えて天命を迎える時。父を抱いて寝室に入りました。父を……殺すためにです」


「…………」


「元々毒のせいで脳が麻痺してしまっているのですから、世話をする者がいなければ生き長らえる事はできません。毒の副作用は、もし万が一打ち込んだ者が不慮の死を遂げてしまった時、想い人が無残な最期を迎えないようにとの思いも込められていたのかもしれません。ともかくいずれにせよ、この毒を使った者は最後の責任として、自分の手で想い人の命を絶たなくてはいけないのです。

 たとえ一日であっても、身動きができない状態で放置しておくのは忍びないですし。子供に責任を押し付けるような事でもありませんからね」


 そう語る潮浬の目から、涙がこぼれ落ちる。


「わたしは15年間母に育ててもらいましたが、母が悲しそうな顔をしている所など一度も見た事がありませんでした。……ですが最後に一度だけ。父を抱いて寝室に消えていく時の母は悲しみに表情を歪ませ、涙を流していました。それはわたし達との別れを悲しんででも、自分の命が尽きる事へのなげきでもなく、ただ一点。自らの想い人を。最愛の人を自らの手で殺さなくていけない事への、悔恨かいこんの涙だったのでしょう。

 わたしはその時、母が何度も噛んで含めるように。『毒を使うのは本当に最後の手段に、万策尽きた時だけにするのですよ』と言っていた意味がわかったのです。……当然ですよね。わたしだってこの手で陛下を殺さなければいけない日が来るなどと、考えただけでも気が狂いそうに。内臓が腐り落ちて臓腑ぞうふを吐き出してしまいそうになります」


 潮浬の声は震え。本当に吐きそうなのか、口元に手を持っていく。


「……陛下。ですがわたしは、もし本当にそれしか選択肢がなくなったら。最後の最後には自分の目的を果たすために、最終手段を採るでしょう。千聡やリーゼちゃんが邪魔をするなら、二人を殺してでもです。……ですができれば、わたしが最後を迎える時には、陛下に手を握ってもらいながら笑って。それが高望みなら、どこかで幸せに暮らしておられる陛下の姿を目蓋まぶたに描きながら死にたいと思っています。

 ですからどうかわたしの望みを、頭の片隅にでいいですから留め置いてください。そしてわずかばかりのご配慮をたまわれましたら、大変ありがたく思います……」


 潮浬はそう言って、千聡がよくやるように床にひざまずく。



 なんか、すっごい重たい話を聞かされたな……。




 現時点での世界統一進行度……0.11%(西日本と小さな拠点がいくつか+小勢力三つ)


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%(カンスト)

※千聡が神経毒がどうのと言っていたのは、15話をご参照ください。

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