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28 マジギレする潮浬さん

『こんなヒョロっちい奴が魔族の王だと? 頭イカレてんじゃねぇのか?』


 俺としては、言い方はともかく内容には七割くらい賛成できる言葉。

 しかし俺の回りにいる女の子三人はいたくご立腹のようで、急速に不穏な空気が満ちていく。


 千聡が、冷たく平坦な声を発した。


『相手の器も量る事ができないような無能に、頭がどうこう言われたくはありませんね』


『――なんだと!』


 千聡の言葉を訳してもらった時点で、大男の反応は聞かなくてもわかった。


 身長二メートルクラスで体格も顔もいかつい大男に威圧され。この状況は、本来ならとても恐ろしく感じるはずだ。


 ……実際恐ろしく感じてはいるのだが。俺が感じている恐怖は別の所にたんを発している気がする。

 正面の大男ではなく、隣に座っている可憐かれんな少女。潮浬から、凍りつきそうなほどに冷たい殺気が、強力に放たれているのだ。


 潮浬は通訳こそ継続してくれているが、さっきまで七色だった声は無機質なものとなり。いつも微笑を浮かべている顔も、完全な無表情になってしまっている。


 本来ならマフィア風の大男五人のほうが圧倒的に怖いはずなのに。今の俺には、潮浬のほうが圧倒的に恐ろしく感じられるのだ。


 そんな間にも千聡と大男との口論は続き。ますますヒートアップしつつある。


 少なくとも口論に限れば千聡の方が圧倒的に優勢なようで。相手の顔は怒りで真っ赤になっているが、これはいいのだろうか?

 

『なにが全ての魔族を統一した魔王だ、今だってビビッて声も出せねえじゃねぇか!』


 大男が、俺の中ではわりと的確な言葉を発する。


 だがそれをこれ以上ないほど冷たい声で訳してくれた後。潮浬がスッと立ち上がった。

 いつの間にか手には、巻いてあった布を解いた槍が握られている。


「……千聡、悪いけど通訳代わってくれる? わたし、自分ではわりと温厚な方だと思ってるんだけど、この世でたった一つだけ。好きな人の悪口を言われるのだけは我慢できないのよね」


 数歩前に出、千聡の肩に手を置いて日本語でそう言った潮浬の言葉に、千聡は一瞬なにかを言いかけたが。結局その言葉を発する事はせず。黙ってこちらに戻ってきて、俺の隣に腰を下ろした。


 その表情は緊張に染まり、動揺しているように見える。


『なんだテメェは!?』


 千聡の訳は事務的で、感情が乗っていないものだったが。それでも大男の表情と声の大きさを考えれば、怒り心頭しんとうに発している事は明らかだ。


 だがその逆に、潮浬は静かな口調で言葉を発する。


『あなたが身の程を知らない馬鹿なのは勝手だけどね。わたしの魔王陛下を二度も侮辱ぶじょくしたからには、相応の覚悟はできてるんでしょうね?』


 ……なんだろう。大男の大声よりも、潮浬の静かな声のほうに凄味すごみと言うか、恐怖を感じてしまう。


 だが俺と大男は感情を共有できていないらしく。五人のボスなのだろう男はスーツの胸ポケットに手を突っ込み、拳銃を引き抜いて潮浬に向ける。

 後ろの四人も、肩からかけている自動小銃を構えて、ガシャリと弾を送る動作をした。


『ガキが、調子に乗ってんじゃねぇぞ!』


『わたしから見れば、ガキなのはあなた達の方ですけどね』


 潮浬の言葉にボスは一瞬怪訝けげんな表情を浮かべ、隣にいる黒スーツと小声で言葉を交わす。

 その間に、千聡が男達の解説をしてくれた。


「あの者達は北米に勢力を持つ、この世界で言うビッグフットの一族です。裏では北米のマフィアの内、七割を仕切るボスでもあります」


 ビッグフットは、最近覚えた俺の幻獣妖怪知識の中にもある。たしかヒマラヤの雪男イエティの、ロッキー山脈版だ。


 ……それはともかく。千聡はしれっと言ったが、マフィアのボスとか本当だったらえらい事である。


 マフィアのコスプレかなとは思っていたが。もし本物だったら、あの拳銃や自動小銃も本物だという事だ。


 本当だったら、だけど……。


 いくら目をらしてみても、俺に銃が本物かどうかなんて分かるはずもないし。マフィアのコスプレなのか本物なのかの見分けも難しい。


 判断ができずに気をんでいると、部下との話が終わったらしく。大男改めマフィアのボスが潮浬に向かって言葉を発する。


『なるほど、おまえが深海の歌姫と言われたディオネか。よく見るとかわいい顔をしてるじゃねぇか』


 どうも部下は潮浬の事を知っていたらしい。ボスは少し機嫌を直したのか、声を落ち着かせて感じの悪い笑みを浮かべる。


『あなたに褒められた所で欠片かけらも嬉しくありませんね。そして今のわたしはもうディオネではなく。魔王和人陛下の配下にして愛人、若槻潮浬です』


 ……なんか、聞き捨てならない肩書きが勝手に入っていた気がするのは気のせいだろうか?


 そしてボスの方も、下卑げびた笑顔を浮かべながらその肩書きに食いついてくる。


『まだビビッて立つ事もできねぇそんな小僧こぞうより、俺の女になれ。好きなだけ贅沢をさせてやるし。そんな小僧と違って歌姫にふさわしい、いい声で鳴かせてやるぜ』


 ボスの言葉に、一瞬潮浬の髪がザワリと逆立ったような幻覚にとらわれた。


『…………ふざけるなよ、陛下の髪の毛一本ほどの価値もないゴミが』


 潮浬の声に、今までにないほどの殺気が宿る。


 体格で言えば、二メートル越えのボスと150センチもない潮浬では大人と子供ほども違うが。潮浬は圧倒的な体格差に加えて五対一の人数差。槍と拳銃や自動小銃という武器格差さえも気にする様子はなく、ボスに向かって一歩を踏み出した。


 ゆっくりと槍を構える潮浬に対し、ボスと部下達も拳銃と自動小銃の引き金に指をかけ。こちら側でも千聡が立ち上がって盾になるように俺の前に立ち。慌てた表情をしたリーゼが更にその前へと出る。


『魔王陛下が立ち上がらない? それは、あなた達がそんな価値もないザコだからですよ。今からそれを教えてあげますから、かかってきなさい』


『――――!!』


 潮浬の言葉にマフィア達は色めき立ち、顔を赤くしたボスが怒鳴るように言葉を発する。


『最後の警告だ。今すぐひざまずいて発言を取り消し、許しをえ! そうして俺の女になると誓えば、命だけは助けてやる。生意気な口を効いた分の報いは受けてもらうがな』


『かかって来いと言っているのです。御託ごたくはいいからさっさと来なさい。弱い犬ほどよく吠えるというのは本当ですね』


『――てめぇ!』


 ボスの声に合わせて、部下達全員の指が動く。



 会場のほとんど全ての視線が俺達に注がれる中。俺は本気でヤバい気配を感じて、潮浬をかばおうと腰を浮かせる……。




 現時点での世界統一進行度……0.11%(西日本と小さな拠点がいくつか+小勢力三つ)


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%(カンスト)

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