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22 銅像

 翌日。初めて千聡に振舞う料理をハンバーグに決めた俺は、午前中にリーゼの護衛のもと買い物を済ませ。夕方からは午前中に仕事を終えたという潮浬に手伝ってもらいながら、台所に立つ。


「あ、陛下。タネをこねるのは私にお任せください。わたし元々水棲の魔族で体温が低いですから、この仕事にはうってつけだと思います」


 潮浬がそう言うので、材料を混ぜて整形する作業をやってもらったが。そういえば潮浬にキスをされた時、くちびるがヒヤリと感じたのを思い出す。


 水棲の魔族だったかどうかはともかく、体温が低いのは本当なのだろう。


 ハンバーグをこねるのは肉がダレないように手早く。できれば水で手を冷やしてからが理想なので、体温が低いのはたしかに適任だ。


 様子を見ながら付け合わせの野菜を準備していると、潮浬がタネを混ぜながら言葉を発する。


「ちなみに体温が低いので、暑い夏の夜に抱いて寝るにも最適だと思います。よろしければいつでもお呼びくださいね」


 ……うん、この子は本当にブレないな。


 なんとか誤魔化しながら作業を続け、予定の19時に間に合うように料理を仕上げる。

 ちなみにごはんは一升炊きという大型の炊飯器が用意され、潮浬の提案で9合を炊く事になった。


 俺を含めて四人。リーゼがプラス二人前食べるとして六人分にしても多いと思ったが、潮浬に『リーゼちゃんなら大丈夫ですよ。おなかいっぱいになった方が幸せじゃないですか』と言われて、納得した。


 まぁ、余ったら明日の朝お茶漬けにでもすればいいしね。



 そして、予定の19時ピッタリに千聡が姿を見せ。昨日と同じくベッドの下に潜り込んでいたリーゼも出てきて、四人で食卓を囲む事になる。

 一人用コタツでもあるテーブルは、料理でいっぱいだ。


 先日までは一人で食べていた事を思うと、なんかテンションが上がってくる。


 全員で『いただきます』をして食事がはじまり、千聡の反応はどうかとドキドキしながら見ていると、一口食べたと思った瞬間。目からポロポロと涙を流しはじめた。


 何事かとギョッとしたが、そんな千聡をたしなめるように。潮浬が言葉を発する。


「馬鹿ね、泣いてたらせっかくの陛下のお料理の味がわからないでしょう。全神経を集中させて味わいなさい」


「……そう、ですね」


「閣下、おかわりいいですか!」


 潮浬の言葉で千聡は食べる事に集中しはじめ。なぜか潮浬が、リーゼのお茶碗におかわりをよそってくれる。

 母親ポジション……なのかな?


「……千聡、味の方はどうかな? 口に合う?」


「はい。魔王様の手料理を頂く感激のあまり味を感じないではあまりに無礼ですので。全力で味覚に集中しておりますが、とても美味しいです。特にこのふわっとした食感は絶妙です」


「ああ、それはね。ひき肉と豆腐を半分ずつ使ってるんだよ。100パーセント豆腐ハンバーグはヘルシーだけどイマイチ食べ足りないから、ひき肉と同量にしてる。気に入ってもらえてなによりだよ」


 単に『美味しい』と言われるよりも、具体的な感想をもらえるとなんだかとてもうれしくなる。


 幸せのうちに夕食の時間が過ぎ。せめて後片付けくらいはと、千聡とリーゼがやってくれるのを待って。今度は魔王様を迎えての会議へと移行する。



「魔王様。建物の改装とその他拠点整備につきまして、ご意見とご裁可さいかを賜りたく思います」


 そう言って、何枚かの紙を渡される。

 一瞬印刷かと思ったが、よく見ると手書きである。すごいな、こんなキレイな字を書ける人って実在するんだ……。


 そんな所に感心しながら、順に書類を読んでいく。


 俺の部屋の外側に、防弾鋼板を張り巡らせた二重壁を設置したり。窓はそのままだが、狙撃を受けないように直線の射界をさえぎるべく。敷地境界に沿って防壁を建てたりするのだそうだ。


 この辺りはまぁ、大家さんの好きにやってください案件だ。


 玄関の扉の向こう。今は前庭になっている部分に一部屋を増設し、そこを護衛の控え室とするというのもまぁ、ちょっと外へ出るのが遠くなるけど問題ないだろう。


 だが問題なのは、次の案件。このアパートの北側。今はどこかの運送会社の倉庫兼駐車場になっている場所に、俺の銅像を建てるという計画だ。


 ……そう、銅像である。企画書を見ると、台座を含めて高さ100メートルの巨大立像で、なんか俺がカッコイイポーズを決めているイラストが添付されている。マジか?


「あの、千聡。これはちょっと……」


「お気に召しませんでしょうか? デザインを変更いたしますか? それともサイズを?」


「いや、デザインとかサイズとかじゃなくてね……」


 こんな銅像が建ったら、俺恥ずかしくて近所を歩けなくなってしまう。

 子供に『あ、銅像の人だ』とか言って指をさされる事請け合いだ、どんな罰ゲームだよ。


 ……さすがにこれはデザインとかサイズの問題ではなく、企画自体を廃案にしてもらうようにお願いする。

 千聡はちょっと残念そうだったが、これは譲れない所だ。


 ……他はまぁ許容範囲で。西側に建てられるはずだった表向き本拠地のビルが銅像の予定地だった北側に移動したりしたが。これはまぁ問題ないだろう。


 て言うか30階建てのビルとか、本気で作る気なのだろうか?

 いくら千聡がお金持ちでも、限度があると思う。


 一応大丈夫か訊いてみたら。『大丈夫です。間違っても魔王様のお住まいを上から見下ろしたりする事がないように、こちら側の壁には窓を一切設けませんから』と、斜め上の返答が返ってきた。


 別にそんな事を気にした訳ではないが。まぁ、俺の銅像が建つよりははるかにマシだろう。


 そんな事を考えて、銅像以外は『千聡に任せる』と言っておいた。


「ありがとうございます魔王様。……つきましては、この建物に関わる工事は魔王様のお部屋に手をつけないのはもちろん、万全の準備を整えた上でなるべく短期間に行いますが、二日はかかる見込みです。その間は騒がしくなりますから、他所でお過ごし願えればと思うのですが……ちょうどイオニア海において世界の魔族の有力者が集まる、年に一度の会合があります。よろしければそちらに足をお運び頂く事は叶いませんでしょうか?」


 ……なんか、工事は口実でイベントに引っ張り出されるのがメインのような気配を感じる。

 まぁ、工事をしたいのも事実なんだろうけどね。


「それは別にいいけど、イオニア海ってどこ?」


「こちらになります」


 そう言って千聡が取り出して広げたのは、ヨーロッパの地図。準備万端だな。


 ちなみにイオニア海は、イタリア半島の先端。長靴に例えられる底の部分と、ギリシャとの間だった。


 地中海の一部で、北へ行くと観光地として有名なアドリア海である。

 ……って、まさかの外国だ。


「あの、俺パスポートとか持ってないんだけど?」


些事さじは全てこちらで対応いたしますから、魔王様は御身おんみ一つをお運び頂ければ問題ありません」


 なんか京都へ行った時と同じ事を言われるが、さすがに国内旅行と海外旅行は同一に語れないだろう。パスポートがないと、最悪密入国とかになるんじゃないだろうか?


 ……でもまあ、さすがにそんなあからさまな犯罪行為はしないだろう。

 『些事は任せて欲しい』と言ったのは、多分パスポートを代理で申請してくれたりするのだと思う。


「問題ないのならいいけど……いつから?」


「会合の開催が8月の1日を挟んだ両夜ですから、7月の31日にこちらを発って、8月の3日に帰ってくる予定になるかと思います」


 ……今日が7月の29日だから、まさかの明後日出発だ。

 パスポートってそんなに早くできるものなのだろうか?


「俺は大丈夫だけど、準備の方は間に合うの?」


「問題ありません。全てこちらで万全に整えます」


 ……まぁ、千聡が断言するなら多分大丈夫なのだろう。


 俺の了解を取りつけた千聡は、潮浬とリーゼに視線を向ける。


「リーゼは問題ありませんね。潮浬、貴女はどうしますか?」


「一緒に行くに決まってるでしょ。三日も陛下と離れたら死んじゃうわよ」


 ……出会ったのがつい数日前の事なのに、さすがにそれは大袈裟おおげさじゃないだろうか?


 そんな俺の疑問をよそに。どうやら四人揃っての三泊四日ヨーロッパ旅行が決定したらしい。

 ……旅行、だよね?



 先日の京都行きの事を思い出して少し不安になりつつ。それでも俺は初めての海外に。千聡と一緒の旅行に、楽しみ8割不安2割くらいで旅の準備を進めるのだった……。

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