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14 忠誠のありか

 潮浬はシャツをはだけさせ。ベッドに横たわる俺の上にまたがって、軽くこしを落としてくる。


 ――俺はあらん限りの理性を動員して、言葉を発した。


「ちょ、ちょっと待って! えっと……そうだ、結婚は18歳にならないとできないんだよ!」


「この国の法律では今の所、女は16歳からできるようですが」


「あれ、そうだっけ……? でも、潮浬ってたしか13歳だよね? どっちにしてもダメなんじゃ……」


「そんなどこの誰が決めたかも知れない法律などより、わたしには陛下との絆の方がずっと大切です。それにこの国でも、ほんの数百年前まではわたしくらいの歳で結婚するのも珍しくなかったそうではありませんか」


「いや、それはそうだけどさ……」


「それにわたしは、結婚して欲しいとか愛して欲しいとか言っている訳ではありません。陛下との子供が欲しいだけです。結婚などしなくても子供はつくれますよ」


「いや、それはそうかもだけど……」


「ご安心ください、陛下にはなにも迷惑などおかけしませんから。子供の10人や20人を育てるくらいの蓄えはありますし、知識も十分身につけております。わたしが責任を持って、立派に育て上げてご覧に入れますから」


 ……なんか、すっごいグイグイ押してくる。そして10人や20人って、一体何人つくる気なんだ?


 そりゃ大人気アイドルの潮浬には、それくらいの貯金があるのかもしれないけどさ……。


 そんな事を考えている間に。潮浬はブラのホックまで外してしまう。小柄なわりに大きな胸が、もう少しで大事な所まで見えてしまいそうだ……。


 ――と、不意に潮浬は動きを止めて、少し考え込む様子を見せる。


「陛下は服を脱いでしまうのと着たままと、どちらがお好みですか?」


 ……いかん。なんか話が具体的になってきたぞ。


 たしかに潮浬は魅力的で、正直俺なんかにはもったいなさ過ぎる相手だと思う。


 だが、いくらなんでも高校生と中学生で子供なんて早過ぎるし。それに俺は、千聡の事が好きなのだ。……って、そうだ。千聡は?


 なんとか首を動かして部屋を見渡すと、視界の端に。呆然ぼうぜんとした表情を浮かべて床にへたり込む、千聡の姿があった。

 まるで魂が抜けてしまったかのように、うつろな視線をこちらに向けている。


 様子がおかしいとは思ったが、俺は助けを求めるように言葉を発する。


「ねぇ千聡、千聡はどう思う? やっぱりダメだよね、この歳で子供なんて……」


「私は……魔王様さえよろしいのでしたら。それで良いのではないかと……」


(……あれ?)


 なんか千聡の様子がおかしい。明らかにおかしい。


 まだ出会って三日目だが、こんな弱々しく返事をする子じゃなかったはずだ。


「千聡、どうかしたの?」


 思わず自分が置かれた立場も忘れて声をかけると、今にも消え入りそうな声で返事が返ってくる。


「魔王様……私は忠誠に見返りを求めるような、そんな浅ましい臣下だったのでしょうか? 魔王様に認められて可愛かわいがって頂きたいと、そんな下心を持ってお仕えしていたのでしょうか……」


 ……うん、言ってる事は全くもって意味がわからないが、さっき潮浬に言われた事絡みだろうか?


「えっと、それはそれでいいんじゃないかな。なにかをするにはモチベーションが必要だし。大切なのは、それが相手にとっていい結果に繋がるかどうかだと思うよ」


(だからこの場をなんとかして……)という思いが込められた俺の言葉に、千聡は弾かれたように顔を上げる。


 苦し紛れに出た言葉だったが、千聡には魔法のように効いたらしい。顔に、みるみる生気が戻ってくる。


 ……魔法のようにとか、俺も千聡達に毒されてきつつあるのだろうか?

 一瞬そんな事が頭をよぎったが、元気を取り戻した千聡は勢いよく立ち上がると、いつもの鋭さが戻った視線をピタリと潮浬に合わせる。


 ――だが機先きせんを制するように、潮浬が先に口を開いた。


「あら、陛下のお言葉一つでずいぶんと単純な事ね。やっぱり見返りを求めているんじゃないの?」


「たとえそうであっても良いと、魔王様がおっしゃってくださったのです。私にはそれ以上、なにも必要ありません。他人の評価などどうでもいい事です。……魔王様、私になにをお望みですか?」


 その言葉には、一片の迷いも感じられない。いつもの凛とした千聡が帰ってきた。


「と、とりあえず潮浬に落ち着くよう説得してくれると嬉しいかな」


「聞きましたね? 魔王様が迷惑しておいでです。今すぐ魔王様から離れなさい!」


 覇気が戻った千聡と。服を脱ぎかけという格好ながら、猛獣もかくやと言わんばかりの威圧感でにらみ返す潮浬。

 二人の間に火花が散っているのが見えるような、すごい気迫だ。


 千聡も潮浬も美人だけに、鋭い表情をするとゾッとするような恐ろしさがある。

 今にも殺し合いがはじまるのかと思うほどの緊張感に部屋が満たされるが、しばらくして潮浬がふっと視線をそらし。一転して弱々しく、涙さえ浮かべて俺を見る。


「陛下……陛下は、わたしの事がお嫌いなのでしょうか? もしそうであるのなら。肌を触れ合わせる事すら耐えられないという事であれば、それなら今日は諦めます。ですがもしそこまでではないのなら。一時間……いえ、30分で構いませんから、お時間を頂けないでしょうか? その間に終わらせますから……多分」


(多分?)


 ……一部引っかかる所はあったが、潮浬の表情は真剣そのものだ。

 だから俺も、真剣に言葉を返す。


「潮浬の事は嫌いじゃないよ。むしろ好きか嫌いかで言えば、かなり好きだと思う。俺なんかにはもったいないくらいだよ。でも子供を作るとかは、今はちょっと無理かな……」


 俺の言葉に。潮浬は一瞬キョトンとしたあと、ほほを赤く染め。嬉しそうに表情をほころばせる。


「そうですか……そのお言葉を聞けただけで、今日は満足です。もし本当に肌を触れる事すら耐えがたいと言われたら、二・三日は立ち直れない所でした。わたしとしても陛下の意に反するのは本意ではありませんから、今日は引きましょう。『今は無理』という事は、『いつか』を期待してもよろしいのですよね?」


「え……それは、そう……かな?」


「では、いつかその日が来る事を心待ちにしております」


 潮浬はそう言うと、俺の上からどいてくれ。シャツのボタンを留めはじめる。

 ……どうやら、今ここにあった危機は去ったようだ。


 て言うか、潮浬は『肌を触れる事すら耐えられない』なんて言われて、三日で立ち直れるんだ。メンタル強いな……俺が千聡に同じ事を言われたら、一生引きずる自信がある。


 ……潮浬は服を整え終わると、『また来ますね』と言葉を残して、部屋を出ていった。


 潮浬を見送って、ようやく身にまとう空気を和らげた千聡が、これまた一転。床にひざまずいて頭を下げる。


「――申し訳ございませんでした、魔王様」



 なんで千聡が謝るのかよくわからないが、どうやらこれは話を聞く必要がありそうだ……。

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