138 新しい剣
思えば色々あった年が暮れ、新しい年がやってくる。
年末はまったりと過ごす事ができ。新年も天川さん家の神社へ初詣に行って天川さんの巫女姿を拝みつつ、家内安全と千聡との恋愛成就を祈ったりして平和に過ごした。
千聡はキリストの誕生日を祝った一週間後に神社で神道の神様にお願い事をするのが不思議でしょうがない様子だったが、そんな事言ったら結婚式はキリスト教でお葬式は仏教だったりするからね。気にしたら負けだ。
そしてお正月の二日目にはリーゼがどこからか習字道具を持ってきて、『書初めしましょう!』と言いだしたので、みんなで書初めをする事になった。
恋愛成就は初詣で祈ったので、俺はとりあえず『平穏無事』と書いたが、実現してくれるといいなと思う。
ちなみに潮浬は気合の入った字で『大願成就』と書いていたが、大願がなにかは訊かない事にしよう。初詣の時は『陛下との子を授かれますように、陛下との子を授かれますように、陛下との子を授かれますように……』って、思いっきり声が漏れていたからね……。
リーゼは紙いっぱいにひらがなで『がんばる』と、元気のいい字を書いていて。これは何をがんばるのか訊いてもいい気がしたので訊いてみると、『閣下のお役に立てるようにです!』との事だった。
うんまぁ、リーゼも基本そっち側だもんね……。
そして千聡は、書道家みたいな達筆で『君臣水魚』と書いていて。これは普通に意味が分からなかったので訊いてみると、『本来の意味は主君と臣下が水と魚のように親しく交わる事ですが、私は主君と臣下は水と魚のような関係で、魚は水なしでは泳ぐ事はおろか生きる事すらできず。その懐に抱かれていて初めて息をし、能力を発揮する事ができるのだという意味で書きました』と解説してくれて、新年早々ちょっと引いた。
恋愛成就への道は、今年も険しそうである……。
そんなこんなで三が日も開けた1月5日。夕食後の一時に、千聡がなにやら緑がかった金属隗を部屋に運び込んできた。
「魔王様。シャルナーク卿とシェリル殿の件ですが、順調であるようです。まだ完全には吹っ切れていないようですが、少なくとも潮浬が滞在した部屋を片付けるように命じる程度には、シャルナーク卿の心はシェリル殿に向いているようです」
……一瞬意味がよく分からなかったが、なるほど。大好きな潮浬が過ごした部屋なら、そのまま永久保存しておいて自分だけのプライベートルームにする所だけど、それをやめたという話なのだろう。
俺も千聡が初めて部屋に来た時に座ったクッションを大事に保管していたりするので、気持ちはわかる。
そしてそれをやめたという事は、シャルナークさんの心はかなりシェリルさんに移っているのだろう。身を挺して護ってもらったもんね……。
「それはとてもいい事だと思うけど、その緑がかった金属隗はなにか関係あるの?」
「はい。これは先日のお詫びとお礼にと、シャルナーク卿から魔王様に献上されてきました」
「お詫びって、もしかして襲撃事件の事シャルナークさんにバレちゃった?」
「いえ。そうではなく、自分の恋愛絡みでこちらの手を煩わせてしまった事へのお詫びであるようです。シェリル殿からの丁寧な手紙が同封されていましたから、半分はシェリル殿からでもあると思いますが」
千聡はそう言いながら、ちょっと分厚い封筒を渡してくれる。
そこには日本語の綺麗な字で、まずは何度も襲撃事件と俺を人質に取ろうとした事へのお詫びが。そして罪を許してくれた事へのお礼と、シャルナークさんへの対応についての感謝が書き連ねられていた。
この日本語はきっと、シャルナークさんが潮浬のために日本語を覚えている時に、シェリルさんもシャルナークさんのためにと勉強していたのだろう。
その時は二人共一方通行の想いだったけど、今はそれが双方向になろうとしているのだ。ぜひとも上手くいって欲しいと願わずにはいられない。
そんな事を思いながら手紙を読んでいくと、俺へのお侘びとお礼は沢山。千聡にもそこそこ、リーゼにも多少あるが、潮浬にはほとんど触れられていなかった。
むしろ一番活躍したのは潮浬だと思うのだが、シャルナークさんの目をシェリルさんに向けるためだったとはいえ、シャルナークさんにナイフを向けた事を怒っているのだろう。
そしてそれは潮浬も同じらしく、手紙は潮浬、リーゼと回し読まれていくが、潮浬は冷たい目をしてなにも感想を言わなかった。
襲撃事件の事、まだ怒っているのだろう。
なにやら危なっかしいが、俺とシャルナークさんの関係が良好な内は二人共大人しくしていてくれると思うので、本当にシャルナークさんとの仲が上手くいくようにと祈らずにはいられない……。
「……ええと、それで結局その緑色した金属隗はなんなの」
そういえばと思い出して話を戻すと、千聡も改まった感じで答えてくれる。
「これは魔力を帯びた金属で、日本語に意訳すると『翡翠鋼』とでも申しましょうか。この世界でははなく元の世界で産する金属で、シャルナーク公爵家所有であった大変貴重な品になります」
魔力を帯びた金属……ファンタジー世界で言うオリハルコンやアダマンタイトみたいなものだろうか?
「触ってみてもいい?」
「もちろんです、どうぞ」
千聡に許可を貰って金属隗に近付き、そっと手を触れてみる……なんだか室温よりもずっと冷たく、氷のような感覚があった。
大きさはラグビーボールくらいなので、掴んで持ち上げようと力を入れてみたが、ビクともしない。
「これ、すっごい重いね」
「はい。現状で351キログラムあります」
「351!? 一桁多くない?」
「計測しましたので間違いありません。もっとも、魔力を流す事で重さや硬さが変わりますから、現状での参考値ですが」
……そう言われて改めて金属隗を見てみると、たしかに淡い緑色を放つ様子はこの世界の金属っぽくはない。
そしてこの世界の物でないとなれば、この世界の常識も通じないのだろう。
なんか俺、最近こういう案件への理解力上がってきたよね。
「……それで、この金属どうするの?」
「魔王様に献上された物ですから、魔王様にお決め頂けるとありがたく思います」
おおう、そうくるか……。
貰い物は今までにもいくつかあったから、前のみたいに保管しておくか千聡に任せればいいんだろうけど……。
「これ、なんか適した利用法とかあるの?」
「大変硬いので高い加工技術が必要ですが、装飾品にすれば希少で高価なものとなりますし、武器や防具にしても価値の高いものになります。元の世界でも産出量が極めて少ない、貴重な鉱物でしたから」
「へぇ……その武器に加工した時の価値って、実用性? それとも芸術性?」
「主に芸術性です。翡翠色に輝く美しさと希少性、加工難易度の高さから、最高級の逸品とされていました。実用性としては硬度は申し分ないのですが、重いので使い勝手が悪いですね」
「なるほど……」
そこまで聞いて、俺の中に一つの選択肢が浮かんでくる。
「ねぇリーゼ、350キロの刀って重くて使えないかな? 何キロならいけそう?」
「え……350キロくらいなら問題なく振り回せると思いますけど?」
おおう、それはすごいな。
「じゃあさ、これでリーゼの新しい刀を作ろうよ。ほら、前の刀エミクーシさんと戦った時に折れちゃったじゃない」
たしかあれもかなり貴重な品だと聞いた気がするので、ずっと気になっていたのだ。
「そんな、自分なんかのために申し訳ないです!」
……リーゼって、なぜか自己評価低めだよね。思いっきり恐縮しているがどうせ貰い物なんだし、仕舞っておくよりは有効活用できた方がいいと思う。
「千聡、どうかな? もしかして刀にするのはもったいなかったりする?」
「いえ。魔王様のお望みのままにお使いくださればよろしいかと。ただ……」
「ただ?」
「これで刀を打てる職人がこの世界にいるかどうかが不安要素です。リーゼ、両刃の剣タイプと片刃の刀タイプと、どちらが良いですか?」
「え、それは……昔閣下にいただいたのと同じ片刃タイプの方がいいですけど……」
「となると東洋の職人ですね……何人か候補がいますので当たってみます。それでよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
「あの、本当にいいんですか……?」
「恐れ多くも魔王様のご意向です。過度の遠慮は逆に無礼に当たりますよ」
「――はい、わかりました! ありがとうございます閣下!」
「うん」
リーゼはこういう時、とても切り替えが早い。
満面の笑みを浮かべて喜んでくれると俺も嬉しいし、いつも護衛とか買い物の荷物持ちとかでお世話になっているので、そのお礼にもなるなら一石二鳥だ。
そんな訳で千聡の調査を待ちつつ、金属隗はしばらくの間部屋の隅に置かれる事になったのだった……。
現時点での世界統一進行度……3.86%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力を26配下に
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
・天川さんを仲間に
・アフリカ全土の魔族を配下に
・リーゼの配下に武闘派42人
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『硬く鋭いが重い刀と、人並み外れた力があるリーゼの相性は最高だ。さすが魔王様、実に判断が的確でいらっしゃる。上に立つ者として得がたい才能だ』忠誠度上昇




